2010年10月5日(火) 金沢競馬場 2100m
重賞初挑戦も6馬身差圧勝
地元期待馬も声援にこたえ善戦
正午前からパラパラと雨が降っていた金沢競馬場。ときには陽射しも注ぐほど天気はコロコロと変わったが、パドックに白山大賞典JpnIIIの出走馬が登場したときには強めの霧雨。そのなかで観客は、ひたすら騎手の騎乗合図を待っていた。金沢競馬場にとっては年に1度のダートグレードゆえ、地元客も雨に負けてはいられない。しかし多くの観客は最終周回の途中で、スタンドのなかへと逃げ込んでしまった。
それもそのはず、今年の白山大賞典は地方競馬所属馬で占められたゼッケン6番以降の単勝オッズが100倍以上。1番から5番までが固まった上位人気で、そのなかには地元・金沢のジャングルスマイルも入っていた(5番人気=21.9倍)ものの、ほとんどの観客の目当てはJRA所属馬4頭なのだから、その行動はある意味当然かも。単勝オッズもその4頭が6倍未満という圧倒的な数字になっていた。
小雨は降り続いていたが、本馬場入場のときには向正面の奥に虹がかかっていたスタンドからの景色。しかし、締め切りのベルとほぼ同時に集中豪雨といっていいほどの雨が襲いかかってきた。空は一気に暗くなり、馬場の照明も点灯。ダートコースはみるみるうちに水びたしとなった。
その大雨のなかゲートは開き、ジャングルスマイルがJRA勢を引き連れて逃げる流れに。隊列は上位人気5頭と下位人気6頭が2分割される形で、2周目へと進んでいった。
そこで異変はおこった。
2周目の3コーナー手前で後続を引き離しにかかったジャングルスマイルに詰め寄っていくはずのJRA勢の動きが悪いのだ。コスモファントムは松岡正海騎手が猛烈に追っても行き脚がつかず、ロールオブザダイスは逆に置かれていく状況。フサイチピージェイも鞍上のアクションのわりにスピードがあがらない。もがくJRA勢のなかで唯一差を詰めていったのが、今回が重賞初挑戦となるパワーストラグル。最終4コーナー手前では先頭に立ち、ジャングルスマイルが追いすがるという展開に変わっていった
そこでまた異変がおこった。
パドックではほとんどなかった地元馬への声援が、スタンドからあふれ出てきたのだ。オッズから察せられるとおり、その多くは馬券と関係のない純粋な応援だろう。3番手のコスモファントムが差を詰めてくるとその声はさらに大きくなり、ジャングルスマイルが2着を死守したときには、驚きと喜びが錯綜したような空気があちらこちらで醸成されていた。
そのジャングルスマイルを管理する金田一昌調教師は、「一緒に走る馬がいればいくらでも行けるタイプだから、逃げたくはなかったんですよね。外枠だったらなあ。勝ちたかったですよ」と、悔しそうな表情。
吉原寛人騎手は、「内枠でしたし雨もひどかったですし、もう行くしかなかったですね。勝負どころで後続との差が開いて『よしっ』って思ったんですが、勝ち馬には馬なりで交わされてしまいました。外枠なら2〜3番手から競馬したんですが……」
それでも2人とも今後への手応えはつかんだよう。この先どういった路線を歩んでいくのか、注目の存在になったことは確かだといえそうだ。
後藤浩輝騎手
道中2〜3番手というのは予定どおりでしたが、逃げているのが予想と違う馬。それがどのくらいの実力かわからなかったので、2周目の3コーナー手前から気合を入れつつ仕掛けていきました。レース展開としては理想的で馬自身にもすごく余裕がありましたが、6馬身差は想定外ですね。でも、まだまだ底は見せていないと思いますし、軽いダートも走れることがわかったのも収穫になりました。
加藤征弘調教師
前走(9月18日の1600万下)を勝ったあと、中山競馬場でこのレースの登録馬を見たら出られることに気づいたので、放牧の予定を変更して出走することにしました。前走後の調子も引き続きよかったんですが、それにしてもこんなに急に強くなるなんて本当にビックリですね。次走はオーナーと相談して、この馬に合うレースを選んでいきたいと思います。来年の川崎記念あたりを目標にですか? いいですねえ(笑)。
そして6馬身差で勝利をおさめたパワーストラグル。今後の予定は未定ながらも、この勝利には陣営も自信を深めた様子。一気に重賞ウイナーにまで駆け上った同馬の将来も、同様に楽しみだ。
それにしても、出走馬のなかでダートグレードレースの勝ち馬がロールオブザダイスだけだったというメンバー構成は、今後の重賞戦線を考えるとちょっと気になるところ。この一戦が今後のダート界の変化の先駆けという可能性は、否定できないのかもしれない。
取材・文:浅野靖典
写真:宮原政典(いちかんぽ)
写真:宮原政典(いちかんぽ)