昨年はコロナ禍で無観客となったばんえい記念に、ファンが戻ってきた。出走馬は2016年以来のフルゲート10頭で、すべてオープンクラス。前日にはばんえい記念がラストランとなるオレノココロ、コウシュハウンカイ、ソウクンボーイの引退セレモニーが行われた。
当日は朝から冬の終わりを感じさせる雪が降り続き、馬場水分は2.7%。小雨に変わったがレースが近づく頃には止んで舞台は整った。
今年も陸上自衛隊第5音楽隊による、4市開催時代と現在のダブル重賞ファンファーレでスタート。第1障害を各馬がゆっくり越えた後、初挑戦のメジロゴーリキとミノルシャープが先行。各馬は高重量戦らしく何度も刻みながら進み、オレノココロ、コウシュハウンカイ、ホクショウマサルが入れ替わり先頭に立つ。
先頭のコウシュハウンカイが98秒で第2障害手前に到達。一列に並んだ馬の鼻から白い息が見え、呼吸を整えているのがわかる。
最初に仕掛けたのは、これまでばんえいを引っ張ってきたオレノココロとコウシュハウンカイ。それを見て絶好調のキタノユウジロウも登った。障害巧者のコウシュハウンカイが最初に越え、キタノユウジロウが2番手で降り、ホクショウマサル、ミノルシャープも続いた。
ホクショウマサルは、1トンを引いているとは思えない末脚で前に迫ると、残り15メートルで先頭に立ち、そのままゴールした。2着はゴール前でコウシュハウンカイをとらえたキタノユウジロウ。ばんえい記念3勝のオレノココロは4着だった。勝ちタイムは2分43秒4。全馬が完走した。
「嬉しいの一言です」。レース後、ホクショウマサルの阿部武臣騎手は涙ながらにインタビューに答え、ファンの温かい拍手に包まれた。同馬はノド鳴りの手術から復活し、昨年、地方競馬最多連勝記録の31連勝を達成。記録が途切れたばんえい記念3着の後は、1トン後の後遺症“重病み”もあり今季は苦戦が続いた。阿部騎手は毎日ホクショウマサルの健康状態に気を配り、秋ころから調子も回復。この日に向けて1トン近くのそりを引いて鍛えてきた。さまざまな思いが去来したことだろう。阿部騎手は今シーズン180勝で初のばんえいリーディングとなり、12年連続首位の鈴木恵介騎手をついに逆転した。
初挑戦のキタノユウジロウは2着で、前日負傷した松田道明騎手から乗替った菊池一樹騎手が大役を果たした。菊池騎手は前日、3歳重賞イレネー記念を制覇したばかり。松田騎手から「自信を持って乗ってくれ」と伝言を受け、思い切りの良さを見せた。コウシュハウンカイは「最後までこの馬らしいレースをしてくれた」と藤本匠騎手は愛馬に感謝を述べた。オレノココロは雪による軽馬場が響いた。
この日、2020年度のばんえい競馬の開催が終了。発売総額は483億5278万7900円で2019年度の約310億円を大幅に上回り、過去最高(1991年度)の322億円余りをも上回る発売レコードとなった。
Comment
阿部武臣 騎手
末脚には自信があり、体が大きい(馬体重は1226キロ)ので、障害さえ越えられればと思った。勝因は障害をひと腰で越えたこと。仕掛けが早いかなと思ったが予想以上の動きをしてくれた。ばんえい記念に出られる馬にはなかなか巡り会えないし、1着はさらに難しい。獲れてよかったです。いい年でした。
坂本東一 調教師
馬場はマサルに向いていた。2障害をあの位置で降りたのを見た時に、獲れた!と思った。言葉で表せないくらい感動しました。騎手との呼吸が合ったのだと思う。馬は1トンに耐えられる筋肉をつけてきた。(亡くなった先代の)井内昭夫オーナーに見せたかった。