JOCKEYS HEART

どんなきっかけで騎手の道を選んだのか。
騎手になってから、どのように競馬と向き合い、どんな夢をもって走っているのか。
女性騎手として第一線で活躍する彼女たちの想いをお伝えします。

#09 小林捺花(川崎競馬)

  • 小林捺花騎手
  • 川崎競馬
INTERVIEW
INTERVIEW

どんなきっかけで騎手の道を選んだのか。
騎手になってから、どのように競馬と向き合い、どんな夢をもって走っているのか。
女性騎手として第一線で活躍する彼女たちの想いをお伝えします。

3歳から馬に親しんで

3歳から馬に親しんで

 6歳上の姉が、月に1回程のペースで馬に乗りに行っていて、私も3歳の頃に、初めて体験乗馬をさせてもらいました。「馬って大きいけど、穏やかで可愛いなあ」と思った記憶が、なんとなくあります。その後、姉が持っていたWiiというゲーム機で「ファミリージョッキー」という競馬のゲームをやらせてもらって、「騎手ってこういう目線なのかな?」とか想像したり。私は生まれも育ちも横浜なんですけど、祖父母の家は川崎にあり、小学4年生ぐらいの時に、初めて川崎競馬場へ連れて行ってもらいました。馬には親しみを持っていましたし、かっこよく馬に乗っている騎手を見て、「馬に乗っている姿をみんなに見てもらえて、歓声を浴びられる職業っていいな」と憧れました。

絶対、川崎の騎手になる!

 騎手を志した時期は、ハッキリとは覚えていないんですけど……小学6年生の時、図工の時間に“将来の夢”というテーマで作った粘土の作品は、「馬と騎手」でした。だからたぶん、小6から「騎手になりたい」と思っていたんでしょうね。中学1年生の時に、親にお願いして乗馬を始めさせてもらいました。ただ、私が「騎手になりたい」と言っても、親や友達は、意外と反応が薄くて。「へー、そうなんだ」みたいな感じだったんです(笑)。親は競馬関係者ではないので、「なんで騎手なんだろう」と不思議に思ったでしょうし、子どもの一時的な夢だと思ったのかもしれません。友達は、「騎手ってなに?」という感じでした(笑)。

中学3年生の終わりに、志願して学年集会のステージに立って、「川崎競馬の騎手になるので、覚えておいてください!」と宣言したことがあります。地方競馬教養センターの試験を受けた直後で、まだ合否もわからないときだったのに。自分にプレッシャーをかけて頑張るつもりだったんですけど、いま振り返ると、ずいぶん大きなことを言ったなあと思います(笑)。

唯一無二の勝負服

唯一無二の勝負服

 中央競馬は馬主服ですけど、地方競馬は基本的に各自の騎手服を着てレースに乗ります。自分の個性を出せるのは、地方競馬の魅力ですよね。勝負服のデザインを決めるときにこだわったのは、地方競馬の騎手では誰も使っていない「茶色」を使うことです。唯一無二の勝負服にしたかったので。緑は自分が一番好きな色で、この山菱形が茶色に一番合うかなと思って選びました。袖は、自分の誕生月が12月なので、クリスマスカラーを配しました。茶色と緑だと地味になっちゃうので、赤を入れたら目立つんじゃないかなと思って。あとは、運動会の時とかに、母親は「捺花が見つけやすいように」という理由で、いつも真っ赤な服を着てたんですね。だから親に対する感謝の気持ちも込めて、赤を入れました。親はいま、しょっちゅう応援に来ています。もう赤い服は着ていないのですが、私の勝負服デザインのタオルを掲げているので、かなり目立っちゃっています……(笑)。

ほろ苦デビュー戦と安堵の初勝利

 デビュー戦(2022年4月4日、川崎でビームービーに騎乗)は、意外と緊張せずに迎えられたと思ったのですが、レースはまったく冷静な判断ができなくて、悔しい結果に終わりました(8着)。雨が降っていて、前から飛んでくる砂がめちゃくちゃ痛くて、かなり視界が悪くて、本当にアタフタしてしまいました。

 プリプリクインダムに乗せていただいたとき(2022年4月27日、浦和)は、「ここで勝たなきゃ」っていうプレッシャーを感じました。キャリアのある馬なので、「馬を信じて前に行こう」と思って逃げました。いつ抜かされるかと気が気ではなかったですけど、馬が動いてくれて、初勝利をさせてもらえて、本当にありがたかったです。川崎所属の同期2人(新原周馬騎手、野畑凌騎手)はデビュー週に勝っていたので、「やっと追い付けた」とホッとしました。

師匠への感謝

師匠への感謝

 スウォードキングで勝った時(2022年4月28日、浦和)は、馬の状態がすごくよかったので、ひそかに自信がありました。向こう正面から早めに上がって行くと、馬が自分から動いてくれて。すごく気持ちよかったです。所属する田島寿一厩舎の馬で勝つのは初めてで、田島先生もすごく喜んでくれました。

 中学生の頃は、教養センター合格イコール、川崎競馬の騎手になれると勘違いしていました(笑)。実際は、所属騎手として受け入れてくれる調教師がいなければ、川崎の騎手としてデビューすることはできません。川崎を第一希望にしたものの、なんのツテもない私は無理なんじゃないかと不安に思っていたところに、田島(寿一)先生が手を挙げてくださって。それを知った時は、ホントに「歓喜!」って感じでした。田島先生は弟子を取るつもりはなかったそうなのですが、私の行くアテがないことを知って、引き受けてくださったんです。田島先生は、本当に私のことを考えて行動してくださいます。関係者に配るための名刺や、私の勝負服をデザインしたタオルなどを作ってもらいましたし、川崎の調教が休みの日、他場の調教を手伝いに行くときに、夜中に車を運転して連れて行っていただいたり。本当に感謝しかないです。

馬のギャップに惹かれます

 動物と一緒にスポーツができること、人馬一体になれることが、競馬の魅力だと思います。たとえばビギナーの方には、馬をいろんな視点で見てほしいなって思います。私は馬の“ギャップ”に惹かれたんです。近くで顔とかを見てるとすごく可愛いし、基本的に温厚な性格なのに、走るとすごく速くて、見た目もかっこよくて。そういうところに、私は馬ならではの魅力を見つけました。

 トップジョッキーの方のレースを見ていると、さっきまで後方にいたのに、いつの間に前のほうにいたりします。いつの間にか“勝てる位置”にいる。そういう展開ができる騎手になりたいですし、“差しで勝てる騎手”になりたいなあと思っています。いまは自分のいいところが見つからないぐらい、課題がたくさんあります。まだまだ未熟で、思うような乗り方ができないんですけど、みなさんにいいレースを見せられるように、精一杯頑張っていくので、応援よろしくお願いします。

撮影協力:神奈川県川崎競馬組合