2019年5月26日(日)
チャンピオンズ&チャターカップGⅠ
香港・シャティン競馬場 芝2400m
ホッカイドウ競馬から海外へ
香港GⅠに挑戦したハッピーグリン
地方から3頭目の海外挑戦
ハッピーグリンの馬主・会田裕一氏は、同馬が昨年(2018年)のジャパンカップに出走する直前に中央の馬主資格も得た。それゆえジャパンカップにはぎりぎり馬主服の登録も間に合っての出走だった。着順こそ7着だったが、走破タイムの2分22秒2は、中央の芝でも十分に勝負になると確信を得たに違いない。中央に移籍すればさまざまに期待は広がるが、会田氏は地方競馬を盛り上げたいということもあり、地方に所属したままで戦っていくと公言していた。
管理するのはホッカイドウ競馬の田中淳司調教師。2013年に全日本2歳優駿JpnⅠを制し、NARグランプリ年度代表馬となったハッピースプリントでは、ドバイのUAEダービーに出走という意向もあったのだが、さまざまな事情で遠征は断念していた。そして今回のハッピーグリンについては、「2歳戦が中心のホッカイドウ競馬で、移籍しないまま使ってもらえるのは感謝しかない」とも話していた。
地方所属馬は、JRA認定競走勝ち馬であれば、3歳までは中央に出走しようと思えば多くの選択肢がある。しかしその資格がなくなる4歳になると、途端に選択肢が限られる。それは、かつてコスモバルクでホッカイドウ競馬に所属したまま中央や海外に挑戦し続けていた岡田繁幸氏も指摘していたことだ。
そしてNARグランプリ2018で最優秀ターフ馬に選出されたハッピーグリンが4歳になった2019年、矛先を向けたのは海外。4月28日の香港・クイーンエリザベスⅡ世カップに申し込んだものの選出されず。シンガポールのクランジマイル(5月25日)も検討されたが、規定には明記されていなかったものの日本調教馬は出走不可との回答だった。
そこで目をつけたのが、香港のチャンピオンズ&チャターカップだった。国際GⅠではあるものの、招待競走ではないためこれまで日本調教馬の出走はない。しかしこの年度から新たに実施されることになった地方所属馬の国際競走出走奨励金(最大500万円)の支給が背中を押した。
ただ500万円といっても、招待ではなく輸送費などすべて自腹の海外遠征ではそれですべてをまかなうことはできない。ハッピーグリンの挑戦を応援したいというファンの声もあったことから、会田オーナーはクラウドファンディングで支援を募り、最終的に285万円余りの寄付が集まった。これは地元香港の有力紙サウスチャイナモーニングポストでも記事として取り上げられていた。
チャンピオンズ&チャターカップに目をつけたのにはさらに理由があった。出走頭数の少なさだ。2014年以降は最多でも8頭で、昨年は5頭立て。これから競馬のハイシーズンに向かうヨーロッパなどから有力馬が遠征してくる可能性もほとんどない。地元香港勢にしても、2400メートルの距離は年間でわずかしか行われておらず、一線級ばかりが出走してくるわけではない。ならば、勝てずとも上位入着は狙えそうだ。
当初、外国馬ではほかに南アフリカの2頭も選定されたが回避。最終的に地元香港馬8頭とハッピーグリンの9頭立てとなった。
地方所属馬では、アジュディミツオー(05年ドバイワールドカップ)、コスモバルク(05年香港・チャンピオンズマイル、06~08年シンガポール航空国際カップ)以来3頭目、のべ6度目の海外GⅠ遠征が実現した。
出国検疫場所の選定がやや難航し、調教施設も使えることから栃木県の鍋掛牧場が使用された。5月18日(土)に成田を発って同日夜に香港着。レースで騎乗する服部茂史騎手は21日(火)にジョッキーズチャンピオンシップ・チャレンジステージ(金沢)での騎乗があったため、22日(水)までの現地での調教には吉田稔元騎手が跨った。
その後、服部騎手が香港入り。23日(木)の芝コースでの追い切りに騎乗し、400m=23秒6、200m=11秒5を馬なりでマークするという陣営も満足の仕上がりを見せた。
当初は飼い食いが落ちたが、「輸送で飼い食いが落ちるのはいつものこと」(田中調教師)。水曜日あたりから飼い食いも戻り、24日(金)の計量(香港ではレース2日前の馬体重が発表される)での1010ポンド(≒458キロ)は、前走日経賞(4着)出走時とまったく同じ。万全の状態でレースを迎えることとなった。
直線では力尽き8着
