CROSS TALK

Vol.01女子ボートレーサー × 女性騎手(前編)

競馬とボートレースは、他の競技とは違って男女が同じレースで競い合うプロスポーツだ。今回の企画では両競技の女子アスリートがリモートで対談。地方競馬からは木之前葵(名古屋競馬)濱尚美(高知競馬)神尾香澄(川崎競馬) の3騎手、ボートレースからは西岡成美(徳島支部)山川波乙(三重支部)野田彩加(山口支部) の3選手が参加した。前編は女子アスリートとしての競技に対する思いなどを語った。

――女子アスリートとして活躍する皆さんですが、どのようなきっかけでこの道に進みましたか?

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(上段左から)木之前騎手 、神尾騎手、濱騎手
(下段左から)野田選手、西岡選手、山川選手

西岡きっかけは姉(西岡育未)です。姉がボートレーサーになって、私はそのとき大学生でした。進路を考え出したときに、身近な職業がボートレーサーだったので、自分が頑張ったら頑張った分だけ稼げるし、やりがいがあるなと思って目指しました。それまではバスケットボール、ソフトボール、陸上、駅伝をやっていました。

山川地元の先輩の豊田健士郎さんがレーサーになったと聞いて見に行き、これしかないと思ってレーサーになりました。豊田さんは兄と同級生です。スポーツは小学校3年生からバスケットボールをやっていました。全国大会ではベスト8になりました。小柄( 154cm )なので(バスケットボールでは) 先はないなと思ってボートレースの世界に進みました。

野田小学3年生のころに両親とボートレース下関に行ったときに、水面の上でもの凄いスヒードで走る姿に惹かれ、私もなりたいと思いました。そのころは空手(新極真)をやっていて、中学では全国大会で優勝し、アジア大会にも行きました。空手での目標は全国大会優勝でしたが、目標を達成できたので、次は夢をかなえたいと思ってボートレーサーを受けました。

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木之前私は小学6年生から乗馬を始めて、馬に乗ることを職業にできたらなと思ったときにジョッキーという職業を知ってなりたいなと思いました。JRAの宮崎育成牧場にある少年団で乗馬をしていました。中学3年生まで少年団で乗馬をやって、千葉にある東関東馬事高等学院という、馬について専門的に学べる学校に行きました。スポーツ経験は子供のころに新体操をやっていました。

祖父に勧められて興味本位で始めました。祖父は昔、騎手を目指していたみたいです。私は競馬をあまり見たことがなくて、馬には触ったこともまたがったこともなかったのですが、祖父から“運動神経がいいし小さいから“と言われ、私もなりたいと思うものがなかったので受験しました。中学生のとき、今後の進路を決めなきゃいけないという頃に応募したのですが、地方競馬の受験まで1週間くらいしかない時期で、ぎりぎり滑り込みました。スポーツはバスケットボールをやっていました。

神尾私はもともとボートレーサーになりたくて。試験も山川さんや西岡さんと同じときに受けたことがあります。でも4回くらい落ちてしまいました。それでもプロのスポーツ選手になりたいなと思って、次に目指したのが競馬でした。サッカーは小学4年生から遊びで始めて、6年生から中学3年生までクラブチームに入っていました。女子のカテゴリーですけど静岡県の選抜と東海トレセン(選抜)には選ばれました。ポジションはFWです。ボートレーサーになりたかったので、中学3年までサッカーをやってそこから切り替えようと思っていました。

――ボートレーサーの皆さんはすぐに養成所に入れたのですか?

西岡私はずっと1次試験で落ち続けていて、5回目でとんとん拍子にいった感じです。まずは大学に行きたくて、ボートレーサーは一番なりたい職業でもなかったです。姉もなっているし、自分も受かればいいなぐらいの感じでした。しかし、そういう意識では受かるはずもなく、ずっと1次試験で落ちていました。進路を考え出し、これで最後にしようと思って受けたときに運良く受かった感じでした。

養成所時代の西岡選手

養成所時代の西岡選手

養成所時代の山川選手

養成所時代の山川選手

山川私も4回くらい受けましたね。2次試験に受かるとそこからとんとん拍子に受かりました。

野田中学を卒業してそのまま受かりました。私の場合はスポーツ推薦というのがあって、1次試験は面接でした。2次試験からは一般と同じ試験を受けました。

養成所時代の野田選手

養成所時代の野田選手

木之前ボートレースの養成所に入るには、試験でどういう種目があるんですか?

西岡1次試験は中学校レベルの国数社理の4教科のマークシートで、あとは握力や基礎体力を測定します。2次試験は学校に行ってボートに乗ったり走ったりの体力試験をして、3次試験は面接と身体検査をします。3次試験まで合格すると、養成所に入学できます。

木之前すごく大変そうな内容ですね。

西岡ジョッキーの方は3年くらい学校にいくんですよね?

