馬場を味方に逃げ切り勝ち
コースレコードで連覇達成
「ここ1カ月ほど、先行有利の馬場になっているんですよ」と教えてくれたのは、実況アナウンサーの大川充夫氏。さらに前日に日本を通過した台風の影響で、馬場状態は重。白山大賞典JpnⅢの前に行われたレースでは、逃げ先行タイプが上位に多く入線していた。今年の白山大賞典にJRAから出走してきた馬は、6歳と7歳が各1頭で、8歳が2頭。ダートグレードを勝利した実績があるエーシンモアオバー、ソリタリーキング、ランフォルセは、いずれも前走で5着以下に敗れていた。残る1頭のグラッツィアは、前走の日本テレビ盃JpnⅡで3着に入ったが、重賞では連対実績ゼロ。そのメンバーなら、昨年まで金沢の王者として君臨し、現在は船橋に所属しているサミットストーンにもチャンス十分と思われた。
となると、問題は展開面。逃げてこそのエーシンモアオバーは前走で14kキロ減っていた体重をきっちり戻して、パドックの雰囲気も良好。前走で逃げて3着のグラッツィアもヤル気を前面に出し、状態のよさが伝わってくる動きをしていた。
しかし単勝2.0倍の1番人気に推されたのはソリタリーキング。パドックの雰囲気と比べると、いささか過剰ではないかと思えたが、果たしてソリタリーキングは好位から差を詰められないまま4着に終わった。
スタート直後に先手を取ったのはエーシンモアオバー。グラッツィアは競らずに2番手を選択し、サミットストーンは3番手。セイカアレグロ、ソリタリーキングも先頭集団に加わったが、次第に勝負の中心はJRA所属馬になっていった。
それでもサミットストーンは食い下がった。2周目の3コーナー手前で鞍上の吉原寛人騎手の手が激しく動いているにもかかわらず先頭から離され始めたところで、スタンドのあちこちからは「ダメか」という声が聞こえてきた。しかし4コーナー手前で「サミットストーンが前の2頭にまた迫ってきた」という実況が聞こえてきた途端、場内の空気は一変。座っていたファンのほとんどが立ち上がり、「吉原っ!」という声援一色になったのだ。
その声に後押しされるかのように、サミットストーンはグラッツィアを交わし、逃げ切りを狙うエーシンモアオバーを捕らえにかかった。見ている者にも必死さが伝わってくる、吉原騎手の大きなアクション。だが、その思いは3/4馬身、届かなかった。
ダートグレード初勝利を逃した吉原騎手は、パトロールビデオを見ながら吉田晃浩騎手に、「いつもの馬場だったらもっといい勝負だったよなあ」と話しかけた。そして苦笑い。「3コーナーで置かれたのが痛かったですね。4コーナーではもう一度、ハミを取ってくれたんですが」と振り返った。矢野義幸調教師も「展開が落ち着いてしまったのがなあ」と肩を落とした。次走はJBCクラシクJpnⅠか浦和記念JpnⅡか、これから検討していくそうだ。
2年連続で逃げ切ったエーシンモアオバーは、昨年のJBCクラシックJpnⅠでホッコータルマエが記録したコースレコードを0秒1短縮。「8歳でも馬は若い」と、沖芳夫調教師は同馬を評価していた。ダート界はベテラン勢の壁が厚いが、この馬もまた、それを形成する1頭である。
岩田康誠騎手
久しぶりに乗りましたが、状態はよかったです。後ろからつつかれたら嫌気を出してしまう馬なので、そうならないようにと思って乗りました。馬場が締まっていたのでいいレースができましたが、最後は一杯一杯になりましたね。でもまだまだ若い走りをしているので、これからも頑張れると思います。
沖芳夫調教師
2周目の3コーナーで後続との差が少しついたので、この馬の勝ちパターンになったかなと感じました。このあとの予定はオーナーと相談して決めますが、来年は白山大賞典の3連覇を目指したいですね。神経がとてもデリケートな馬なので、今後もそのあたりに気をつけていきたいと思います。
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