8月16日の王冠賞から、10月2日のダービーグランプリまで、昨年は取止めとなった岐阜金賞(笠松)も復活して全11レース、1カ月半に渡って争われた3歳秋のチャンピオンシップ。昨年はお盆に行われたサラブレッド大賞典(金沢)が、一昨年までと同じ9月初旬に戻った。ロータスクラウン賞(佐賀)は、一昨年が8月中旬、昨年が9月2週目だったのが、今年はさらに2週繰り下げての9月25日で、9月15日の西日本ダービー(園田)より後の実施となった。2020年にも西日本ダービー(佐賀)の3日後に黒潮菊花賞(高知)が行われたことがあったが、西日本ダービーはもともと西日本地区の各競馬場で3歳三冠目(もしくはそれに相当するレース)を戦い終えた馬たちが対戦するような位置づけだったはず。順序が逆になるとやはり違和感がある。
日程調整が難しくなったのは、シリーズファイナルのダービーグランプリが2019年から10月上旬に繰り上げられたため。西日本で持ち回りの西日本ダービーは昨年までで開催が一巡し、今年は第1回が行われた園田に戻ってきたが、園田オータムトロフィーの翌週が西日本ダービーという日程となった。
王冠賞(門別)
ホッカイドウ競馬史上7頭目の三冠の期待がかかったシルトプレが単勝1.5倍の断然人気に支持されたが、勝ったのは、北斗盃2着、北海優駿4着で4番人気だったエンリルだった。迷わずハナをとったのはこれまでの二冠と同様だが、違っていたのは道中でペースを緩めず3コーナー手前から徐々に後続との差を広げていったこと。直線を向いたあたりではセーフティリードとなって逃げ切った。
期待されたシルトプレは、向正面で縦長の展開となって中団6番手。3コーナーあたりから追い上げたが時すでに遅し。直線を向いてようやく2番手まで位置取りを上げたものの、エンリルとの差を詰めることはできず。不良馬場も味方してのエンリルの逃走劇だった。
黒潮盃(大井)
デビュー以来短距離にこだわって使われてきたエスポワールガイが、初めて経験する1800メートルを逃げ切った。単勝18.3倍の8番人気ではあったが、いわゆる人気薄の逃げ切りという内容ではない。東京ダービー2着で1番人気に支持されたクライオジェニックの安藤洋一騎手がスローペースを察知し、向正面でみずからエスポワールガイをつかまえに行った。しかしエスポワールガイ鞍上の森泰斗騎手は何度かうしろを気にしながら、来れば来るだけペースを上げた。それでむしろ脚を使わされたのはクライオジェニックのほう。好位を追走していた2番人気のナッジも追ったが、直線では3頭とも脚色が一緒になり、エスポワールガイが逃げ切り勝ち。森泰斗騎手の見事なペースコントロールだった。
岐阜金賞(笠松)
逃げたのはナンジャモンジャだったが、直後2番手の集団で人気3頭が互いを牽制し合いながらの道中。3コーナー手前でナンジャモンジャが後退すると、人気3頭の争いとなった。
前に出たのはコンビーノで、東海三冠のかかるタニノタビトがぴたりと追う。イイネイネイイネはやや離されて劣勢となった。直線を向いてもコンビーノが先頭だったが、ゴール前ではタニノタビトが外から捻じ伏せるようにしてアタマ差先着した。
目下5連勝中だったが重賞勝ちがないコンビーノの鞍上はデビュー2年目の塚本征吾騎手。一方、タニノタビトは名古屋での二冠を含め4連勝中。そして鞍上は通算4500勝を超えた岡部誠騎手。最後のアタマ差は人馬の経験の差だったか。
黒潮菊花賞(高知)
高知のこの世代は、2歳時には黒潮ジュニアチャンピオンシップを含めデビューから4連勝のマリンスカイが圧倒的な強さを見せ、3歳初春にはアンティキティラが佐賀・花吹雪賞、名古屋・若草賞と他地区遠征で重賞を連勝。次々と印象的な活躍を見せる馬が現れたが、三冠のタイトルを争ったのは、一冠目の黒潮皐月賞を制したヴェレノと、二冠目の高知優駿を制したガルボマンボ。
三冠目のここでは、中央未勝利から転入して2戦目から5連勝中というナナコロビヤオキが加わって三つ巴の人気となったが、早めに動いて4コーナー手前で先頭に立ったガルボマンボが後続を寄せ付けずの完勝。ヴェレノは4馬身差の2着で、高知優駿と同じワンツー。ナナコロビヤオキは懸念された距離延長で3着。そして三冠のタイトルを分け合った2頭の争いは、このあと遠征でも続くことになった。
サラブレッド大賞典(金沢)
金沢二冠馬スーパーバンタムが、このレースの11日に後に行われる西日本ダービー(園田)に照準を合わせたことで不在となり、押し出される形で1番人気となったのは、石川ダービーでスーパーバンタムの2着だったスターフジサン。後方追走から向正面では内を通って位置取りを上げ、4コーナーで先頭に立つと、ゴール前3頭の接戦を制した。半馬身差2着が、北海道→船橋→佐賀から金沢と所属を変えてきた6番人気のマーミンラブ。アタマ差3着が、夏以降に力をつけMRO金賞2着だったマイネルヘリテージ。
