2014年12月11日(木) 園田競馬場
ファイティングジョッキー賞

エキサイティングジョッキー賞

チャンピオンジョッキー賞

第1戦 ファイティングジョッキー賞

第2戦 エキサイティングジョッキー賞

第3戦 チャンピオンジョッキー賞

名手12名による真剣勝負の駆け引き
僅差のポイント争いで山口騎手が優勝

 今年も12月第2週に実施された、通算2000勝以上の騎手によって争われるゴールデンジョッキーカップ。今年はその2日前に、新しい趣向が発表された。
 『兵庫のレジェンドジョッキーが、現役時の勝負服姿で誘導馬に騎乗』
 発案したのは日刊スポーツの池永博省記者。そのアイディアを兵庫県競馬組合に伝えたのが12月初旬で、それからすぐ、平松徳彦、寺嶋正勝、田中道夫という、騎手時代に2000勝以上を挙げ、現在は調教師になっている3名の“レジェンド”に承諾を得て、それが実現する運びとなった。寺嶋調教師と田中調教師の勝負服は、それぞれ下原理騎手、田中学騎手に引き継がれているのだが、平松調教師の勝負服は、現在は使用されていない。はたしてその勝負服が用意できるのかどうかが最大の心配点だったそうだが、「自宅に1枚だけあったんですよ」と、平松調教師。きれいな色のまま保存されていたその1枚を着て、ゴールデンジョッキーカップ第1戦、ファイティングジョッキー賞の誘導馬にまたがった。
 その姿に、パドックに到着した木村健、田中学の地元両騎手は、笑顔を見せながら控室に。そして騎乗合図がかかってからは、たくさんのカメラが12名の出場騎手だけではなく、平松調教師にも向けられていた。
 それは本馬場入場でも同様で、表彰台の前で馬を止めてからはさながら撮影会という状況に。たくさんのファンが誘導馬の前に集まって、とてもなごやかなムードに包まれた。
しかしレースはそれまでのムードとは一変。名手だけが騎乗するゴールデンジョッキーカップらしい、激しい内容が続いた。
 第1戦は、村上忍騎手(岩手)のブロンズテーラーが単勝1.9倍の断然人気。前走で2着に1秒1差をつけて逃げ切ったそのスピードはここでも発揮され、7馬身差をつけての独走は圧巻だった。
 そうなると、苦しくなるのはその馬を追いかけたグループ。2番手を進んだ田中騎手は最下位、向正面で位置取りを上げた的場文男騎手(大井)は6着に沈んだ。対照的に最後の直線で浮上してきたのが、道中は後方集団にいた山口勲騎手(佐賀)。園田競馬場の1230メートル戦で向正面の隊列がかなりの縦長になったのも珍しければ、ゴール前で馬場の中央より外から伸びてきたというシーンもまた、珍しいものだった。
 「抜けられるところがどこにもなくて、仕方がないから外に行っただけですよ」と山口騎手は運のよさを強調したが、勝負どころから馬群が密集するのが名手たちのレースなのだろう。逆にインコースをピッタリとまわって4着に入った岩田康誠騎手(JRA)は、「4着か……」と、納得いかないような表情を見せていた。
 とはいえ騎手の間に漂う雰囲気は、ピリピリムードからは程遠い感じ。山口騎手は「スーパージョッキーズトライアルとは全然違いますよ」と、ハイレベルなレースを楽しんでいるようだった。
 第2戦、エキサイティングジョッキー賞は、寺嶋調教師の誘導。「40年ぐらい前に作った」という勝負服は、今とは違う厚手の生地でボタン留め。「まだ53㎏だからな」と言いつつ騎乗フォームを披露するなど、ご満悦の様子だった。
 その第2戦はほとんどの出走馬が、前走で後方待機策を取っていたというメンバー。ファンにとっては展開の推理が難しい一戦となったが、そこは「こういう組み合わせなら僕が行かなきゃダメでしょ」と、逃げ先行を得意とする赤岡修次騎手(高知)。スタートしてすぐに先手を取って、レース後に川原正一騎手(兵庫)や戸崎圭太騎手(JRA)が「すごく遅かった」というほどのペースに落とし、最後までギリギリ粘って逃げ切り勝ち。ハナ、ハナという接戦で、2着に戸崎騎手、3着に内田博幸騎手(JRA)が入った。
