レースハイライト タイトル
dirt
2011年12月28日(水) 園田競馬場 1400m

この舞台なら役者が違う
トップハンデも貫禄の勝利

 このレースは創設以来、勝利したのがJRA所属馬だけ。その歴史にピリオドを打てる存在とファンの期待を一身に集めたのが、デビューから10連勝で臨んできたオオエライジンである。とはいえ相手も強力。ハンデ戦のJpnVにもかかわらず、JBCスプリントJpnTの1、2着馬が揃って顔を出してきたのだ。実績豊富の5歳両馬に対し、オオエライジンはダートグレードどころか古馬混合重賞も初めての3歳馬。設定されたハンデキャップがスーニと比較して5.5キロ軽いという点は有利に映るが、久しぶりの1400メートルという部分も含め、多くの不安があったことは否定できぬところだろう。
 しかしファンはオオエライジンに期待した。パドック周回中に表示された単勝オッズは、スーニ、セイクリムズンに肉薄する数字。地元ファンの熱い想いがひと目でわかるオッズだった。
 しかし実績馬2頭はやはり強力。スーニは目をギラギラとさせて、他馬どころか人間までも後ずさりさせかねないほどの威圧感。セイクリムズンもまた、磨き上げられた黒い馬体が深い輝きをみせていた。
 もう1頭、人気を集めていたのが昨年の3着馬、ラブミーチャン。前走のオッズパークグランプリで減った体重も回復して、この馬らしい力強い推進力が感じられる歩きを披露していた。単勝人気的には、上位4頭のまんじ巴。しかしながら、ファンの視線はオオエライジンに集中していたように思えた。ゴール前に陣取ってカメラを構える人の数は過去のダートグレードよりひときわ多く、そのシャッター音はオオエライジンが本馬場に入ってきたときにいっそう大きく聞こえてきた。
 ブラスバンドグループ「HBB」が奏でるファンファーレに拍手が起こるなか、レースはスタート。この相手ならと言わんばかりにラブミーチャンが先手を取っていく。対してオオエライジンはタイミングが合わなかったのか、スタート直後は後方3番手。それでもすかさず鞍上の木村健騎手はリカバリーすべく動き、1周目のゴール前ではラブミーチャンを射程圏内に捉える位置取りにまで追い上げていった。さらに向正面入口ではラブミーチャンとほとんど併走。積極的なレースぶりに観客の期待感は一気に高まっていった。
 ラブミーチャンとオオエライジンから視線を後ろに移していくと、スーニは後方2〜3番手という、小回りの園田競馬場では厳しいと思える位置取り。そんな状況を見てしまっては、地元ファンに胸の鼓動を高めるなというのは無理な相談である。そしてオオエライジンは3コーナーの入口付近でラブミーチャンを交わしにかかるが、ラブミーチャンも懸命に食い下がる。ファンのボルテージがいやがうえにも上昇していく4コーナーでの攻防だったが、その視界に加わってきたのは、やはりスーニの姿だった。
 馬群の外側を追い上げて、直線の半ばで先頭に立つ圧巻の走り。最後に瞬発力を発揮したセイクリムズンが2着に入り、オオエライジンは3着。それでもオオエライジンが3着に踏みとどまったことには、多くのファンは納得していた様子ではあった。
 そのレース内容に、オオエライジンを管理する橋本忠男調教師は「今後へのいい目安になったと思います」と笑顔でレースを振り返り、木村健騎手も「ゲートでイライラしていて後手を踏んでしまって。でも走ることが改めてわかりました。まだ遊びながらという面はあるんですが」と口にしながらも、「ゴールのあと川田騎手に『その馬、走りますね。一瞬ヤバイと思いましたよ』って言われましたよ」と、木村騎手もまた、今後に向けて確かな手ごたえを感じていたようだった。ちなみにオオエライジンの次走は佐賀記念JpnVとなる可能性が高いようだ。
川田将雅騎手
斤量の影響があったのか、前半はなかなか前に進むことができませんでした。でもスーニは自信を取り戻していますし、まず負けないだろうと思って乗りました。ゲートで少し待たされたことでテンションが上がってしまって位置取りも後ろになってしまいましたが、3コーナーあたりで先頭を射程圏に捉えられたので、そこで大丈夫だろうと思いましたね。地方の競馬場は得意ですし、どんなレースもできる馬。人気にも応えられてうれしく思います。
吉田直弘調教師
完全に川田騎手に任せていたので、道中の展開などは気にしていませんでした。それでもさすがに向正面では前と離れすぎていたのでドキドキしましたが、でもやっぱり強いですね。顔つきも変わってきて、いよいよ大人になってきたように感じます。厩舎に帰ってからレースビデオを見て研究して、また次のステップに挑んでいきたいと思います。

 しかしながら、そのはるか上を駆け抜けていったのがスーニ。「多少、ハンデが重かった」と川田騎手は振り返っていたが、内容的には他馬を圧倒。全身から発散される雰囲気はまさにチャンピオンの貫禄で、スーニ帝国はしばらく安泰であろうことを想像させられた。次はどこに照準を合わせるのだろうか。スーニとオオエライジン、そして2着に食い込んだセイクリムズン、さらに「立て直します」と柳江仁調教師が言葉を残したラブミーチャン。それぞれの2012年が実り多き年になることを祈りたい。
地元期待のオオエライジンは3着に敗れた

取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)