直線突き放し5馬身差圧勝
岩手に戻って二冠制覇
昨年、地方全国交流として復活したダービーグランプリは、地元のロックハンドスターが制し、岩手三冠馬誕生でこれ以上ない盛り上がりを見せた。そのロックハンドスターは今年、震災の影響でJRA東京競馬場での開催となったマイルチャンピオンシップ南部杯JpnTに岩手代表として遠征。しかしレース中の骨折で帰らぬ馬となってしまった。今回のダービーグランプリは、その追悼の意味を込め『ロックハンドスターメモリアル』のサブタイトルを冠して行われることになった。
例年であればこの時期の岩手競馬は盛岡よりも雪の影響が少ない水沢での開催となるが、水沢競馬場は震災からの復旧に時間を要し、舞台は盛岡競馬場に。この日の盛岡市内は最高気温が3度と冷え込んだ。それでも、水沢や北上あたりが雪に覆われたことを思えば、逆に晴れ間ものぞいた盛岡競馬場での開催は幸運だった。
南関東から4頭、東海地区から2頭が遠征の予定だったが、川崎のジャクソンライヒが輸送前のアクシデントで出走取消。人気は、やはり実績にまさる南関東勢3頭に集中。なかでも東京ダービー3着や、ジャパンダートダービーJpnT・4着が光るキスミープリンスが単勝1.3倍の断然人気となった。
レースが動いたのは3コーナー。急遽内田利雄騎手に乗り替わった大井のピエールタイガーが、好位追走から絶好の手応えで先頭へ。外から地元期待のカミノヌヴォーが迫り、直後にキスミープリンスも続いた。
4コーナーではカミノヌヴォーがピエールタイガーに並びかけ、直線では2頭の一騎打ちに。しかし直線半ばの坂のあたりからカミノヌヴォーが徐々に突き放しにかかると、ピエールタイガーに5馬身差をつける圧勝となった。名古屋のミサキティンバーが外からピエールタイガーに迫ったもののハナ差で3着。キスミープリンスは4着だった。
勝ったカミノヌヴォーは、岩手デビューで2歳時は地元で6戦5勝、2着1回(ほかに中央1戦着外)。シーズン終了後、期待されて大井に移籍したものの南関東では3歳三冠路線に乗れず、8月になってようやく古馬C級で2勝。一方、岩手ではこの世代ナンバー1の存在だったベストマイヒーローが脚部不安で戦線離脱。“鬼の居ぬ間に……”ではないが、カミノヌヴォーは再びの活躍を願っての岩手復帰となった。その期待どおり、A級二組戦、不来方賞をともに圧勝で連勝して臨んだ大一番だった。
今回は地元のアンダースポットが楽にハナを奪うスローペース。ジャクソンライヒ不在でペースが上がらなかったことも、カミノヌヴォーには幸運だった。それゆえ勝ちタイムは、同じコースで行われた不来方賞よりもわずかコンマ1秒速いだけ。たしかに南関東在籍時の実績でいえば、南関東から遠征の3頭より劣る評価とされるのは当然ともいえる。しかし、「調教で掛かり過ぎるようになってきたんですが、かえってそれがいい方向に出たと思っています。展開など、すべてがうまくいきました」とは、今年5月に厩舎を開業したばかりで、あらたにカミノヌヴォーを管理することになった千葉幸喜調教師。展開が向いたこともあったが、南関東時代より力をつけていたことも確かだろう。
岩手の3歳世代に、またあらたなスター候補が誕生した。
阿部英俊騎手
ゲートの中でちょっとうるさくて出遅れは覚悟していましたが、毎回先行しているので、ペースが思った以上に遅くて、やっぱり行きたがるところはありました。不来方賞のときより抜群の手応えだったので、もしかしたら勝てるのかなと思いました。最後は思った以上に伸びました。今回はロックハンドスターメモリアルということで、そういうときに地元の意地を見せられたので、ほんとによかったと思います。
千葉幸喜調教師
正直なところ、善戦できればいいと思っていました。南関東にいたら一緒に走ることのない(クラスの)メンバーだったので、僅差の勝負をしてほしいとは思っていましたが、まさか勝てるとはびっくりしました。ゲートに行っていたのでレースはあまりよく見ていないのですが、3コーナーあたりでは、もしかしたらと思いました。オーナーさんとの相談になりますが、できれば桐花賞に行きたいと思います。
この日で岩手での期間限定騎乗を終えた内田騎手は2着
取材・文:斎藤修
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)