前走に続き差し脚炸裂
今後へ期待がふくらむ勝利
昨年はレース直前に滝のような雨が降ったが、今年は朝から青空。ファンも午前中から続々と集まり、場内は昨年以上の賑わいでとても火曜日とは思えぬほど。券売機の前にもレースごとに長い列ができて、行列をさばき切る前に締め切りブザーが鳴るケースも多く見られた。
しかし昨年にしても、メインレースこそ大雨だったが、その直前までは曇りの天気。ならば、この客足のよさは天候とはあまり関係がないだろう。どうして今年はこんなに場内が混雑し、白山大賞典JpnVのパドックの周囲が人々で埋め尽くされるのか。その答えのひとつは、私の近くにいた若者が携帯電話で話す声に教えられた。
「武豊を見たいって、母ちゃんが言うからさあ」
昨年と今年の大きな違いは、武豊騎手の参戦。競馬をよく知るファンと、そこまでではない人々との違いは、おそらくここにあるのだろう。地上波のバラエティー番組にも多く出演し、国民的知名度が高い武豊騎手。競馬人気が以前の姿を取り戻すためのひとつのカギは、案外このあたりにあるのかもしれない。
しかしながら、競馬をよく知るファンも負けてはいない。白山大賞典のパドックで各騎手が出走馬にまたがったとき、観客から掛けられた大向こうの声は、武豊騎手に向けてより「吉原!」のほうが多かった。吉原寛人騎手が騎乗する地元の王者、ジャングルスマイルの単勝オッズは、JRAの上位4頭に遠く及ばぬ5番人気。それでも地元ファンの熱い期待は、JRA所属馬以上のものがあると感じさせられた。
ジャングルスマイルは昨年の2着馬。今年はそれ以上があるのだろうか。
スタート後の先行争いは4頭によってしばらく続いたが、最初の3コーナー手前でJRAのダノンエリモトップが先頭、2番手にジャングルスマイルという形になり、その直後でJRAのニホンピロアワーズとメイショウタメトモが流れに乗る形。3番人気のシビルウォーは例によって後方からという位置取りで、最初のゴール板を迎えた。
ジャングルスマイルはそのままなんとか頑張れないものか。地元ファンのそんな願いは、2周目の3コーナー手前で悲鳴にも似たため息に変わってしまった。ジャングルスマイルが先頭に立ったそのタイミングで、ニヒンピロアワーズとメイショウタメトモが追撃にかかり、一気に先頭、2番手に替わったのだ。3番手に下がったジャングルスマイルと吉原騎手は、それでも離されないようにと懸命に食い下がる。その3頭の動きをよそに、一気に上昇してきたのがシビルウォー。先行した各馬を痛快にまくり切って、重賞連勝を飾るという結果になった。
「いやあ、うまくいきすぎ!」と、快心の笑顔でシビルウォーを出迎えたのは、戸田博文調教師。2着がニホンピロアワーズ、3着がメイショウタメトモで決着した3連複は260円という配当だったが、シビルウォーの破壊力は強烈な印象を残した。
そして地元期待のジャングルスマイルは、3着から3馬身差の4着。 「完全に自分のペースで行けました。でも今年は相手が強かった。完敗です」と、吉原騎手はサバサバした表情をみせていた。
それにしても、シビルウォーの決め脚は見事なものだった。
「ブリーダーズゴールドカップを勝って、レースを選べるようになったことが本当に大きいですね。その前は賞金が足りなくて、盛岡のマーキュリーカップに出られなかったわけですから」と、戸田調教師。重賞2勝の実績があれば、しばらく除外の心配もないだろう。この先のダート中長距離路線は、個性的な脚質のシビルウォーが盛り上げてくれそうだ。
吉田豊騎手
道中は後方の位置取りでしたが、先頭からはあまり離されないようにと思っていました。それでも前にいる頭数も少なめでしたし、早めに外に出して仕掛けていこうとしたら、馬のほうが勝手に動いてくれました。力のいるダートは合っていますし、この先も交流重賞で活躍してくれると思います。
戸田博文調教師
前に行かせようとしても行けないタイプですが、そのあたりは吉田豊騎手がよく知っていますから。いつものように後半から上昇していって、あとはまくり切れるか前の馬に粘られてしまうか、それだけだろうなと思いながら見ていました。こういうレースしかできませんが、それでもだんだん成長して、走りも安定してきましたね。次は浦和記念を予定しています。
1周目スタンド前
地元ファン期待のジャングルスマイルは4着だった
取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ) 、NAR
写真:桂伸也(いちかんぽ) 、NAR