人気馬を目標にゴール前抜け出す
一戦ごとに力をつけ女王の座に
2002年以来、12年ぶりに盛岡競馬場で開催されたJBC。当日は朝から雨が降ったり止んだり。日中の気温は10度くらいまでしか上がらず、冷たい風が吹き荒れ、東北の冬の到来を感じさせた。しかしJBCレディスクラシックJpnⅠのパドックが始まる頃には晴れ間が見え始め、戦いを控えた牝馬たちを美しく照らし出していた。今年のJBCレディスクラシックJpnⅠの中心は、牝馬ダート交流重賞で3勝をマークし、前哨戦のレディスプレリュードJpnⅡを快勝したワイルドフラッパー。単勝は1.4倍と当然のごとく支持を集めていた。しかしライバルたちも多彩で、ワイルドフラッパーを負かしたことのあるサンビスタや、ダートでは底を見せていないトロワボヌール、連勝の勢いがあるブルーチッパーなど、直接対決が少ないことや展開面を考えても非常に興味深い対戦となった。
コーリンベリーがゲート内で座り込んで、全馬が一旦ゲートから出された影響で約5分遅れてのスタート。注目の先行争いはそのコーリンベリーが好スタートから最内を利して先手を主張した。ブルーチッパーが外から2番手につけ、コウギョウデジタル、アクティビューティと続き、2番人気のサンビスタは好位5番手で前を窺う態勢。その後ろにワイルドフラッパーが位置取り、3番人気のトロワボヌールは中団あたりでレースを進めた。
先に動いたのはワイルドフラッパーだった。向正面半ばを過ぎると一気に前に進出し、3コーナー手前では3番手まで上がっていた。そのまま人気に応える展開になるかと思ったのだが、そこで待ってましたとばかりにその後ろにピタリとつけたのがサンビスタ。直線に入り、先に抜け出そうとするワイルドフラッパーを残り100メートル手前で交わすと、その勢いのまま先頭でゴール板を駆け抜け、1分49秒3というコースレコードで優勝。
直線外から上がり最速の脚で伸びたトロワボヌールが2着に食い込み、最後は一杯になった様子のワイルドフラッパーは3着に敗れた。
鮮やかに女王の称号を手にしたサンビスタ。レース前、陣営はワイルドフラッパーとの一騎打ちを想定して臨んだという。「ワイルドフラッパーに勝つにはあの方法しかない、という位置取りだった」と満足げな表情の角居勝彦調教師。ライバルを常に意識しながらレースを運んだ岩田康誠騎手の好騎乗が勝利に導いた。
サンビスタは、初めて牝馬ダート交流重賞に出走した今年2月のエンプレス杯JpnⅡ(3着)では、ワイルドフラッパーに2秒2もの差をつけられたのだが、8月のブリーダーズゴールドカップJpnⅢでは0秒7差をつけて逆転。しかし、前走のレディスプレリュードJpnⅡでは完敗を喫していた。この大舞台で再度逆転劇を演じ、勝負強さを見せつけた。「一戦一戦、状態が上がり、良い体になっている」と調教師、騎手ともに口を揃えたように、この1年での成長ぶりには目を見張るものがある。「もっと強くなりますよ」という岩田騎手の言葉にはこれからの大きな期待が感じとれた。次走は、状態次第となるが船橋のクイーン賞JpnⅢを予定している。
今後の牝馬ダート戦線は、このままサンビスタ時代に突入するのか、ワイルドフラッパーが再び立ちはだかるのか。それとも、「この相手でもやれる力がある」(田中勝春騎手)というトロワボヌールのような第3の勢力が現れるのか。来年のJBCレディスクラシックJpnⅠに向けて、新たな牝馬たちの戦いが始まる。
岩田康誠騎手
前走はゲートの出も良くなくて道中窮屈なレースをしてしまいましたが、今回は好スタートで前を見ながら理想的な展開。最後相手は伸びてくるだろうと思っていたのですが……。一戦ごとに硬さが抜けてきて本当に柔らかい馬になったと思います。どんなレースもできますし、瞬発力も持っている馬です。
角居勝彦調教師
思いのほか相手が早く動いてくれましたし、直線抜け出した時は勝てると思いました。以前は精神的に強すぎるところがありましたが年齢的にも落ち着いてきたぶん、体のふくらみや体調が上がっていき、夏からの3戦も使うごとに状態が良くなりました。牝馬の交流レースが続くので参戦していきたいです。