近年のヴァケーションやハッピースプリントの例を持ち出すまでもなく、地方勢にもチャンスがあるこのJpnⅠ。幼さを残す2歳馬ゆえに、経験や力の要るダート、小回りへの対応といった面が、その要因に挙げられる。とはいえ、南関東勢の筆頭格である船橋のアランバローズ、浦和のランリョウオーはともに初めての川崎コースで、JBC2歳優駿JpnⅢを制した北海道のラッキードリームも、初の左回り。そういった意味では、デビューから3連勝で兵庫ジュニアグランプリJpnⅡを勝利したデュアリスト(JRA)のほうが小回りと左回りに対しては分があると見え、この馬が単勝1.9倍の1番人気に支持された。
しかし、結果的に5馬身差の圧勝劇を演じたのはアランバローズ。川崎での戦い方、仕掛けどころを知り尽くした左海誠二騎手のエスコートで無傷の5連勝を果たし、2歳王座を射止めた。
枠入りの際にアイバンホー(金沢)がゲート内で何度も立ち上がり、隣枠のラッキードリームも我慢できずに暴れたことで、多少の動揺が広がる。それでも大きな出遅れはなく、スタートが切られた。
好ダッシュを決めたのはアランバローズ。前走のハイセイコー記念は控える競馬で勝利していたが、ここは正攻法の逃げる競馬を選択。2番手にはランリョウオーがつけ、南関東勢がレースを作るかたちとなった。一方、デュアリストはゲートが切られる直前に暴れ、出負け気味のスタート。3番手で窮屈な競馬を強いられた。
アランバローズと左海騎手は、前半3ハロン36秒2の軽快なペースで馬群をリードする。昨年逃げたアイオライトのラップが35秒6で、数字だけ見れば若干のハイペースといった程度だが、今年は多少力の要る馬場状態。2番手を追走していたランリョウオーの本橋孝太騎手に「道中から追いつける気がしなかった。勝ち馬は速い」と言わしめるスピードを発揮し、一目散に3コーナーへ向かう。
ここでも左海騎手は手綱を緩めなかった。勝負どころでリードを広げて粘り込む、強気な競馬を展開。他馬も懸命に追い上げようとするが、川崎のタイトなコーナーに手間取り差は広がる一方だった。逃げ巧者が導いた、5馬身差の圧勝劇。まさにアランバローズの独壇場だった。
レース後、穏やかな笑みをたたえた左海騎手は、これがGⅠ/JpnⅠ初勝利。「スタートが素晴らしく良く、抜けたかたちになった。下げて馬とケンカするよりは気持ち良く走らせたほうがいいかなと思った」。スタート直後の状況と、パートナーとのコンタクトを考えて瞬時に判断。管理する林正人調教師は「内に速い馬もいて、ハナにこだわるところではないと思っていたので、『大丈夫かな?』と思っていた」とレース後に話したが、それを上回るパフォーマンスを引き出し、厩舎にも初のGⅠ/JpnⅠタイトルをもたらした。
2着にはランリョウオーがそのまま粘り込んだ。前走のハイセイコー記念に続いてアランバローズの後塵を拝し、本橋騎手は勝ち馬のスピードをたたえたが、「距離が延びれば逆転もあると思う」と来春の巻き返しを口にする。どちらかと言えば広いコースが合うだけに、ここで勝負付けが済んだとは言い切れない。
一方、1番人気のデュアリストはインの4番手を進んでいたが、直線で伸び切れず7着に敗れた。北村友一騎手は「出負けしたぶん前に入られた。この馬のスピードを生かすことができなかった」と肩を落としたが、JpnⅡ勝ちを含めてデビューから3連勝した素質は疑いようがない。その脚質を見ても地方向きで、今後もスタートさえまともなら好勝負を演じるだろう。
また、北海道のラッキードリームは10着で、「隣の馬が暴れた影響で、自分の馬もゲートで立ち上がってしまった。集中が切れた感じで、レースをやめてしまった」と御神本訓史騎手。不完全燃焼に終わっただけに、この一戦だけで評価はできない。
地方勢のワンツー決着は2009年のラブミーチャン(笠松)、ブンブイチドウ(北海道)以来。地方競馬ファンにとっては溜飲を下げる結果となったが、各馬の競走生活は始まったばかりであり、次々と実力馬を送り出すJRA勢の層の厚さも言うまでもない。さらなる高みを目指す陣営の戦いは、すでに始まっている。
Comment
左海誠二 騎手
スタートが素晴らしかったですし、道中も自分のリズムで気持ち良く走れていました。直線に向いたときには「大丈夫」という思いも頭によぎったのですが、最後まで気を抜かせずに走らせました。負け知らずの5連勝ですし、これからもっと活躍できると思うので、大事に育てていきたいと思います。
林正人 調教師
間隔が詰まっていたので維持することを大事に調整してきました。3コーナーあたりでは、このまま行けるかなと思いましたね。今後はひと息入れる予定。厩舎としては東京ダービーの連覇もしたいですが、力をつけてくる馬もいるでしょうから、もう一段階のレベルアップをしないと難しいでしょう。