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クローズアップ

当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の
気になる話題を写真と共にご紹介致します。

2019年11月5日(火)

「フォトうまコンテスト×ベストターンドアウト賞」
 厩務員へインタビュー

8月1日から8月20日まで実施した『2ndシーズン・フォトうまコンテスト』。撮影テーマを『地方競馬ベストターンドアウト賞』と称し、厩務員にスポットを当てたフォトコンテストを実施しました。全762投稿の中から栄えあるグランプリとなる『シーズン賞』を受賞した作品の被写体となったのは川崎・佐藤博紀厩舎の厩務員である、成瀬永美(なるせえみ)さん(写真右)、佐藤里美(さとうさとみ)さん(写真左)でした。シーズン賞にこの写真を選定した、夏うま審査員・小堺翔太さんが、受賞作品の被写体となったお二人に喜びの声を聞いてきました。

フォトうまコンテスト 受賞作品に選定されて

【小堺翔太】『夏うま&厩務員!彼らはベストパートナー~地方競馬ベストターンドアウト賞~』というテーマで、受賞作品の対象となりました。まずは率直な感想をうかがいたいのですが。

【成瀬永美】撮られていることは全然知りませんでした。レースを勝って、馬を迎え入れ、ハナを撫でているところだったんですけど、自分でも自然な表情ですごくいい写真だなと思って、それが選ばれたのですごく嬉しいです。

【小堺】まさに笑顔が弾ける瞬間でしたよね。里美さんはいかがですか。

【佐藤里美】この馬は永美ちゃんの担当馬なので、私はお手伝いで引かせていただいたんですけど、メインレース(8月2日・川崎11R)に女性2人で馬を引くことってなかなかないことですし、しかも1番人気だったので結構緊張していたんです。そうしたら前走(1番人気で9着)の雪辱を果たして勝ってくれました。「やったねー!」なんて言っているところで、私も写真を撮ってもらっているのを全然気がつかなかったんですけど、そこをうまく写していただいたのを選んでいただけたのがすごくよかった、びっくりしました。

【小堺】僕もお二人の笑顔と、馬がちょっと優しい表情をしているのがいいなと思って選びました。この馬の名前と、どんな馬かについてお話しいただけますか。

【成瀬】ブースターという牡馬の4歳なんですけど、元気一杯でちょっと気難しい面を持っていて、スイッチのオン・オフが結構はっきりしています。競馬場に来て気が入ると力が強いですが、普段はおとなしくて、馬房の中では優しい面もあるので可愛いです。

【小堺】勝った時のこういう表情というのは、普段のブースターからすると優しい表情なのでしょうか。

【成瀬】レースが終わった直後なので、まだ興奮しているというか、テンションが上がった状態ですね。馬房に入っている時はもっとトロンとした表情で、落ち着いた優しい顔になるんですけど、競馬場では目つきも違います。この時はスイッチがまだオンに入っている、カッコいい表情だと思います。

【小堺】表情も含めていい場面を撮っていただけましたね。

【成瀬】ブースターの走りきった顔に汗も少し滲んでいて、ハナの感じとかも息が上がっていて、頑張って一生懸命走ってきたという馬の表情がとらえられていて、すごく嬉しいですね。

【小堺】『フォトうまコンテスト』の『夏うま』が厩務員の皆さんにスポットを当てるということで、お二人はこの企画をご存知でしたか。

【成瀬】最初は知らなかったんですけど、調教師から聞いて知りました。

【佐藤里】せっかく女性二人でパドックで馬を引くので、「何か私たちらしいものが出せたらいいね」と話していたので、お揃いのシャツに、ネクタイもちょっとアレンジして結びました。この写真だとわかりづらいんですけど、馬の尻尾を私が編んで、尻尾の飾りと私の胸についている花をお揃いにしているんです。

【小堺】そこまでコーディネートしているんですね。

【佐藤里】成瀬さんが馬の準備をして、厩舎カラーが青なので、私は青をベースに馬装とコーディネートしました。

【小堺】女性ならではのファッションの楽しみですね。

【佐藤里】厩舎は男性が多くて女性は圧倒的に少ないんですけど、女性ならではの仕事ってあると思うんです。馬への当たりの柔らかさとか、馬の扱いとか、女性にしか気づけないことってたくさんあると思うんです。力では男性には負けますけど、そのかわり私たちにしかできない仕事もあると思っています。

