2010年5月4日(祝火) 園田競馬場 1870m
次元の違うレースぶり、底知れぬ走りで大楽勝
バーディバーディにとっては、威信をかけた一戦だっただろう。3走前のヒヤシンスステークスで5着に負かしたマカニビスティーが、大井の羽田盃をハナ差で2着。その羽田盃には松岡正海騎手もポシビリテに騎乗して参戦していた。6着だったその背中から見た、はるか先の首位争い。その比較なら、ダートで負けるわけにはいかなかったはずだ。ファンもそれは承知したもので、場内のテレビ画面に表示されたオッズは1.3倍の断然人気。JRA勢5頭のうち4頭が10倍以下ではあったが、その注目度は明らかに群を抜いていた。
そしてファンの目は正しかったことが、ほどなくして証明された。JRAのタマモアルプスとミッキーデジタルが引き離して逃げる流れを自分のペースで追走し、2周目の向正面で外に出した瞬間に、スタンドの観客からため息が出るような行きっぷり。懸命に押して粘らせようとするタマモアルプス鞍上の藤岡佑介騎手が可哀想なほど、次元の違う伸び脚だった。
そして直線も持ったまま。残り100メートルからは流しにかかり、最後の4完歩は松岡騎手が左手を観客側に突き出してゴール。まさに「凄い」としか言いようがないほど、実力の差を見せつけた走りだった。
その圧勝ぶりには敬服せねばならないが、じつはこのレースでもっとも観客のテンションが上がったのは最後の4コーナー。実況の竹之上次男アナが「3番手にフィオーレハーバーが上がってくる!」と叫んだその瞬間だった。JRA勢に上位を独占され続けた過去8年間で、3着以内に入った地元勢は07年のエンタノメガミ、06年のジョイーレのみ(ともに3着)。地元からなんとか、という想いは、園田競馬場に来場した誰もがもっていたのだろう。2着争いに加わるフィオーレハーバーには大きな声援が自然発生。そして差なく突っ込んできたハイパーフォルテの姿に驚きと拍手。結果はそれぞれ3着と4着だったが、兵庫チャンピオンシップを盛り上げたのは、間違いなく地元代表の2頭だった。
さて、圧勝のバーディバーディ。これだけ別格の走りを見せつけられては、今後への期待は自然に高まってしまう。池江泰郎調教師も「ゴールドアリュールに匹敵するかも」と、かつて自身が手がけた名馬を引き合いに出すほどだから、近いうちにダート界の世代交代が果たされることになるのかもしれない。
松岡正海騎手
最初はアースサウンドを目標にと考えていましたが、2周目の向正面で仕掛けたら抜群の手応えで、これなら後ろの馬はついてこられないだろう思いました。勝利を確信したのは3コーナーの手前あたりですね。あとはもう本当に楽でした。ダートでは同世代の誰もがこの馬にはかなわないでしょう。それだけの器だと思います。
池江泰郎調教師
オーナーと相談して、勝算ありと見てここに出走させることにしました。先行力がありますから小回りもピッタリですし。松岡騎手に位置取りなどは任せると伝えましたが、すごい勝ち方でしたね。ゴールドアリュールに匹敵するくらいかもと思うくらいです。賞金を加算できたので、次は日本ダービーに向かいます。競走馬にとって、一生に一度の最高の舞台ですからね。道悪にでもなれば面白いんじゃないかなあ。
そして、3〜4着に入った地元2騎。3着のフィオーレハーバーは「初めて砂をかぶらせたので、行き脚がつかなくて。でもこれがいい経験になるはず」(木村健騎手)と、兵庫ダービーに向けての手応えは確か。4着のハイパーフォルテも「体重が減っていたので大丈夫かと思っていましたが、根性をだしてくれました。ダービーが楽しみになりましたね」と、田中学騎手。こちらも期待が高まる走りだったようだ。
次の舞台は違うが、それぞれの道が大きく開けた兵庫チャンピオンシップ。各馬の今後が本当に楽しみになる一戦であった。
次の舞台は違うが、それぞれの道が大きく開けた兵庫チャンピオンシップ。各馬の今後が本当に楽しみになる一戦であった。
取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)
写真:桂伸也(いちかんぽ)