木之前地方競馬教養センターは2年間です。試験では筆記テストと体力テストを泊まり込みででやりました。

――教養センターでの思い出や苦しかったこと、今の競馬場に所属した理由を教えてください。

教養センター時代の木之前騎手

教養センター時代の木之前騎手

木之前私の周りはレベルが高すぎて。91期生でしたが、訓練に全然ついていけなくてつらかったです。
名古屋競馬に所属したのは、女性ジョッキーが過去にいて、現役でも山本茜さんがいらっしゃったので、女性がいた方がやりやすいと思ったからです。

私が入ったときは一番下で同級生が2人しかいなくて、先輩にも同期にも教官にも女性がいなくて、それが一番しんどかったことかなと思います。高知競馬に所属した理由は、高知競馬自体の売り上げが右肩上がりだったことと、若手にもチャンスがあるからです。

神尾私は乗馬をやってこなかったので、最初はついていくのに必死で、毎日一生懸命頑張っていました。川崎競馬に所属したのは、南関東に行きたかったというのと家から近いというのもありました。

――皆さんが考える競馬、ボートレースの魅力はどのあたりですか?

西岡男女が同じ土俵で戦うスポーツというのが他にはないので魅力的だと思います。女性でも男子選手に勝ったりするのがいいなと思います。女子戦でも勝ちたいですけど、どちらかというと一般戦の方が燃えると思います。

山川私もナルさん(西岡)と同じですね。男女関係なく戦えるところだと思います。あとは自分でペラを叩いたり工ンジンの整備をしたりというのが面白いですね。失敗して学ぶことが多く、それが身になって稼げることにもつながるので面白いですね。

野田私も成美さん(西岡)と一緒です。空手とかは男の子と戦っても力の差が結構あるんですけど、ボートは男女平等で戦えるというのが魅力ですね。私がボートレーサーになりたいと思ったときも男女が一緒に走っていたので、男女が平等に戦えるというのが大きいと思います。

木之前競馬も男女一緒にレースをするのですが、私はたまには女子だけのレースをやりたいなと思います。でも女性騎手の人数が少なくてなかなかできないです。女性騎手がいっぱい増えてもらいたいですね。ボートレースの女子戦は見ていて楽しいです。

命があるものがペアで何かをするというプロのスポーツは競馬だけだと思うんです。そこには人間の気持ちと、馬の気持ちの2つの意思があります。馬も人間を感じるし、人間も馬を感じてあげないといけない。最初は競馬を見たことがなくて、騎手になりたいと思って目指し始めてから生でレースを見て感動しました。人馬一体になって走っているということが魅力なのかなと思います。

神尾濱さんがいいこと言っちゃうから答えづらいですね(笑)。距難の長い2000メートルを走ってハナ差とか同着もあるし、そういうところも面白いと思います。

――競技を通して最もうれしかったことはなんですか?

木之前やっぱり勝った時が一番うれしいですね。自分自身もこんなに長くやらないだろうなと思っていたので、(500勝近くまで来て) ちょっとびっくりしています。勝ったときはすごく喜んでくれる方が周りにたくさんいます。競馬は一人ではできないので、そういうところでうれしさを分かち合うことができると思います。

私も同じになってしまいますが、やっぱり勝った時だと思います。大きいレースは勝ったことがないので分からないのですが、どんなレースでも一つ一つ勝つことがうれしいですね。

レディスジョッキーズシリーズ2021で総合優勝を果たした濱騎手

レディスジョッキーズシリーズ2021で総合優勝を果たした濱騎手

調教師からアドバイスを受ける神尾騎手

調教師からアドバイスを受ける神尾騎手

神尾勝つとうれしいし、楽しいです。馬主さんとか調教師の先生、厩務員さん達にありがとうとか、おめでとうと言ってもらえるのもうれしいです。

西岡同じです。勝った時が一番うれしいです。先日、同期が優勝したので凄いなと思うし、続きたいなと思いました。初勝利まで私はメチャ長かったですね。

山川私も勝った時ですかね。(高額配当が狙える#波乙ー全ー全という買い方があるが)うれしいのはあるんですがプレッシャーもありますね。

オリジナルのTシャツを披露する山川選手

オリジナルのTシャツを披露する山川選手

野田私もみんなと同じです。初めてデビューして1着を取ったときの水神祭は思い出に残っていますね。私も初勝利まで長くて、同期が水神祭をやっていて私も勝ちたいと焦っちゃって半年で2回フライングをしてしまって…それがあっての水神祭だったので、遅かったけどそこまでの道のりがあったからこそうれしかったですね。
※水神祭…初勝利や節目の勝利を挙げた選手が水面に投げ込まれる行事のこと

――思い出に残っているレースはありますか?