【成瀬】それは私も思いますね。十代の頃は男の子には負けたくないと思って力で張り合って悔しいと思うこともあったんですけど、馬とのコミュニケーションでも自分らしい仕事をするようになったら、馬も変わってきて、仕事もしやすいし、今すごく充実してます。

厩務員の魅力

【小堺】厩務員になろうと思ったきっかけをうかがいたいんですが、成瀬さんはどうしてこの世界に入ろうと思ったんですか。

【成瀬】私は子供のころから馬に乗っていて、もう20年くらいになります。乗馬のインストラクターを10年くらいやっていました。最初は、その乗馬クラブに佐藤(博紀)調教師と奥様(佐藤里美さん)がお子さんを連れてきて、それで知り合いになりました。ただ競馬関係のことはまったく知らなくて、厩務員という仕事があることも知らなかったんです。いろいろあって乗馬クラブをやめて、その時に「厩務員という仕事があるから、競馬場に見に来てみないか」って誘われました。馬に乗るのがすごく好きなので、厩務員も調教で馬に乗れる、騎手でなくても馬に乗って調教ができるんだと思って……。単純な理由なんですけど、それで飛び込みました。最初の1年は池田(孝)厩舎にいたんですけど、乗馬とは全然違って悪戦苦闘、乗馬とのギャップに悩まされました。その後、ノーザンファームとか牧場にも行って、競走馬をつくることにのめり込んで、厩務員という仕事の楽しさも知りました。川崎競馬場に来られたのは、佐藤先生と奥様と知り合えたおかげですね。

【小堺】厩務員の仕事が楽しいと思うようになったきっかけは。

【成瀬】乗馬のインストラクターだとお客様とのコミュニケーションとか、それはそれで楽しかったんですけど、私はどちらかというと、黙々と作業に集中することが好きなタイプだったので、厩務員なら馬作りに専念できます。寝ワラ上げや給餌、調教から馬の手入れ、馬の健康面のチェック、ウチの厩舎だと馬1頭に対して全部を見ることができます。私は馬が大好きなので、馬を作って、そしてレースに臨み、馬作りの職人みたいな感じで馬に携われることが楽しくて、のめり込みました。自分にすごく合ってる仕事だと思います。

【小堺】競馬場のパドックで、馬をよく見せるために心がけていることはありますか。

【成瀬】パドックは担当馬が輝けるところなので、手入れはしっかりしています。馬を歩かせるときの自分の姿勢や目線にも気をつけて、やっぱり気は張っていますね。ファンの方に見てもらうという意識は常にあります。特に馬の調子が良かったりすると、引き手を通して拳にビリビリ伝わってくることがあるんです。逆に集中してない時とか、馬とコンタクトが取れていないときとかは、パドックでも暴れられたりするんですけど、いい感じが伝わってきたときは「(お客さんに)ちょっと見てよ」って思いますね。誇らしい気持ちになります。ただ10回に1回か、年に何回か、めったに味わえないので、そのビリビリが来た時は嬉しいですね。

【小堺】この写真が撮影された日はどうだったんですか。

【成瀬】この日も良かったです。最高ではないですけど、集中はしていました。動物なので、日によって違うのは面白いですね。

【小堺】馬を引く時に、厩舎として決まり事のようなものはあるんですか。

【佐藤里】競馬はもちろんギャンブルという一面もあるんですけど、お客様に“見せるスポーツ”というのが厩舎としての考えなので、馬だけでなく厩務員の身だしなみにも気をつけるようにしています。引き綱を肩に掛けないとか、シャツを外に出したりだらしない格好をしないとか。調教のときでも、馬に乗る時は衿のついたものを着るとか、常に“見せる”という意識はありますね。それから調教師が常々言っているのは、競走馬は馬主さんの財産で、その財産をお預かりして、レースに出るのを楽しみに預託料を払っていただいているので、それだけの仕事を見せるべきだということで、厩舎一丸となってそれに取り組んでいます。

【小堺】厩務員には馬と深くつながることができるという魅力的なところがありますが、厩務員として大変なこともあると思います。どんなところを苦労されていますか。

【成瀬】調教では午前2時半から馬場が使えるのですが、厩務員はその前に掃除とか馬体チェックとか作業があるので、私は朝1時半には厩舎に来ています。ですので、生活で昼と夜が逆転してしまうということはあります。あとは乗馬クラブの馬と違って競走馬は大人しい馬ばかりではないので、暴れて怪我もしましたし、危険と隣り合わせということはあります。安心して扱えないこともあるので、常に気は張っています。

