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クローズアップ

当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の
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2020年7月2日(木)

地方出身の血統も活躍
 無観客でも馬券は活況

2020年は競馬だけでなくすべてのスポーツにおいて、新型コロナウイルスの影響とともに後世に語り継がれるのだろう。競馬が無観客で開催されるのは戦後初めてのこと。本場および直営場外での実馬券が売上のほとんどだった時代なら開催自体が成立しなかったと思われる。馬券の売上の多くをネット・電話投票が占める時代であればこそ実施できた無観客開催といえる。

無観客の競馬開催となった2月末の頃、個人的にはダービー(JRAの日本ダービーも含めて)の頃には、ファンの前での競馬ができるだろうとなんとなく考えていたのだが、今思えばあまりにも楽観的すぎた。

無観客は残念だったが、半数の主催者で“ダービー”の賞金が増額されたことでは関係者にとってモチベーションが上がったのではないだろうか。1着賞金は、兵庫が1300万円→2000万円、北海道が700万円→1000万円、金沢と高知が500万円→700万円という具合だ(その他は前年と同額で、大井4200万円、佐賀・愛知700万円、岩手500万円)。

売上についてはあとで触れるが、ダービーシリーズは全8レースが前年比でかなりのアップ。なかには昨年の2倍近いところもあった。

波乱が多かったのも今年の特徴。人気が割れたのは高知優駿だけで、それ以外は1番人気馬の単勝が2倍以下。それぞれに中心視される馬がいたが、その1番人気馬の勝利は3頭だけ。固く収まったといえるレースはひとつもなかった。九州ダービー栄城賞は上位人気3頭での決着だったが、断然人気のミスカゴシマが3着に敗れたため馬連複が1430円、東海ダービーは1番人気→3番人気で馬連複は410円だが3着が11番人気だった。

九州ダービー栄城賞(佐賀)

地元佐賀では負けなし10戦10勝の牝馬ミスカゴシマが断然人気となったが、勝負どころからの反応がいまひとつで3着。勝ったのは、これも牝馬のトップレベルで、これまでミスカゴシマの2着が3回。佐賀皐月賞では中団から向正面で早めにまくって、先に抜け出していたミスカゴシマにクビ差まで迫ったところがゴールだった。今回は5番手にいたミスカゴシマが仕掛けたのを見るとすかさずうしろから動いて3コーナー過ぎでまくりきってしまった。たしかにミスカゴシマが息切れしてしまった感じだったが、佐賀皐月賞があってこその逆転といえよう。鞍上の兒島真二騎手は57歳。愛知所属時の2013年にも50歳で東海ダービーを制していた。

石川ダービー(金沢)

金沢でも勝ったのは牝馬のハクサンアマゾネス。前半は後方で構え、3コーナーから一気にまくって出て、先頭に立っていたカガノホマレを直線で振り切った。ただハクサンアマゾネスもゴール前は一杯で、一気に差を詰めてきたフジヤマブシをなんとかクビ差で振り切った。デビューから4連勝での“ダービー”制覇。近年、中央競馬では、牡馬も牝馬も3歳初戦で一冠目を使ってダービー、オークスを制するということもめずらしくなくなったが、地方競馬で4戦目での“ダービー”制覇はめずらしい。しかも冬季休催がある金沢の生え抜きゆえ、デビューが4月だったということではなおのこと。

東京ダービー(大井)

羽田盃を制したゴールドホイヤー、2着のブラヴール、2頭が人気の中心になると思われたが、ブラヴールがレース当日午前中に競走除外。これによってゴールドホイヤーが単勝1.4倍の一本かぶりとなった。しかし勝ったのは9番人気のエメリミット、クビ差2着にも5番人気のマンガンで波乱の決着。前走東京湾カップの1、2着馬が順序を逆にしてのワンツーで、羽田盃に出走していなかった馬のワンツーは、過去10年でも2016年に一度あっただけ。このときも3番人気→14番人気という波乱の決着だった。勝ったエメリミットの鞍上はデビュー17年目、船橋の山口達弥騎手。人馬ともにこれが重賞初制覇で、エメリミットが勝った東京ダービーというより、山口達弥騎手の東京ダービーとして記憶されることになりそうだ。断然人気のゴールドホイヤーは直線伸びず5着。後日、剥離骨折が伝えられた。

