第1戦 |
第2戦 |
先輩のアドバイスで会心の騎乗
自身の存在を全国にアピール
高知の名物レースとしてすっかり定着している全日本新人王争覇戦が、1月16日、中央2名、地方8名、計10名の騎手を迎えて行われた。
デビュー3年以内で、まだまだ成長途上にある若手騎手が集うこのレース。一生に一度しか出られないレースのため、当然、毎年顔ぶれも変わり、様々なジョッキーが各地から集結するが、今年JRAからは、成長著しい川須栄彦騎手、高倉稜騎手が参戦。そして、地方からはすでに100勝以上を挙げ、勝率約1割、連対率が2割を超える佐賀の石川慎将騎手が出場。その他にも、トランポリンで世界ランキング11位になった経歴がある兵庫の高畑皓一騎手など、今年の新人王争覇戦は、例年以上に多彩な布陣が顔を揃えた。
そして迎えた第1戦でさすがの存在感を見せたのが、一昨年の18勝から昨年一気に91勝(ほかに地方3勝)を挙げJRAリーディング6位に大躍進した川須騎手だ。8番人気のプレナスに騎乗した川須騎手は、レース途中で人気となっていた石川騎手や兵庫の山田雄大騎手が先に動いていっても、慌てず騒がず中団のインを追走。3コーナー手前から追い上げに入り、直線は先に抜け出した馬達の外に進路を取ると、全身を大きく使ったダイナミックなフォームでぐんぐん追い上げる。その気迫にプレナスも応えた。ゴール前で山田騎手を交わし、最後は余裕の手応えでゴールインした。その豪腕ぶりに、検量室で見ていた赤岡修次騎手が、「川須君は上手い!追えるね〜。地方の騎手でもあんなに追える騎手はなかなかいないよ」と絶賛するレースぶりだった。
引き上げてきた当の川須騎手は取材陣から、おめでとうございます、と声をかけられると、「ありがとうございます」と爽やかな笑顔。「スタートはそんなに速くないと聞いていたんですが、ちゃんと出ましたからね。馬場の良い所を走れたし、前でやり合う形だったから、最後はきっちり差せました」と振り返り、初めて高知で騎乗したことを全く感じさせないその冷静さには、去年大活躍の理由を十分に感じさせるものがあった。
続く第2戦。1戦目で強烈な追い込みを見せた川須騎手が、今度は積極的な逃げの手に出る展開となった。スタート後、川須騎手のシルクゴーオンが内から、外から高畑騎手のニューディケイドが行く構えを見せるが、1コーナーではその逃げ争いに決着がつき川須騎手がハナで高畑騎手は2番手。この2頭が後続を引き離し、レースは縦長となった。しかし川須騎手の見せ場はここまで。代わってこのレースの主役となったのは1コーナーでスっと番手に控えた高畑騎手だった。3コーナー手前で前を捉えて先頭に立ち、4コーナーで後ろに6馬身ほどのリードを保ち直線へ向くと、そのまま押し切っての楽勝。ついていった馬達は失速する流れとなり、後方にいた笠松の森島貴之騎手が外から追い込み流れを味方につけての2着。高畑騎手圧勝のパフォーマスンスが際立つ結果となった。
実は高畑騎手、この新人王争覇戦の前に、兵庫の先輩ジョッキーから高知競馬場での乗り方をアドバイスされていたとのこと。その内容とは、「スタートは行くだけ行って、1〜2コーナーはゆっくり周り、最後の直線はしっかり追ってこい」というもの。この後、改めてレース映像を見直して驚いた。高畑騎手、確かにゲートを出た後は積極的に行く気を見せ、1コーナーではハナを譲り冷静にコーナリング。先輩からのアドバイスを絵に描いたようなレースぶりを見せ、早めに先頭に立つと力強く押し切ったのだから、あっぱれと言うほかない。
追い込みあり、積極策ありと、大いに沸いた今年の全日本新人王争覇戦。結果は、狙い通りの競馬で第2戦を制し、1戦目は4着だった高畑騎手が29ポイントで第26代の全日本新人王に輝いた。兵庫の騎手が優勝するのは、2001年の西川進也騎手以来、11年ぶり。高畑騎手は先輩騎手から「優勝しなかったら帰ってこなくていい(笑)」とも言われていたそうで、「とにかく嬉しい。今年は良いスタートが切れました。この3年は落馬での怪我など色々あって結果をあまり出せなかったけど、ここから初心に帰ったつもりで、一頭一頭大事に乗って行きたい」と喜びを語り、早くも今後に向けて気持ちを新たにしていた。
そして、第1戦を制しながら、2戦目では殿負けとなってしまった川須騎手は21ポイントで5位。「2戦それぞれが極端なレースとなったのは僕らしいですね」と話し、「でも負けたレースも勝ちに行っての結果なので」と納得の表情。「今日は同世代の騎手達とレースができて良い刺激になりました。デビュー3年目。もっと上を目指したいし、今年は重賞を勝ちたいですね」と目標を語る目には力強いものがあった。確かに入賞はできなかったが、“JRAの川須”の名前を、高知の、そして全国の競馬ファンに十分印象付けることができたのは間違いないだろう。
そうなのだ。この全日本新人王争覇戦を取材していて、去年も今年も思ったことなのだが、このレースの醍醐味は、騎手にとってはレースを通じファンや競馬関係者に自分の存在をアピールできることで、ファンにとっては今後伸びそうなジョッキーの原石を見つけられることではないだろうか。それは優勝した高畑騎手が表彰式で、「これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします」と力を込めた言葉にも集約されているように思う。
この日、高知競馬場に集まった10人の騎手は、明日からはまた、それぞれの闘いの舞台で修練を重ねていく。何年か後、この中からリーディング上位を賑わせ、重賞戦線で活躍するジョッキーは誕生しているだろうか。または自分だけが見つけたと思う未来のトップジョッキーがいるならば応援し続けてもいいだろう。そんなことに注目しながら各騎手を追いかけてみるのも、面白いかもしれない。
取材・文:小島友実
写真:桂伸也(いちかんぽ)
写真:桂伸也(いちかんぽ)
高畑皓一騎手
(兵庫)
石川慎将騎手
(佐賀)
森島貴之騎手
(笠松)