【小堺】お話を聞いていると、苦労よりやりがいの方が勝っている感じがしますね。

【成瀬】苦労もありますが、レースで勝ってくれたりとか、馬とコミュニケーションを取れた時の興奮とか、めったにないとしても、それが嬉しくて日々やっています。私は調教にも乗っていますが、入厩した担当馬と最初はうまくコミュニケーションがとれなくて、それがだんだん状態が良くなって、自分の指示に反応して馬とコンタクトが取れるようになったときは嬉しいですね。バイクや車と違って、馬に乗っているときに自分の足のような感じになった時は、馬の意識が私の方に向いて来てくれたんだという感じがします。

【小堺】里美さんは、いかがですか。

【佐藤里】最初は騎手の妻として、主人が乗っているレースしか見ていなかったんです。主人が調教師として厩舎を開業してからも、最初は事務仕事だけをしていました。それが人手が足りなくなって、厩務員もやるようになって、自分の担当馬だけでなく、厩舎全体の馬を見るようになりました。競馬ではどうしても重賞を勝つような馬ばかりがクローズアップされるんですけど、下のクラスの馬でも1頭1頭にドラマがあるんです。生産者がいて、育成牧場があって、セリに出て、馬主さんがついて。すべての馬にたくさんの人が関わって、託されるのが調教師であって、私たち厩務員とジョッキーなので、厩務員の仕事は本当に責任重大だと思います。それだけにやりがいを感じますね。だからなかなか活躍できずに終わって、人の記憶には残らないような子でも、自分はしっかり覚えておこうと思います。せっかく縁があってウチの厩舎に来たので。

【小堺】思い出に残っている馬、印象に残っている馬がいたら教えてください。

【成瀬】池田厩舎時代、C3クラスのバンダムパルフェという、厩務員として初勝利した馬が思い出深いです。佐藤調教師も騎手時代にレースに乗っていただいたことがあります。

【小堺】バンダムパルフェからはどんなことを教わりましたか。

【成瀬】競走馬に乗るときの基礎と、競走馬のパワーですね。私が担当になった時はけっこう落ち着いていたんですけど、それでも乗用馬と比べて圧倒的に力が強かったですし、“競走馬なんだぞ”というのを教わりました。その子のことは今でもよく思い出します。

【小堺】お二人から見て、地方競馬の魅力はどのようなものでしょうか。

【成瀬】川崎だったら、やっぱり馬との距離が近いというか、身近な存在だったりするところですかね。ナイターもやっていて、土日だけでなく、平日も開催しているので気軽に足を運んでもらえるところですね。

【小堺】川崎競馬場は、特にパドックもコースも目の前ですもんね。

【成瀬】走る蹄の音がすごく響いてくるので馬と近い感じですね。“会いに行けるアイドル”という感じですか(笑)。

【小堺】里美さんは。

【佐藤里】私も馬と人の距離が近いというのが、地方競馬ならではの魅力だと思います。競馬場ごとに、その地元ならではのイベントをやっていたりとか、お子様向けのイベントとか、馬を身近に感じられるイベントをやっています。それから騎手服ですね。ジョッキーごとの勝負服なので、すごく馴染みやすいし、覚えやすい。川崎では、多摩川の土手から調教も見ることができるんです。初日の出の時とか、すごくたくさんの人が土手の上に並んで写真を撮っていて、そういう中で、初日の出をバックに調教ができるのは嬉しいですね。たくさんの人に見てもらえて、身近に感じてもらえるのも魅力のひとつですね。

厩務員を目指す方へ

【小堺】フォトうまコンテストの写真を見て、厩務員さんてこういう仕事なんだ、こういう華やかな部分もある仕事なんだ、と思った方もいっぱいいると思うし、もしかしたら厩務員になりたいと思われる方もいると思います。

【佐藤里】私たちの写真を見てそう思う方がいれば嬉しいですね。

【小堺】そういう方たちに伝えたいことがあれば。

【佐藤里】最初は誰でも初めてだと思うんです。私も元は乗馬のインストラクターをやっていて、馬のことを知っているつもりだったんです。でも厩務員の仕事を始めると、全然知らないことばかり、初めて覚えることがたくさんありました。ただそれほど敷居が高い仕事ではないので、まず馬が好きというのが大前提で、もちろん好きだけではできない仕事ですけど、少しでも馬に興味を持って、いいなと思ったら、厩舎とか調教場に来てもらってもいいと思います。女性だからできないとかではなく、その人にしかできない仕事はあると思います。ただ体力は必要です。体力に自信がある人、馬が好きな人なら。

