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ヤングジョッキーズシリーズFR 中山

最終戦を制した横山騎手が優勝
  地方騎手では新原騎手が3位

2023ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)ファイナルラウンドは、川崎から1日おいて、舞台を中山競馬場に移して引き続き行われた。競馬場のある千葉県船橋市のこの日の最高気温は、季節外れの22.4度。汗ばむほどの陽気の中、文字通り熱のこもったレースが展開された。

競馬場開門直後の朝9時過ぎ。早くもウィナーズサークルを囲むように集まるファンに話を聞くと、JRAの競馬ファンに交じってこの日騎乗する地方競馬の騎手の熱心なファンにも行き会えた。菅原涼太騎手(大井)を応援するという若い女性ファンは、自作のフィギュアなど様々な“推し活グッズ”まで作り、アイドルタレントさながらの熱心な推し方。また、静岡から来場の競馬歴1年半・23歳の男性ファンは新原周馬騎手(川崎)が好きだと話し、前日には川崎競馬場に遠征し、新原騎手の姿を見てからこの日の中山に来たという熱心さだった。騎手を応援するファンにとっても、いつもと異なるJRAの競馬場で“推し”が活躍する姿が、大きなモチベーションになっていることが感じられた。

第1戦は、1勝クラス芝2000メートル戦。野畑凌騎手(川崎)が中団から外を回って豪快に追い込み、ゴール前で突き抜けた。前々日には地元で勝利を得られず無念の表情を見せた彼も、この時は左手で馬の首筋を叩いて健闘を称えガッツポーズ。引き上げてくる際には、応援にかけつけた川崎の厩舎関係者はじめ多くの観衆の大声援に促され、何度も手を挙げて喜びをあらわにした。

レースの直後に行われたインタビューで『JRA初勝利』のプラカードを掲げたのは、彼の師匠の佐藤博紀調教師の子息・佐藤翔馬騎手(JRA)。地方競馬とJRAの垣根を越える競馬人の繋がりを、改めて感じさせたシーンだった。

1馬身差で2着には佐々木大輔騎手(JRA)が入り、惜しかったのは逃げて3着に粘った新原騎手だ。「ペースが少し速くなってしまった」と振り返っていたが、後から記録を見ると前後半ほとんど同じイーブンラップ。とりわけレース中盤以降はハロン12秒前後の時計を綺麗に刻んでおり、後続が追い上げにくい絶妙のペース配分だった。芝で初めて騎乗したと思えぬ、彼のセンスが現れた騎乗ぶりと言えるだろう。

第1戦を終え、勝った野畑騎手が51ポイントでトップに立ったものの、まだ逆転の圏内には約半数の騎手が僅差でひしめく混戦で、最終戦の行方が大いに注目された。

第2戦は、2勝クラスのダート1800メートル戦。逆転優勝の可能性を残し、馬も1番人気だった秋山稔樹騎手(JRA)が予想通り先手を取ったものの、その直後にやはり逆転優勝可能な横山琉人騎手(JRA)がマーク。最後の直線入口で横山騎手が競り勝って抜け出すと後続をぐんぐん引き離し、ゴールでは7馬身差をつけて圧勝した。

「後方からという指示だったが、出して行ったら2列目が取れた」という望外の好位置から2着に浮上した新原騎手も、4コーナー後方から3着まで追い上げた長尾翼玖騎手(兵庫)も、横山騎手の背中はあまりに遠かった。引き上げて来た新原騎手は、迎える厩舎関係者の満足の表情とは裏腹に悔しさと落胆が入り交じった表情で馬を下りた。15着に終わり得点トップを守れなかった野畑騎手は、下馬した後厳しい表情で一度コースの方を振り返ってから、静かに検量室へと消えていった。

総合成績は、第2戦を勝った横山騎手が69までポイントを伸ばし優勝。2位には第2戦を4着としのいだ田口貫太騎手(JRA)が56ポイントで入り、この日3着・2着と奮闘した新原騎手が1点差の55ポイントで3位。以下も1点差で永野猛蔵騎手(JRA)が4位、更に2点差で野畑騎手が5位と、紙一重の僅差で続いた。

今年のYJS全体を見ると、昨年以上にJRAの騎手が圧倒した印象がある。実際、トライアルラウンドでの勝利数は東西ともにJRA騎手7勝に対して地方騎手5勝。平均獲得ポイントもJRAの方が10点近く上回っており、数字がそれを物語っている。

難しさのある馬に乗る機会も多い地方競馬の騎手が、馬に乗る技術においてJRAの騎手に劣っているとは思わない。しかし、依頼さえあれば異なる10の競馬場で騎乗する機会のあるJRAの方が、多くても4場(南関東)、少なければほとんど所属場でしか乗る機会のない地方競馬に比べ、コースやレースへの“適応力”を磨くには有利な環境であることは間違いない。この日も、レース後地方競馬の多くの騎手が「いい経験になった」と話したが、本来なら結果を出して「経験が活かせた」という手応えを味わって欲しいのが、ファイナルラウンドの舞台だ。意欲ある若手騎手が、自ら望んで“いつもの競馬場”とは異なる経験を積む機会をもっと増やせる環境があれば、技術の向上、ひいては地方競馬の一層の盛り上がりに寄与するのではないかと、今回の取材の中で強く感じた。


取材・文坂田博昭

写真早川範雄(いちかんぽ)

Comment

総合優勝 横山琉人騎手(JRA)

川崎で好成績をあげ、優勝は意識していましたが、トライアルラウンドでも1着を獲れていなかったので、最後のレースは優勝というより1勝が欲しいという意識で乗っていました。人気の逃げ馬の番手が取れて、向正面で勝てるかなという手応え。勝負所で馬がその通りの反応をしてくれました。

総合2位 田口貫太騎手(JRA)

優勝するつもりで参加していたので、2位という結果は悔しいです。(騎手紹介式で宣言した)“下剋上”が出来ず残念。初めての中山競馬場でしたが、とても乗りやすいと感じました。中山でも名前を呼んでもらってとても多くの声援をもらえたのは有り難かったです。

総合3位 新原周馬騎手(川崎)

最後のYJSで3位という爪痕を残せて良かったです。第1戦は(野畑)凌にあれをやられては仕方がありません。初めて騎乗する中山で、芝コースのレースでは少し戸惑ってしまいましたが、もっといろんな経験をしたいですし、これからも鍛錬してしっかり乗れる騎手になりたいです。