2020年10月16日(金)
ファイナルには全国の強豪が集結
ボーナスは岩手フレッチャビアンカに
ダービーグランプリの時期が10月第1日曜日に繰り上げられた昨年は、多くの主催者で日程調整に苦労したことがうかがえた。8月終盤から9月中旬にかけて対象レースが凝縮してしまい、一昨年までとは違うローテーションにとまどう有力馬陣営も見られた。
そのきびしい日程が考慮されたか、もしくは主催者内の事情なのか、王冠賞(門別)が1週、ロータスクラウン賞(佐賀)が2週、不来方賞(盛岡)が10日、それぞれ昨年より繰り上げられた。
逆に日程が繰り下げられるレースもあった。黒潮菊花賞(高知)は2週繰り下げられたが、これは昨年、高知が西日本ダービーの舞台になったため、黒潮菊花賞を早い時期にやらざるをえなかったためと思われる。また戸塚記念(川崎)は2週繰り下げられたことで、黒潮盃(大井)から上位馬の出走が目立った。
大きな変更は、秋の鞍(名古屋)がシリーズから抜けたこと。昨年は同じ東海地区の岐阜金賞(笠松)からわずか中4日と日程がかぶってしまったため、秋の鞍は今年1400メートルに距離短縮し、時期もずらして3歳の短距離路線へとかじを切ることになった。
西日本ダービーの位置づけは引き続き難しい。今年の舞台は笠松で、岐阜金賞から中1週、園田オータムトロフィー(園田)からは中6日、サラブレッド大賞典(金沢)からは中3日、黒潮菊花賞に至っては西日本ダービーの3日後という日程になった。生え抜きでない馬は西日本ダービーに出走資格がないので迷うことはないが、佐賀・笠松以外の西日本各場の生え抜きの馬はどちらか選ばなければならなかった。
ただ今年、ファイナルのダービーグランプリにはボーナスを得る可能性のある馬が6頭も出走(昨年は4頭)。充実のメンバーで3歳秋の頂点が争われた。
王冠賞(門別)
断然人気は北海優駿を勝ったアベニンドリームだったが、そこで3着に好走していたコパノリッチマンが早めの仕掛けから直線入口で先頭に立って押し切った。
今年の北海道の三冠はすべて異なる馬が制することとなったが、アベニンドリームとコパノリッチマンはこのあと黒潮盃に遠征し、コパノリッチマンが2着に好走。世代トップツーが揃って遠征したのは、王冠賞の時期が昨年より早まったことで、黒潮盃との間隔が中3週と余裕ができたことも大きい。
かつてのホッカイドウ競馬ではシーズンが終了すると2歳の素質馬の多くが中央や南関東に移籍してしまい、3歳戦線は空洞化ともいえる状況にあった。しかし3年前には王冠賞を制したスーパーステションがダービーグランプリを制し、昨年は三冠馬となったリンゾウチャネルが園田・楠賞も制して全国区の活躍を見せ、今年もコパノリッチマンが黒潮盃で好走。ホッカイドウ競馬3歳戦線の充実ぶりを示す結果ともいえる。
ロータスクラウン賞(佐賀)
九州ダービー栄城賞を制したトップレベルは休養、同2着のエアーポケットはその後他地区への遠征を続けて不在となり、古馬相手の吉野ヶ里記念を制したミスカゴシマがここでは断然人気。
しかし勝ったのは、唯一高知から遠征だったマイネルヘルツアス。3コーナー手前で先頭に立ったミスカゴシマを直線で競り落とした。中団から脚を伸ばしたコウキトウライが半馬身差で2着。直線粘りきれず3着だったミスカゴシマは、速い流れの3番手を追走したこともあっただろうし、九州ダービー栄城賞でも3着に負けていたように、やはりこの距離は長いのかもしれない。
高知所属馬のロータスクラウン賞制覇は、2014年のクロスオーバーに続く2頭目で、同じ別府真司調教師の管理馬。高知優駿から2カ月後、さらにここから黒船菊花賞へは約1カ月という間隔は、ローテーション的にも狙いやすかったのだろう。
黒潮盃(大井)
南関東クラシック戦線で好走したブラヴール、ブリッグオドーンが人気を集めたが、ともに後方からの追走となって見せ場をつくれず。単騎で逃げたファルコンウィングを早めにとらえにかかったインペリシャブルが、2着コパノリッチマンに6馬身差をつけての圧勝。2歳時の鎌倉記念以来の勝利で復活を印象づけた。
インペリシャブルは不安視された初距離を克服したが、続く戸塚記念では8着。勝つときは強いが、負けるときはあっさりというタイプ。展開に左右されるなどメンタル的なことで能力を発揮できないこともあるようだ。