【成瀬】厩務員は馬と一番長くいる仕事なので、馬が好き、それが大事じゃないですかね。

【佐藤里】調教師より担当馬のことをよく分かっているつもりですし、本当にやりがいがある仕事だと思います。

【成瀬】普段の給餌や体調管理、馬が体調不良になったら24時間面倒を見ないといけなかったり、苦労もありますけど、それも含めて、ゲートに入れて開いた瞬間の感動を、ぜひたくさんの人に知ってもらいたい、魅力ある仕事ですね。

【小堺】あらためてファンの皆様に、競馬場に来て、こんなところを見てほしいという思いを伝えていただきたいと思います。

【佐藤里】重賞レースだけでなく、出走するすべての馬に、それぞれの厩務員さんがこだわりを持って、思いを持って、競馬場で走ってもらうために私たちは仕事をしています。そのために毎日の仕事があるわけで、レースが私たちの仕事の集大成です。私は自分の担当馬には、しっぽを編んで飾りを付けてみたりとか、私らしさを出すようにしていますので、そういうところも見てもらえたら嬉しいです。

【小堺】今回はほんとうに楽しいお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

佐藤博紀調教師へもインタビュー

【小堺】続いて、佐藤博紀調教師にもうかがいます。厩舎のスタッフお二人の姿(を写した作品)が受賞されましたが、お気持ちを聞かせていただけますか。

【佐藤博紀調教師】この賞は、狙いに行ったというのが正直なところです。厩務員という仕事はなかなかスポットライトが当たりにくい職業で、こういう企画があるのを知ったときに、いい機会だから厩舎一丸となって、この賞を狙いに行こうと。普段から馬の手入れやドレスアップはしていますが、普段以上にこの期間は強い気持ちで競馬開催に臨みました。

【小堺】もともと先生の厩舎は、馬のいでたちも綺麗だなと思って見ていたんですが、この開催があったから気合が入ったということですね。

【佐藤博】僕はすごくいい企画だと思ったので、なんとか主役になってほしいと思っていました。受賞を聞いた時はガッツポーズ、嬉しかったですね。

【小堺】先生はスタッフの皆さんに、どんなことを一番に伝えているのでしょうか。

【佐藤博】繰り返しになりますが、いろいろな人が見てくれるスポーツだということ。パドックでは堂々と胸を張って、「自分の馬が一番強いんだぞ」と見えるように馬を引け、ということは指導しています。

【小堺】ファンの皆様にはどういうところを見てほしいですか。

【佐藤博】馬のドレスアップであったりとか、人気があるないに関わらず、馬の仕上げであったり、そういうところを見て欲しいですね。厩舎によっては様々な色を使っているところもありますが、やはり馬と騎手がメインなので、馬装に関してはあまり目立たないように、控えめにしています。

【小堺】南関東でも、そうしたことにこだわっている厩舎が増えてきていると思いますが、どう感じていますか。

【佐藤博】調教師もどんどん若い人が出てきて、競馬が活性化されて、フレッシュな状態でいろいろな考え方が取り入れられて、すごく良い方向に向いていると思います。

【小堺】騎手時代に何か意識していたことはありましたか。

【佐藤博】パドックで整列したあと、馬に跨るまで、僕は必ず走るようにしていました。お客様の前では全力で、というように心がけていました。

【小堺】受賞すべくして受賞した感じですね。

【佐藤博】厳しい仕事ではありますが、成瀬をはじめスタッフ一丸となって頑張ってくれています。僕ら調教師は偉そうなことを言っているだけで、実際に現場で動いているのは厩務員です。それだけに今回の賞を取れたことには嬉しく思います。

【小堺】受賞を機に、また新たな思いもあると思いますが、最後にファンの皆様に向けて意気込みお願いします。

【佐藤博】このたびは受賞させていただき、ありがとうございました。この賞に関しては厩務員が主役になれて、ましてやウチの厩舎を選んでいただいて感謝しています。競馬の主役は騎手と馬なんですが、厩務員という仕事にも目を向けて競馬をご覧になられて、競馬の面白さを感じてほしいと思います。

左から成瀬永美厩務員、小堺翔太さん、佐藤博紀調教師、佐藤里美厩務員

なお、10月24日には川崎競馬場ウィナーズサークルにて、多くの競馬ファンの皆様に見守られる中、授賞式が執り行われました。
成瀬さん、佐藤さん、おめでとうございました。

  • 構成
  • 斎藤修
  • 写真提供
  • NAR