直線一気に突き放し8馬身
スターホース誕生の予感
ホッカイドウ競馬から中央競馬へ移籍した馬で初めてクラシックウィナーに輝いたドクタースパートが、10月28日にこの世を去った。平成元年の皐月賞、サクラホクトオーが単枠指定されたとはいえ、弥生賞で大敗した時と同じ不良馬場で、他馬にもつけいる隙は十分にあった中、後にダービー馬に輝くウィナーズサークルの猛追を退けて栄冠を手にした。
ドクタースパートは、札幌1200メートルで行われた北海道3歳優駿を、1分11秒8のレコードで勝利を収めた。今の札幌の芝コースが、まだダートコースだった最後の年のこと。不良馬場で時計の出やすいことは明らかだったが、中央の札幌ダート1200メートルの2歳レコードも更新したスピードに、中央の舞台でも…と誰もが思い、ドクタースパートは夢を現実のものにした。
平成に入った北海道3歳優駿は、年齢表記の変更に伴い中距離戦に様変わりし、1997年からJRAとの交流重賞として実施されるようになった。過去14回のうち、JRA6勝に対し、地元・北海道は8勝と互角以上に結果を残してきた。しかし、今年のホッカイドウ競馬勢は、JRA北海道シリーズで初めて、2歳戦で勝利を収めることができず、エーデルワイス賞JpnVでもJRAのシェアースマイルの後塵を拝し、JRA交流では苦戦を強いられている。
北海道2歳優駿JpnVでも、ダートに矛先を替えて未勝利、プラタナス賞と圧勝したオーブルチェフが参戦。単勝支持率でも75.3%と驚異的な支持を集め、その走りが焦点となった。
ラブミーチャンの半弟で武豊騎手が騎乗することでも注目を集めたダブルスターが予想通りハナに立ち、前半3ハロン37秒2のスローな流れに。ホッカイドウ競馬のペースなら、向正面に入った後に13秒台のラップがどこかに刻まれ、息の入る展開になるが、さすがにダートグレード。向正面に入ってからもラップが落ちることなく、だんだんと縦長の展開になっていった。オーブルチェフはいつでも前を捕らえられる態勢で進んだが、直線に入ると後続を一気に突き放し、結局8馬身差の大差をつけて重賞初制覇を飾った。
レースラップは、13秒0−11秒7−12秒5−12秒7−12秒6−12秒6−12秒6−12秒7−12秒7。このラップを見れば一目瞭然、3ハロン以降は寸分狂いのない流れだった。このペースでは、地元勢は正直苦しかったが、最先着3着のシーキングブレーヴは、JRAに挑戦したり、ダートグレードのエーデルワイス賞JpnVで厳しい競馬を経験していることが功を奏した。
「未勝利戦を勝った時から、当分負けない自信がありましたが、こういう感覚はレーヴディソールに新馬戦で乗せていただいた時以来の感触です」と、中館英二騎手はゾッコンだ。
離された2着にはJRAのベルモントレーサーが入線したが、「4コーナーを回る時はひょっとしたら…と思う手応えでしたが、直線ではまったく追いつきませんでした。いやあ、相手は相当強いですね」と、津村明秀騎手も脱帽だ。
プラタナス賞で2着だったスターバリオンに騎乗した藤岡佑介騎手も前走後、「自分の馬も手応えが抜群でしたし、伸びてもいるんですが、逆に突き放されるんだから、相手が悪かったとしか言いようがないですね」と話していたが、2着に敗れた騎手たちが同じようなコメントを残すところに、オーブルチェフの凄さがわかる。
乗り味を考えると、芝でも…の期待を寄せているが、それは全日本2歳優駿JpnTをクリアしてからの課題となるか。いずれにせよ、ドクタースパートが成し遂げた夢の再現に向け、JRA所属馬とはいえホッカイドウ競馬の舞台から将来のスターホースへと輝く逸材が誕生したのは確かだ。
中館英二騎手
10キロ増でも外見上はきっちり仕上がっていたし、馬がまだ成長している段階。それだけに、初ナイターなど気性面での不安もありましたが、レースに行けば何の問題もなかったですね。乗っていて速さを感じないのに、直線ではどんどん突き放している馬で、底知れぬ強さを感じます。まだ良くなってくると思いますし、今後ますます楽しみですね。
取材・文:古谷剛彦
写真:中地広大(いちかんぽ)
写真:中地広大(いちかんぽ)