木之前17年1月19日の園田クイーンセレクションでカツゲキマドンナという馬で勝ったときです。勝つと思っていなくて、多分負けたんだろうなと思って帰ってきたら1着だったので“えー、1着ですか”とすごい大きな声を出してしまいました。迷惑なやつだなと思われたかもしれないですが、うれしすぎました。ゴールした時はハナ差だったので分からなかったんですよ。ボートレーサーはどのあたりで勝ったなと思いますか?

西岡だいたい1周1マークから2マークで決着がつきます。そこから追い上げることもありますが、前がミスをしないとなかなか抜けないです。接戦でゴールするということもたまにありますが、掲示板を見て“あ、負けた”とか思います。

神尾後ろからまくったりするのは気持ちいいし覚えていますが、やはり初勝利(21年5月26日、マッドシェリー、42戦目) が印象に残っています。同期がみんな勝っていて私がまだ勝っていなかったので、長く感じました。

今までの勝ち鞍の中でも一番印象に残っているのは高知競馬で行われた昨年のレディスジョッキーズシリーズの2戦目のダノンユニヴァースですね。デビューして減量があったので逃げ馬とか、差し馬でも最後方から大外一気という乗り方だったんですけど、その馬は馬群を割いて勝ったので印象に残っています。レディスジョッキーズシリーズは総合優勝でしたが、高知での2戦(2勝) が大きかったですね。

G1初勝利の水神祭で、仲間に水面に投げ込まれる瞬間の西岡選手

G1初勝利の水神祭で、仲間に水面に投げ込まれる瞬間の西岡選手

西岡私も初めての1着が思い出に残っています。同期の女の子が同じ日に同じ枠番の4号艇で1着を取って。その後に自分も1回走りで同じ4号艇だったので、ここしかないみたいな感じになって。本番待機室にいるときに、スタートしたときにこの隊形になったらとか、いろんな想定をするんですけど、それがまったく同じ隊形になって、ハンドル切るときもさっき想像していたのと同じや、となりました。同期の子と全く同じ展開で水神祭になり、偶然ですけど凄い確率やなと思って印象に残っています。G1も楽しかったですけど、そっちの方が印象に残っています。

山川初めて1着を取って、帰ったときに全員で喜んでもらえたのがうれしかったです。

野田私も去年の9月、初勝利の水神祭が一番の思い出です。水面に飛び込むのはうれしい方が大きかったので、怖くはなかったです。

水神祭で水面に投げ込まれたときの野田選手

水神祭で水面に投げ込まれたときの野田選手

――違う競技ということで、競技への向き合い方やトレーニングなどについての質問はありますか?

西岡ボートレースは体幹が大事という人がいますが、競馬も一緒ですか?

木之前そうですね。馬が走りやすいようにハミをかけたり、走りやすい姿勢には近づけたいと思って乗っているんですが、いいパフォーマンスをするためには馬の調子も関係するので…。

西岡馬も生き物だから難しいですよね。

木之前そうなんです。この方がいいよと言葉で言ってわかればいいんですけど、馬なので。ボートレーサーはどんなトレーニングをしていますか?

西岡バーソナルトレーニングをしていて、トレーナーさんに指示されたものをやっています。これを絶対やるというのはなくて、チューブを使ったり、バランスボールのような球体を半分に割ったものを使ったりしています。

木之前状態に合わせてやってくれるんですね。パーソナルいいですよね。私も誰かに見てもらえないと頑張れないです。

山川私も休みの日にはトレーニングに行っていますね。

野田私もできる限り行っています。空手の時は筋肉系だったんですが、ボートレースは踏ん張る力もいるので、筋肉も体幹もどっちも大事ですね。

――日頃から意識していることはありますか?

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西岡基本的に前向きに捉えるようにしています。本も自己啓発のものを読んで、どんなときも前向きに考えられるように、後悔しないように生きています。

山川落ち込まないようにしていますね。次のことしか考えていないです。

野田メンタルが大事だと思うので、1日2走だったら、1つダメでも次に引きずらないようにしています。

初めて乗せてもらう馬は4走前まで必ずレース映像を見ます。高知競馬は馬場が前半と後半のレースやその日によっても違うので、そのときに合った進路選定をするというのを心掛けています。

神尾私も乗る前に調べたり、イメージトレーニングをします。1日に何回も乗るので、結果が悪くても次に切り替えています。

木之前いつでも馬に乗れる状態にしておくというのと、相手の馬がどのような動きをするかというのを考えていますね。名古屋競馬は移転して差しも決まるようになったので、相手を見ることが大事だと思っています。

(後編に続く)