レースハイライト タイトル
dirt
2011年11月3日(祝・木) 大井競馬場 2000m

圧倒的なスピードで連勝
ドバイへ向けた戦いは続く

 スマートファルコンとトランセンドに人気が集中するであろうことは予想されたが、最終的に馬連複が100円元返しになると想像できた人はいただろうか。
 当初はエスポワールシチー、フリオーソも参戦する意向を示し、現役ダート4強の直接対決がここで実現するかに思われた。しかしフリオーソは日本テレビ盃JpnUでの競走除外から完調とまではいかずに回避。エスポワールシチーもマイルチャンピオンシップ南部杯JpnTでの4着敗退が納得いかなかったか、6日のみやこステークスGVへ回ることになった。
 4強のうち2頭が抜け、残る2頭の実力が断然で、馬券的な興味には欠ける組合せとなった。しかし昨年のJBCクラシックJpnTから6連勝中のスマートファルコンに、ドバイワールドカップ2着で世界レベルの実力を見せつけたトランセンド、2強の激突は、おおいに興味をかき立てられる一戦となった。先行タイプの2頭がどんな駆け引きでレースを進めるのか、そして結果はどうなるのか。
 結果から言ってしまえば、スマートファルコンが勝ち、トランセンドが1馬身差で2着。3着のシビルウォーには3馬身半差で、4着馬には大差がついた。
 2強での決着。しかしこれを一騎打ちと言っていいものかどうか。
 一騎打ちと言えば想像するのは、2頭が馬体を併せて激しく叩き合い、その後ろには差がついているような状況だろう。
 スマートファルコンは、トランセンドよりもひとつ外の枠だったにもかかわらず、今回も単独で逃げた。トランセンドの藤田伸二騎手もそうした展開を想像していたのか、競りかけてはいかず2番手に控えた。向正面では2頭の間に3〜4馬身ほどの差がついた。スマートファルコンのひとり旅といってもよい。
 4コーナーではスマートファルコンの武豊騎手の手綱はまだがっちりと押さえたままだったのに対し、3コーナーから差を詰めてきたトランセンドの藤田騎手は早くもムチを入れた。そして直線ではスマートファルコンが引き離しにかかり、そのまま圧勝かにも思えた。しかしゴールが近づくにつれ、トランセンドがじわじわと差を詰めた。その差を1馬身まで詰めてのゴール。
 直線の後半では、武豊騎手がステッキを抜いて、必死に追う姿あった。
 見ていてドキドキする展開だった。

 勝ったスマートファルコンにとって、2着との1馬身差は、昨年のJBCクラシック以降では、もっとも小さい着差だ。やはりそれだけ力は接近していた。
 藤田騎手は、「相手のほうがスピードがあるから、こういう競馬も覚えさせないと。結果は悲観はしていないです」と、スマートファルコンを行かせるだけ行かせて、最後に差し切るというレースをイメージしていたのだろう。結果的に交わすまでには至らなかったものの、見せ場はつくった。
 スマートファルコンの単独逃げではあったが、トランセンドの藤田騎手は4〜5馬身以上には差を広げられることはなかった。おそらく両騎手の間には相当な駆け引きがあったに違いない。馬体を併せることは一度もなかったが、内容的には一騎打ちと言ってもいいのではないか。
 スマートファルコンの立ち場は、この1年で大きく変わった。それまでにも重賞はいくつも勝っていたが、昨年のJBCクラシックは4番人気という評価。しかしそこでJpnT初勝利を挙げると、ここまで連戦連勝で7連勝。重賞はじつに17勝目となった。
 スマートファルコン陣営には、来春のドバイへの挑戦が、いよいよ現実のものとして近づいてきた。「最終目標はドバイに置いているので、そこに行けるようにローテーションを組んでいく」という小崎憲調教師のコメントは、前回の日本テレビ盃JpnUのときから変わっていない。
 トランセンド陣営も、当然のことながら前回2着だったドバイワールドカップが目標となるのだろう。
 ドバイの地で、再びこの2頭の一騎打ちが見られるのかどうか。楽しみに待ちたい。
武豊騎手
いいスタートが切れましたし、あとはいつもどおり自分のレースをするだけだったので、何も迷いはなかったです。相手も強いですから、最後まで気は抜けなかったです。(5年連続JBCクラシック制覇は)いい馬に恵まれているからで、この馬で連覇できたこともよかったです。今日はこの馬らしいレースができました。来年のドバイにはぜひ行きたいですね。
小崎憲調教師
ジョッキーともレース前に入念に打合せしました。とにかくこっちが逃げることを想定して、どこから動いていくかも想定して、ファルコンの競馬をするしかないというのが結論で、その通りの競馬をしてくれました。どこまで強くなるか、僕らもわからないですから、このままもっともっと連勝を続けて、ドバイまでいければと思います。

頂点を目指しスタートを切る12頭
4コーナー、逃げるスマートファルコン(中央)を捉えにいく
トランセンド(右から2頭目)
3万3000人の観衆が世紀の名勝負に酔いしれた

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR