大井2000メートルは“チャンピオンディスタンス”である。スピードだけでは押し切れない、タフさと強さが求められる舞台であり、真のチャンピオンの称号を手に入れるためには、避けて通れない場所。ただ、馬場状態が結果を左右しやすいというのが特徴でもある。この開催は直前から初日にかけて雨が降り、多少読みにくい状態だったが、このレースが行われる3日目を迎え、幸い有利不利のない、タフな馬場になりつつあった。
そんなチャンピオン決定戦の舞台に、精鋭14頭が集結。当初、登録があったルヴァンスレーヴとゴールドドリームが回避したのは残念だったが、それでもJRA勢は豪華メンバーで、フェブラリーステークスGⅠを制したインティに、昨年の東京大賞典GⅠで勝利したオメガパフューム、底を見せないチュウワウィザードなどがエントリーしてきた。対する地方勢も転入初戦となるノンコノユメ、大井記念で完勝劇を演じたモジアナフレイバー、北海道の快速スーパーステションなど楽しみな面々が集い、帝王の座を目指す戦いの火ぶたが切られた。
ハナを切ったのは浦和のシュテルングランツ。川島正太郎騎手を背に思い切った逃げを見せ、ハイラップを刻む。こうなるとインティ、スーパーステションなど先行馬には厳しい流れ。一方で、インティを目標とする差し馬も早めの仕掛け。4コーナーでは馬群が密集し、激しい消耗戦の様相を呈して直線に向いた。
ふと、ここで昨年の東京大賞典GⅠが頭をよぎる。先団を進んだケイティブレイブが抜け出したところへ、オメガパフュームが強襲した、あの場面。今回も先団からチュウワウィザードが抜け出したところへ、外から強襲したのはオメガパフュームだった。当時を上回る後半3ハロン36秒7の爆発的な末脚で差し切り、GⅠ/JpnⅠ・2勝目を挙げた。
鞍上は、地方の短期免許を取得してここに臨んだダミアン・レーン騎手。オーストラリア拠点の25歳は、この3日前にリスグラシューで宝塚記念GⅠを制し、日本でもすっかりおなじみの存在となった。後方13番手を追走し、4コーナーでも10番手だったが、「ペースが速いと思ったし、折り合いをつけることに集中した」と流れを読み、戦略を的確にチョイス。その勝負勘はさすがのひと言で、初めての大井でも、この日3鞍目の騎乗でアジャストしてみせた。
1馬身1/4差の2着にはチュウワウィザード。GⅠ/JpnⅠは初挑戦だったが、堂々とした立ち回りを見せ、トップクラスの力を証明した。川田将雅騎手は「直線でもいい雰囲気で走れていたけど、勝った馬が強かった」とオメガパフュームの末脚をたたえたが、差し馬有利の流れを先行し、2着に食い込んだ内容は高く評価できる。デビューから12戦して4着以下がない好素材が、いよいよダートの頂点をターゲットに定めた印象だ。
大井への転入初戦だったノンコノユメが3着。昨年のフェブラリーステークスGⅠを制した実績馬が、復活ののろしを上げた。まだ仕上がり途上の印象だったが、不安視されたスタートも決まり、勝ち馬に次ぐ37秒4の末脚を発揮。真島大輔騎手も「最後の枠入りというのが良かったのかもしれないけど、ゲートもきちんと出て、道中も気分良く走ってくれた。途上でもこれだけ走れたし、やれる力がある」と手ごたえをつかんだ様子だった。
一方、1番人気のインティは2番手を進んだものの直線で力尽き、6着に敗れた。「折り合いがつかなかった。自分のリズムで運べたときは強いけど、まだ気性的な弱点がある」と武豊騎手。これまでの実績からもセンス、能力は一級品だが、真のチャンピオンとなるにはタフな精神面を手に入れる必要がありそうだ。
ともあれ、オメガパフューム。ハイペースを後方から進め、『展開が向いた』とも見えるが、パワー優先の馬場、そしてタフさが要求される消耗戦を勝ち切り、ダートチャンピオンにふさわしい走りを見せた。これで大井2000メートルのGⅠ/JpnⅠは2勝目。時代を代表するチャンピオンとして、地歩を固めつつある。
Comment
D.レーン 騎手
前半はもう少し前のポジションにつけられるかと思っていましたが、スタート直後のペースが速かったので、折り合いに集中しました。残り1000メートルくらいで手ごたえが良かったから、あの位置でも不安はなかったですね。直線の反応もすごく良く、すばらしい脚を発揮してくれました。
安田翔伍 調教師
目標にしていたレースを勝つことができて、馬に対してねぎらいの気持ちでいっぱいです。前走は3着でしたが、ここへ向けて集中力が高まっていたし、いい前哨戦になっていたと思います。馬体はけっして大きくないですが、レースに向かうまでの気持ちや精神面の強さが結果に表れていると思います。