2011年1月17日(月) 高知競馬場
第1戦 |
第2戦 |
歴史を感じる若手騎手の争い
経験と実力の南関東勢が活躍
日本列島全体を寒気がすっぽりと覆ったここ数日。この前日には名古屋競馬が雪のため開催中止となり、この日と翌日の笠松競馬も中止が決定。交通機関も各地で乱れていた。南国土佐もこの週末には雪がちらつき、明け方は氷点下まで冷え込んだという。この日も風はかなり冷たかったが、空が真っ青に晴れ渡ったのは何よりだった。
高知の名物レースとして注目を集める全日本新人王争覇戦も四半世紀の歴史を重ねた。
初期のこのレースに出場した騎手のほとんどは調教師になったり、引退したりしているが、第1回の出場騎手の中にもいまだ現役の騎手がいる。川崎の岩城方元騎手と、佐賀の吉田順治騎手だ。
第2回で3着に入ったのは、NARグランプリ2010の最優秀勝利回数調教師賞に輝いた田中守現調教師(高知)で、今はなき紀三井寺の代表としての出場だった。その4着、高知の西川敏弘騎手は、昨年12月19日に高知所属騎手としては最多勝記録となる2243勝を達成した。
第3回は、3着・吉田稔騎手(名古屋)、4着・北野真弘騎手(当時高知、現兵庫)、5着・赤木高太郎騎手(当時兵庫、現JRA)、6着・中西達也騎手(高知)と、現役を続けているのは各地のトップジョッキーばかりだ。
そうした歴史を重ねてきた新人王争覇戦は、時とともに雰囲気も変わってきた。
90年代までは地方競馬でも全国からたくさんの新人騎手がデビューしていたため、出場騎手も全国各地から集合した。ところが今年は出場10名中、半数の5名が南関東の所属。かつて激戦区の南関東デビューの騎手といえば、新人のうちはなかなか騎乗機会に恵まれず、それゆえこの新人王争覇戦というレースでもあまり目立たないような印象があった。近年、南関東所属騎手の出場が増えたのは、残念ながらデビューする騎手自体の数がかつてほど多くなく、それでも賞金レベルの高い南関東からデビューする騎手だけは減っていないからだろう。
もうひとつ、それに関連した変化でもあるのだが、期間限定騎乗の制度ができたため、南関東でデビューした騎手が“武者修行”として、高知など所属騎手が少ない競馬場に一定期間所属して騎乗するようになったことだ。
第1戦は、まさに南関東所属ながら現在高知に期間限定騎乗に来ている2人の一騎打ち。3番手追走の船橋・小杉亮騎手(アイオライト)、後方から向正面で押し上げた大井・遠藤健太騎手(エムテイホムラ)が3コーナー過ぎで馬体を併せ、3番手以下を突き放しにかかった。直線では、遠藤騎手がじりじりと前に出て、小杉騎手に1馬身半差をつけての勝利。日々、高知で修行を重ねてきた経験を生かした結果だろう。そして直線迫った船橋・中野省吾騎手(エイシンプレスマン)が3着に入り、南関東勢が3着までを独占する結果となった。
第2戦は、ぴたりと2番手を追走した中野騎手(ココパフ)が3コーナーで先頭に立つと、直線では楽に後続を突き放して完勝。2、3着には、ともに好位を追走していたJRAの松山弘平騎手(スイートフィドル)、丸山元気騎手(デリバーカラー)が入った。
点数を計算するまでもなく、3着、1着の中野騎手が優勝。1着、4着の遠藤騎手が2位で、第2戦で2着に入った松山騎手が3位という結果になった。
今回の出場騎手のうち、兵庫・中田貴士騎手だけは08年11月のデビューだが、ほか7名の地方騎手はいずれも09年4〜5月にデビューした同期生。中央の2名も09年3月のデビューだ。地方所属騎手で、前日までの通算勝利数がもっとも多かったのは、NARグランプリ2010の優秀新人騎手賞に選出された佐賀・清水裕一騎手(55勝)だが、優勝した中野騎手は勝利数で2番目。激戦区の南関東において2年弱で挙げた44勝という数字は立派だ。
09年まではたった1戦の一発勝負で争われていた新人王争覇戦だが、昨年からは2レースでのポイント制となった。こうした騎手交流戦では結果がクジ運に左右されることもあるが、2戦での争いになったことで、結果に、より実力が反映されるようになったといえるかもしれない。
そしてもうひとつ、この新人王争覇戦で変わったと思ったことがある。かつては我先にとスタート後の直線での激しい先行争いが見どころのひとつでもあったのが、最近ではそれほど先行争いが激しくなることもなく隊列が決まり、実力に勝る馬が3コーナーあたりの勝負どころから進出して抜け出し、わりと順当な結果におさまることが多くなった。
それは一発勝負ではなくなったといいうこともあるかもしれないが、かつてのように所属に縛られない交流や移動が自由になり、若いうちからさまざまな競馬場のレースが経験できるようになったことが大きいように思う。先にも挙げた期間限定騎乗による武者修行であり、またJRAの騎手ですら、ほぼ毎日のように行われている地方・中央の条件交流競走への遠征で、たとえ高知競馬場での騎乗が初めてでも、同じように小回りで深いダートの競馬場での経験を重ねている。
25年という時を経た全日本新人王争覇戦は、ここに参加した経験を今後に生かす舞台から、デビューから3年以内という短い期間での様々な経験で磨かれた実力を競う舞台に変わってきたきたように思う。
取材・文:斎藤修
写真:トム岸田(いちかんぽ)
写真:トム岸田(いちかんぽ)
中野省吾騎手
(船橋)
遠藤健太騎手
(大井)
松山弘平騎手
(JRA)