東北優駿(盛岡)

一冠目のダイヤモンドカップで2着に9馬身差をつける圧勝を見せたグランコージーが断然人気に支持されたものの、先行争いの塀ペースに巻き込まれ直線を向いたところで一杯、4着に敗れた。勝ったのは中団に控えていたフレッチャビアンカ。ダイヤモンドカップでは1番人気で2着に敗れていたが、今回は5番人気ということで気楽に乗れたということはあったかもしれない。岩手の三冠路線は今年また変更があり、一冠目の水沢1600メートルから、二冠目が盛岡2000メートルという、まったく違うコース設定になったことに加え、勝ったフレッチャビアンカは盛岡初戦、2着ピアノマンは船橋からの転入初戦だったという、そこを評価するのも難しかった。

東海ダービー(名古屋)

冒頭で1番人気馬の勝利は3頭と書いたが、盤石の勝利は東海ダービーのニュータウンガールだけだったのではないか。3番手好位に構えて抜群の手応えのまま4コーナー手前で先頭、中団から迫ったエムエスオープンを難なく突き放した。牝馬のワンツー。東海地区の3歳戦線は特に近年牝馬の活躍が目立ち、一冠目の駿蹄賞は3年連続、東海ダービーは2年連続牝馬の勝利となった。

勝ったニュータウンガールは早くから東海ダービーを目標と定めていた。年明け4戦目という余裕をもったローテーションで、地元笠松は使わずその4戦すべて名古屋コース。勝つべくして勝った“ダービー”とも言える。なお、笠松の井上孝彦調教師、佐藤友則騎手、ともに、前身の名古屋優駿を含めて東海ダービーは初制覇となった。

兵庫ダービー(園田)

逃げたディアタイザン、ぴたりと2番手のステラモナークが、向正面半ばから3番手以下を離しての一騎打ちは、7番人気のディアタイザンが、1番人気ステラモナークを半馬身差で振り切った。枠順の内外、急に強く降り出した雨の重馬場、距離延長など、さまざまなことがディアタイザンに味方したと思われるが、迷わず逃げてレースを支配した杉浦健太騎手の好騎乗も光った。今年でデビュー11年目の杉浦騎手は、昨年85勝、兵庫リーディング6位は、ともにキャリアハイ。“ダービージョッキー”となってさらに存在感を増している。

高知優駿(高知)

他地区からの遠征もあって、今年のダービーシリーズで唯一、人気が割れたのが高知優駿。勝ったのは、黒潮皐月賞と前走の敗戦で人気を落としていたリワードアヴァロン。近年、高知競馬は馬券の売上増や生え抜き馬の活躍で全国的な注目となっているが、リワードアヴァロンが高知競馬にまた新たな歴史を刻んだと言っていいだろう。父は中央から高知に移籍後、全国に遠征して活躍したグランシュヴァリエ。高知所属馬が種牡馬になること自体がきわめてめずらしいことで、その数少ない産駒から“ダービー馬”が誕生したということは奇跡に近い。一時期27万円まで落ち込んでいた高知優駿の1着賞金が、昨年の500万円からさらにアップして今年は700万円。今の高知競馬の勢いを示している。

北海優駿(門別)

一冠目の北斗盃では1番人気に支持されるも6着に敗れていたアベニンドリームが再び1番人気となってその期待にこたえて見せた。北斗盃はシンボとハナを争っての共倒れ。今度はシンボを単騎で行かせてのスローペースを4番手で追走。直線、粘るシンボとの追い比べとなって、3/4馬身差で振り切った。2歳時には北海道2歳優駿JpnIIIで2着があったが、これが重賞初制覇。北海道に所属したまま、冬期休養を挟んでの成長を見せた。一方、北斗盃を制したレッドカードは5着。昨年の3歳戦線ではリンゾウチャネルが圧倒的な強さで三冠を制したが、同じ門別競馬場でも、内回りの1600メートルから、外回りの2000メートルへとコースが変わる二冠を制するのは容易なことではない。

生え抜きか北海道デビューか

今年はそれぞれの競馬場生え抜きの活躍が目立った。佐賀は地元負けしで断然人気だったミスカゴシマも生え抜きとして注目されていたが、逆転勝利となったトップレベルも佐賀の生え抜き。ほかに金沢・ハクサンアマゾネス、大井・エメリミット(所属は船橋)、兵庫・ディアタイザン、北海道・アベニンドリームが、デビューから所属が変わらいないままの“ダービー”制覇となった。

岩手・フレッチャビアンカ、名古屋・ニュータウンガール(所属は笠松)、高知・リワードアヴァロンの3頭は門別デビューだった。

血統面では、今年はダービーシリーズに限らず地方競馬ゆかりの血統の活躍が目立っていて、ダービーシリーズでその代表は前述のとおり、高知のリワードアヴァロンということになる。

そして今年の3歳馬が4世代目の産駒となるフリオーソは、今年もダービー馬の父となった。3年前の初年度産駒はフリビオン(高知)、1年置いて昨年のヒカリオーソ(川崎)、そして今回、佐賀のトップレベルがフリオーソ産駒としてダービーシリーズ3頭目の勝ち馬となった。

注目のサウスヴィグラス産駒では、ディアタイザンが兵庫ダービーを制した。2017年に東京ダービー&ジャパンダートダービーJpnⅠを制したヒガシウィルウィンをはじめとして、種牡馬の晩年になって中距離をこなす産駒が増えてきたが、兵庫ダービー制覇は2013年のユメノアトサキに続いて2頭目となった。なお、今年6月23日現在の地方サイアーランキングでは、収得賞金5億3479万円のサウスヴィグラスは、2位のゴールドアリュール(2億7068万円)にダブルスコア近い差をつけての首位。サウスヴィグラス産駒は今年デビューする2歳馬が最後の世代となる。

勝ち馬の血統表で目立ったのは、シンボリクリスエス。東京ダービーを勝ったエメリミットの父で、九州ダービーのトップレベル、東北優駿のフレッチャビアンカは、ともに母の父がシンボリクリスエス。自身の現役時はは天皇賞・秋、有馬記念をそれぞれ連覇しGI・4勝。すでに種牡馬として活躍しているエピファネイア、ストロングリターンなどを出しているが、サクセスブロッケン、ルヴァンスレーヴなどダートの一流馬も多い。

東北優駿は昨年の2倍近い売上

地方競馬はコロナウイルスによる無観客競馬でも、むしろ売上が伸びているところもあるが、ダービーシリーズは伸びたどころか大幅アップという結果には驚かされた。

施行日 レース名 売得額(円) 前年比 前年売得額(円)
5月31日(日) 九州ダービー栄城賞 258,685,200 179.0% 144,510,900
6月2日(火) 石川ダービー 193,601,400 181.8% 106,487,300
6月3日(水) 東京ダービー 931,455,400 115.9% 803,399,500
6月7日(日) 東北優駿(岩手ダービー) 244,067,200 195.3% 124,980,100
6月9日(火) 東海ダービー 167,837,600 120.1% 139,699,700
6月11日(木) 兵庫ダービー 263,230,400 170.4% 154,466,800
6月14日(日) 高知優駿 271,066,200 162.2% 167,129,500
6月18日(木) 北海優駿(ダービー) 204,296,400 136.6% 149,507,900
8レース計 2,534,239,800 141.6% 1,790,181,700

東京ダービーはそもそもの金額が大きいので前年比15.9%の伸びだが、それ以外はいずれも20%以上の伸び。

東北優駿に至っては2倍近い伸びとなった。昨年も今年も日曜日で、発走も同じ18時10分だったが、昨年が安田記念翌週のGIが行われない日だったのに対して、今年は安田記念の開催日だったことで、競馬の参加人口が多かったのが要因と思われる。

昨年はすべてのレースでJRA-PATでの発売があったが、今年は北海優駿のみ発売がなかった。それでも北海優駿は36.6%増という伸びを見せた。

売得額では東京ダービーが突出しているのは当然として、高知優駿が昨年に続いて2番目の売上を記録した。

  • 斎藤修
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