ウェブハロン

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  • 第31回
  • 東京スプリント JpnⅢ

4.8 (水) 大井 1,200m

最内枠を生かして逃げ切る
 重賞初制覇で目指すはJBC

無観客開催が始まった当初、騎手や調教師に印象を聞いて回ったところ、もちろん「寂しいね」という言葉が圧倒的に多かったのだが、それと同時に「静かだから馬にとってはいいのかも」という声も、ちらほら聞かれた。それがいいのか悪いのかは別の話になるのだが、無観客開催にそういった側面があることもまた事実だ。

本来は華々しくオープニングを迎えるはずだった大井のトゥインクル開催。ここまでの前半2日間は絶好の良馬場で行われていたものの、内ラチ沿いの砂が浅い印象で、逃げ有利のレースが続いていた。開催3日目を迎えたこの日は、各ジョッキーが前残りを意識して積極的な競馬を展開したことで、ハイペースのレースが増え、差し馬が台頭する場面も見られたが、本質的には内枠の先行馬に有利な馬場だった。

そんな舞台を味方につけたのは、ダートグレード初挑戦だった最内枠のジャスティン。スタートのタイミングこそ今ひとつだったが、鋭い二の脚を使って先頭へ。1番人気のコパノキッキングが馬体を併せるようにしてプレッシャーをかけてくるも、直線の入口でこれを振り切ると、4番手から伸びてきたサブノジュニアの追撃を退け、1馬身1/4差で勝利した。

管理する矢作芳人調教師は「こういう言い方をするのはいけないと思うけど」と前置きしつつ、「静かな無観客競馬ということで、いつもより落ち着きがあった。徐々に大人にもなってきている」と、イレ込むことなくレースに臨めたことを勝因に挙げる。馬場も向いたとはいえ、前半3ハロン34秒7で逃げつつ、後半3ハロンを36秒2でまとめられては、他馬はなすすべがなかった。

矢作調教師、そして鞍上の坂井瑠星騎手ともに、父は大井所属。坂井騎手は「小さい頃から遊びに来ていた大井で勝ててうれしい」と笑顔を見せ、矢作調教師も「大井で勝つのはいいものですね」と、ゆかりの地でのタイトル奪取を喜んだ。

切れのある末脚で2着に押し上げたのは、地元のサブノジュニア。矢野貴之騎手は「理想的な位置をとれたが、前残りの馬場だったので、少し運がなかった。交流でも十分通用する」と手ごたえをつかんだ様子だった。3歳時から高い能力を示してきたが、特に近況は精神面が成長し、安定した走りを見せるようになってきただけに、悲願の重賞制覇も目前だろう。3着にも船橋のキャンドルグラスが入った。

一方、1番人気のコパノキッキングは、直線で伸び切れず5着に敗れた。藤田菜七子騎手は「馬の状態は悪くなさそうだったし、テンションが上がりすぎたり、闘争心がないというようなこともなかった。かみ合わなかった感じです」。勝ち馬の外にぴったりとつけ、あとは末脚を伸ばすだけという、完璧なエスコート。ジャスティンの勝ち時計が1分10秒9で、コパノキッキングの能力なら間に合う計算なのだが、“これが競馬”というよりほかない。

ジャスティンがレース環境を味方につけ、最大限の能力を発揮したことは間違いない。競走馬の強さとは、速さやスタミナだけではなく、どんな環境にも動じない精神力も求められるのだが、競馬場の大歓声はその要素を測るために不可欠であり、多くのファンが競馬場に戻ってきたときにジャスティンも真価が問われることになるだろう。とはいえ、まだまだ成長が望める4歳馬で、大目標に据える同舞台のJBCスプリントJpnⅠまで、さらなる経験を積めるはず。堂々と走る姿を、また大観衆の前で見せてくれるに違いない。


  • 地方最先着は2着でサブノジュニア(大井)
  • 取材・文
  • 大貫師男
  • 写真
  • 早川範雄(いちかんぽ)

Comment

坂井瑠星 騎手

ゲートだけ無事に出てくれれば、いい競馬ができると思っていました。1歩目に少しつまずきましたが、二の脚がとても良く、楽に前に行くことができました。ここ3走くらいで特に力をつけてきたと思いますし、強い馬が相手だった今回もいい競馬をしてくれたので、これからがとても楽しみです。

矢作芳人 調教師

スタートさえ出ればいい勝負になると思っていましたし、おそらくハナに行けるだろうと思っていました。プラン通りのレースができたと思います。もともと潜在能力はあり、徐々に大人になってきたことが、この成績につながっていると感じています。次走はさきたま杯か北海道スプリントカップの予定です。