岐阜金賞(笠松)
北陸・東海・近畿地区の交流だが、7日後に園田オータムトロフィー、さらにその3日後にサラブレッド大賞典という日程ゆえ、フルゲート12頭は東海勢同士の争い。
駿蹄賞、東海ダービーに続く東海三冠制覇の期待で断然人気となったのがニュータウンガール。好位から4コーナー手前で先頭に立ちかけたところ、そのタイミングを見計らったように強襲したのがダルマワンサ。直線は2頭の一騎打ちとなり、最後はダルマワンサが1馬身半、突き放しての勝利となった。
ダルマワンサは門別デビューで、その後、笠松と岩手で移籍を繰り返し、これがキャリア19戦目。ここまで重賞では2着5回と勝ちきれなかったが、初騎乗の加藤聡一騎手が相手と見た二冠馬を見事ねじ伏せて見せた。
園田オータムトロフィー(園田)
難なくハナをとって単騎の逃げに持ち込んだステラモナークが、向正面から後続との差を広げて逃げ切った。のじぎく賞のときのように他馬に競りかけられたり、兵庫ダービーのように逃げられなかったりするとモロイ面はあるが、逃げて自分の形に持ち込めれば強い。
ステラモナークは長距離輸送に加えて距離的なこともあってダービーグランプリには出走せず、冒頭のとおり距離短縮となった秋の鞍(名古屋)から地元の楠賞という1400メートル路線で全国交流のタイトルを狙うことになるようだ。
不来方賞(盛岡)
後続を引きつけスローの逃げに持ち込んだグランコージー、直後につけた1番人気ピアノマン、4番手から直線外に持ち出して並びかけたフレッチャビアンカ。直線を向いて3頭の追い比べとなったが、残り100メートルでフレッチャビアンカが2頭を振り切っての勝利。4着以下は大きく離れた。
対戦成績からは3頭いずれにもチャンスはあったが、フレッチャビアンカが充実ぶり示しての結果。これで冬休み明け後、岩手に移籍してからは5戦4勝、2着1回。一冠目のダイヤモンドカップ(水沢1600m)こそグランコージーに9馬身差をつけられての2着だったが、東北優駿に続いて岩手二冠を制した。その二冠とも1馬身差で2着はピアノマンだったが、着差以上に強いレースぶりだった。
サラブレッド大賞典(金沢)
石川ダービーを制したハクサンアマゾネスは2週前の牝馬重賞・加賀友禅賞を勝ってここは不在。前3頭が競り合うハイペースで、離れた5番手から3コーナー手前でとらえたカガノホマレがそのまま楽に突き放した。中央未勝利から転入して連勝中の馬も人気上位になってはいたが、それらをまったく寄せ付けなかった。
石川ダービーでは3着だったカガノホマレだが、仮にハクサンアマゾネスが出ていたとしても負けなかったのではないかと思わせる強いレースぶり。ともにその馬名らしく金沢の生え抜き。ほかに金沢の生え抜きでは、北日本新聞杯とMRO金賞を制したフジヤマブシが4日後の西日本ダービーに出走し、アタマ+3/4馬身差の3着に好走。金沢のこの世代は生え抜きの活躍が目立った。
西日本ダービー(笠松)
何がなんでもという高知のガンバルンが逃げてペースをつくったが、3コーナー過ぎで金沢のハクサンアマゾネス、佐賀のエアーポケットが馬体を併せて一気に先頭へ。遅れて仕掛けた兵庫のイチライジンが直線外からこの2頭に迫り、ゴール前は3頭横一線の激戦。金沢の吉原寛人騎手が手綱をとったエアーポケットが、イチライジンをアタマ差でしりぞけた。
佐賀皐月賞3着、九州ダービー栄城賞2着だったエアーポケットは、その後は遠征に打って出た。高知優駿(高知)10着、オパールカップ(盛岡)4着、黒潮盃(大井)14着と結果を残せず、遠征続きのダメージも心配されたが、むしろ強敵相手に揉まれることで力をつけた。佐賀所属馬は西日本ダービー初勝利。
黒潮菊花賞(高知)
逃げ馬ガンバルンが3日前の西日本ダービーに遠征したことで、ここは流れが落ち着くかと思ったがそうはならず。一冠目の黒潮皐月賞を制したレインズパワー、二冠目の高知優駿を制したリワードアヴァロン、人気2頭が互いに譲らず、ハナをとったリワードアヴァロンがペースを上げれば、レインズパワーも離れずプレッシャーをかけるという展開は、結果的に厳しいペースとなって共倒れ。