このところの香港は週間天気予報を見ても、毎日のように曇・雨・雷マークがあり、降水確率もほとんど50%以上。レース当日は昼前から雨が降り出し、遠くで雷も鳴っていた。馬場状態は、12時30分発走(現地時間)の第1レースではGOOD(乾いたほうから2番目)だったが、第2レース以降はGOOD TO YIELDINGに悪化。メインレースが近づくにつれ、コースの内側はところどころ荒れているのが目につくようになってきた。
降り続いていた雨はメインレースまで1時間を切った頃には上がり、ひとつ前のレースが発走する頃には薄日も差してきた。この日、予報での最高気温は28度。雨上がりなのでさすがに蒸し暑い。
断然人気は、昨年末の香港カップを制し、前走クイーンエリザベスⅡ世カップでは日本のウインブライトの2着だったエグザルタントで最終的に単勝1.5倍。2番人気は連覇のかかるパキスタンスターで5.6倍。昨年のこのレースでエグザルタントを2着にしりぞけていたが、それ以来勝利から遠ざかっている。今年の香港ダービー4着だったダークドリームが6.8倍で3番人気だが、これは鞍上(J.モレイラ騎手)人気もあったかもしれない。ここまでが単勝10倍以下で、ハッピーグリンは単勝39倍で6番人気だった。
パドックでは落ち着いて周回していたハッピーグリンだが、本馬場に入るとかなり気合が入った様子。馬を送り出した加藤暁海厩務員は、「ジョッキーが乗ると気合が乗るのは、いつもと同じです」と満足げな表情だった。
スタートは全馬がほぼ互角。大外9番枠のハッピーグリンは、一旦下げて内に切れ込んだ。
「馬場は内側のほうが走りやすそうな感じ。あまりうしろに構えるのではなく、ある程度前目で競馬をできれば」と田中調教師がレース前日に話していたとおりの作戦を、服部騎手は試みた。
ところが一瞬早く、8番枠のエグザルタントがハッピーグリンの前に入り絶好位の4番手を取った。ハッピーグリンは内に入れることはできず、1コーナーを回るところでは7番手の外という位置取りになった。
逃げたのはタイムワープで、最後の直線までレースを引っ張った。香港では400メートルごとにラップタイムが表示され、25.34 - 24.10 - 24.80 - 24.31 - 23.56 - 23.89 というもの。前半は24秒台でレースが流れ、後半は徐々にペースが上がっての瞬発力勝負。シャティン競馬場のゴールまでの直線は430メートル。残り300メートルを切ってグロリアスフォーエバー、さらにパキスタンスターが先頭に立ちかけた。しかしそのうしろで構えていた人気のエグザルタントが残り150メートルのあたりでとらえると、力強く突き抜けた。外から伸びた7番人気のライズハイが1馬身1/4差で2着、差なくダークドリームが3着に入った。
ハッピーグリンはといえば、4コーナー手前で追い出されたあたりでは、有力各馬と同じように手応えがあるかに思えた。しかし直線を向いて余力はなく一旦は最後方となり、やはり力尽きて追うのをやめた1頭を交わしての8着。勝ち馬からは2秒76(17馬身1/4)離されてのゴールだった。
スタート後のポジション取りからタフなレースだったが、ハッピーグリンには雨で渋った馬場も堪えたようだった。
「後ろ脚がパンとしてる馬ではないので、力が足りなかったのかもしれません。府中のようなパンパンの芝のほうが合っているのか、最後は左手前を出してるのに、苦しくなって内にもたれていました。ただ、仮にもっと前のポジションを取れても、終いの止まり方を見ると厳しかったかもしれません。敗因はほかにもあると思いますが、良馬場でやりたかったですね。(海外は)初めてづくしで、サポートしてくれる方々がたくさんいて、なんとかいい状態では送り出せましたが、結果を出せなかったのは申し訳ないと思います。オーナーとは、このあと札幌日経オープンを使おうと話しています」と田中調教師。
服部騎手は、「残念でしたけど、馬はがんばってくれたと思います。あの位置になったのは仕方ないと思いながら、それほどかかることもなく、不利も受けることなく乗れました。だた4コーナーから手応えがあやしくなったので残念でした。僕としてはいい経験になったと思います」とのこと。
渋った馬場で2400メートルの勝ちタイムが2分26秒ちょうど。初めての海外遠征となった、チーム・ハッピーグリンには厳しい戦いだった。
服部茂史騎手インタビュー
田中淳司調教師インタビュー