スターフジサンは1番人気にこたえての勝利だったが、スーパーバンタムが抜けたメンバーでの争いは、混戦といえる内容だった。
不来方賞(盛岡)
一冠目のダイヤモンドカップを3馬身差、二冠目の東北優駿を10馬身差で圧勝し、岩手三冠の期待がかかったのがグットクレンジング。逃げたノンロムの2番手を追走したものの、3コーナーから追い通しとなって直線失速。勝ったのは最後方追走から直線外を伸びたマナホクで、2着も4コーナー8番手だったコイビトサンタ。グットクレンジングは8着に沈み、逃げたノンロムも9着。先行勢には厳しいペースで、前半脚を溜めた馬たちが台頭したという結果。
勝ったマナホクは、北海道三冠で3、3、5着からの転入初戦で、ホッカイドウ競馬のこの世代のレベルの高さを感じさせる結果となった。
園田オータムトロフィー(園田)
菊水賞を制したベルレフォーンは翌週の西日本ダービーを選択。兵庫ダービーを制し、西日本ダービーには出走権がないバウチェイサーが1番人気。今年2月のデビューから休養を挟み5連勝で、ここが重賞初挑戦となったエコロクラージュと、2頭に人気が集中した。
しかし結果は明暗が分かるものとなった。逃げ馬をピタリとマークして進んだバウチェイサーは直線半ばで失速して6着。一方のエコロクラージュは好位のラチ沿いを追走し、4コーナーでも内を突くと、直線でも逃げ粘るウインドケーヴをとらえて抜け出した。デビューは遅くともじっくり仕上げた秋の上り馬が春の実績馬を凌駕した。
戸塚記念(川崎)
この世代の南関東の牡馬勢は、羽田盃、東京ダービーがともに大波乱だったように主役不在の混戦。一方で牝馬は、二冠制覇に加え関東オークスJpnIIでも3着に入ったスピーディキックが断然の存在。それを象徴する結果となった。
関東オークスJpnII以来3カ月ぶりの休み明けでも1番人気に支持されたスピーディキックは、中団追走から抜群の手応えで進出し、直線他馬を突き放しての完勝。2着ショットメーカー、3着デルマアズラエルは、ここが重賞初挑戦という新興勢力。3番人気だった羽田盃2着馬ライアンは6着、2番人気の東京ダービー馬カイルは11着に沈んだ。
西日本ダービー(園田)
昨年末から負けなしの快進撃を続ける金沢のスーパーバンタムは、日程的なこともあって地元の三冠目をスキップしての遠征。単勝1.3倍という断然の支持を受けた。
逃げたのは高知のフィールマイラヴで、スーパーバンタムはぴたりと2番手。2周目3コーナー過ぎの手応えではスーパーバンタムがあっさり突き放すかに思えたが、フィールマイラヴは直線でも食い下がり、しかしスーパーバンタムがこれをねじ伏せるようにクビ差先着しての勝利。笠松のアイファーエポックが追い込んでアタマ差3着に入った。2着から5着までの掲示板を重賞未勝利馬が占めたなかで、断然人気のスーパーバンタムが苦しみながらも貫禄を示した。7回目の西日本ダービーは、牝馬による勝利も、金沢所属馬による勝利も初めてのこととなった。
ロータスクラウン賞(佐賀)
高知三冠を分け合った2頭の馬連複オッズが1.7倍。レースもそのとおり、2頭の一騎打ちとなった。
黒潮菊花賞同様、早めに好位をとったガルボマンボに対して、これを前に見てレースを進めたヴェレノ。3コーナー過ぎでガルボマンボが先頭に立つところまでは黒潮菊花賞と同じような展開だったが、違っていたのは、ヴェレノが離されず早めにガルボマンボをとらえにいったこと。直線2頭が馬体を併せての一騎打ちとなっての写真判定は、わずかにヴェレノがハナ差出たところがゴール。高知三冠+佐賀一冠のタイトルをこの2頭で2つずつ分け合うこととなった。
佐賀皐月賞を制したザビッグレディーが4コーナーでこの2頭を射程にとらえる位置にいたものの、8馬身差をつけられて3着。九州ダービー栄城賞を制したイカニカンは9着。高知勢が圧倒的な強さを示した。
ダービーグランプリ(盛岡)
南関東から大挙7頭が遠征し、東京ダービー馬カイルや、黒潮盃を制したエスポワールガイもいたが、1番人気に支持されたのは重賞未勝利のクライオジェニック(大井)。2番人気は北海道二冠馬シルトプレで、続く3番人気もこれまた3歳になってからは勝ち星のないナッジ(大井)。戸塚記念でも触れたように、南関東の3歳牡馬路線の混戦ぶりがここでも示された。
そして直線は、北海道三冠のタイトルを分け合った2頭の一騎打ち。逃げたエンリルがゴール前まで食い下がったが、好位から4コーナーでとらえにかかったシルトプレが1馬身差をつけての勝利。4馬身差がついての3着は、2歳時にホッカイドウ競馬で世代トップクラスの評価を受けたナッジ。門別デビュー馬の中でも、ホッカイドウ競馬にとどまった2頭が強さを見せた、3歳秋のチャンピオンシップ・ファイナルだった。