4コーナーで外から2頭をとらえにかかったフルゴリラ、ラチ沿いから抜け出したペイシャワイルド、ともに勝ったかと思わせるシーンがあったが、ゴール前でまとめて差し切ったのがフリタイム。黒潮皐月賞6着、高知優駿5着は、ともに勝ち馬から2秒以上の差。3歳になっての勝ち星は、3月に自己条件で挙げたひとつだけ。競馬は強い馬が勝つとは限らない、と、あらためて思わせる一戦だった。
戸塚記念(川崎)
黒潮盃を制したインペリシャブルが好ダッシュを見せたが、内のファルコンウィングも譲らず、2頭のハナ争いとなって、最初の3コーナーを回るところで早くも先頭から最後方まで20馬身はあろうかという超縦長の展開。2番手のインペリシャブルは2周目の3コーナー過ぎで失速したが、先頭のファルコンウィングは直線を向いても単独先頭。そのまま粘るかにも思えたが、4コーナーではまだ差のある5番手から差し切ったのがティーズダンクだった。
全日本2歳優駿JpnI・3着以降、京浜盃、羽田盃、東京ダービーと好走するも勝ちきれないレースが続いていたティーズダンクだったが、今回は決め手を生かせる展開で、南関東移籍後の重賞初制覇。同じく好走多数も重賞タイトルに手が届いていないファルコンウィングも、黒潮盃3着に続いて負けて強しの走りを見せた。
ファイナルダービーグランプリ(盛岡)
単騎で逃げたのは地元のグランコージーで、離れた2、3番手のコパノリッチマン、ティーズダンクが4コーナーで前をとらえようとしたところ、並ぶまもなく突き抜けたのが地元の不来方賞を制していたフレッチャビアンカだった。
地の利があるにしても、2着ティーズダンクに4馬身差。勝ちタイムの2分5秒7は、同じ良馬場だった不来方賞から1秒5も詰めた。不来方賞からさらに力をつけ、全国の強豪相手にファイナルを制した。
3歳秋のチャンピオンシップは2017年に始まり、今年で4年目。岩手所属馬は、2年前にもチャイヤプーンが戸塚記念勝利(このときは船橋所属)からダービーグランプリを制しており、馬主の大久保和夫氏、千葉幸喜調教師には、2度目の本シリーズボーナス獲得となった。
定着した日本のダート血統
勝ち馬の血統を見ると、ダルマワンサ、フリタイムの父がフリオーソ、インペリシャブル、ステラモナークの父がエスポワールシチー、ティーズダンクの父がスマートファルコン。勝ち馬10頭のうち、ちょうど半数の5頭の父が、日本のダートでチャンピオン級の活躍をして種牡馬になった馬たち。さらにフリオーソ産駒はこの世代、佐賀のトップレベルも九州ダービー栄城賞を制している。
こうしたシリーズ競走の総括では何度か取り上げているが、日本のダート競馬で活躍した馬が、種牡馬としてもダート競馬の主流となる時代が来たことは感慨深い。
さらに母の父を見ると、コパノリッチマン、カガノホマレ、ティーズダンクの母の父がキングカメハメハで、フレッチャビアンカの母の父がシンボリクリスエス。それぞれ自身の現役時は芝での活躍だが、キングカメハメハの産駒には、ホッコータルマエ、ベルシャザール、チュウワウィザード、タイセイレジェンド、ハタノヴァンクールがいて、シンボリクリスエスの産駒には、ルヴァンスレーヴ、サクセスブロッケンというダートGI/JpnI勝ち馬がいる。この母の父2頭も、日本のダート競馬の主力血統となっている。
賞金アップが強い馬をつくる
地方競馬の売上は2012年度以降V字回復が続き、2019年度の総売得額は7000億円を超えた。今年度はコロナ禍による無観客開催が続いたにもかかわらず、4~8月の総売得額は前年同期比で131.5%。このまま推移すれば今年度は9000億円超えも期待できそうなところまできた。過去最高の売上を記録したのが1991年度で9862億円余り。当時より地方競馬の開催場は半減となったが、売上ではいよいよその数字に近づいてきた。
そうした地方競馬全体での売上増によって賞金も増加傾向にあり、もともと賞金が高かった南関東以外の主催者でも、ダートグレード以外の主要重賞の1着賞金が500~1000万円というところがほとんどになった。
全国的に賞金が上がったことで、どこの競馬場にも素質馬が入厩しやすくなり、また中央からは、中級~上級クラスで頭打ちになった馬や、期待の良血でも仕上がりが遅れた馬などが移籍しやすい環境にもなった。
3歳秋のチャンピオンシップのファイナルであるダービーグランプリには各地の世代最強クラスの馬が集い、レベルの高い争いになったことは、売上増にともなう賞金アップという好循環が要因として考えられる。