 末脚を伸ばして4着に入った岡部誠騎手(愛知)は、「このレース、内枠だと厳しいですよ」と苦笑い。「脚を余しまくっていますからね。外枠だったら勝ってましたよ」というほどだから、トップジョッキー同士のタイトなレース運びが窺い知れるというものだ。
 しかし第3戦、チャンピオンジョッキー賞は1870メートルゆえ、こんどは騎手同士の駆け引きが勝負の要。ここも逃げ馬不在のメンバー構成だったが、スタートから先手を主張した的場騎手のエーシンオマーンが、最後までリードを保って逃げ切り勝ち。同馬を管理するのは第1戦で誘導馬に騎乗した平松調教師で、表彰式では勝負服姿で的場騎手と並んだ。
 「また実戦でも乗ってみたくなりましたよ(笑)」という平松調教師の感想は、6年上の的場騎手の姿を見れば湧き上がってくるのが当然だろう。誘導馬への騎乗が終了してからも勝負服姿のままだったのは、脱いでしまうには名残惜しいという気持ちがあったからなのかもしれない。
 2着には2番手を追走した岩田騎手が粘り込み、3着には好位から流れ込んだ山口騎手が入線。優勝争いはかなりの混戦となり、検量室周辺にいたマスコミ陣も主催者側から正式な答えが出るまで待たざるをえなかった。
 そして示された最終結果は、トップが35ポイントを獲得した山口騎手と戸崎騎手。“3戦で最上位着順”という規定でも引き分けで、“最終戦での上位着順”の規定で山口騎手が優勝となった。
 第3位も的場騎手と赤岡騎手が33ポイントで同点。こちらも両騎手が1着を得ていたため、“最終戦の着順”によって、的場騎手が表彰台に上がった。
 「最後が5着だったらなあ……」と嘆いたのは赤岡騎手。「SJTは賞金がなくなったし、ここでも4位。本当についてないわ……」と下を向いたが、表彰式から戻ってきた山口騎手と並んだところで、報道陣から「佐々木竹見カップで反撃しましょう」と声がかかると、「そうですね、また頑張ります」と、気を取り直したようだった。
 イベントを含めて大いに盛り上がった第23回ゴールデンジョッキーカップ。しかし入場人員は昨年より300名ほど少ない2272名 だった。それでも1日の総売上げは3億1700万円余りと、昨年よりおよそ5千万円増加していた。それだけ注目度が高いといえるのだろうが、来年はもっと競馬場でそのすばらしさを実感する人が増えてほしいものだ。

取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)


総合優勝
山口勲騎手
(佐賀)
1戦目の2着でいい流れになったという感じがありますね。第2戦のあと、優勝圏内とは聞いていたんですが、最後は人のことは気にしないで乗りました。出場しているのはすごい騎手ばかりですから、この場で優勝できたことはこれからの励みにすごくなります。佐賀から来た甲斐がありました(笑)。
総合2位
戸崎圭太騎手
(JRA)
最終戦は昨年と同じ馬(昨年は1着)でしたが、今年はペースが合わなかったかな。こういうレースは騎手がみんなきちんとしていますから流れが遅くなりがちですし、難しいですよね。でも全体的にいいレースを見せられたと思うので、よかったと思います。楽しかったですよ。また乗りに来たいですね。
総合3位
的場文男騎手
(大井)
第3戦目はいい馬に乗せてもらえましたね。この年齢で出場できたのは幸せですし、これだけのトップジョッキーに混ざって、入賞できたのはうれしいことですね。3位なら本当に上出来だと思いますよ。またここに呼んでもらえるように、これからも頑張れるだけ頑張りたいと思います。