2014年8月10日(日) 帯広競馬場

障害ひと腰先頭で逃げ切る
強い6歳馬が真夏のBG1制覇

 2010年にBG1に昇格し、“夏の大一番”として浸透しつつある、ばんえいグランプリ。近年の売上げ好調などを受けて1着賞金が昨年の100万円から120万円にアップし、2010年当時の額に戻った。この日の最高気温は22度と涼しく、道外からの観光客からは「寒い」との声も。しかも、台風11号の影響を受けて午後4時すぎから大粒の雨が降り始め、馬場状態は一気に軽馬場となり、午後8時10分発走のばんえいグランプリの馬場水分は3.3%となった。
 今年はファン投票で選ばれた7頭と、賞金上位馬の3頭が出走。カネサブラックやニシキダイジンの引退後、戦国時代の様相を呈している古馬戦線だが、今シーズンはここまで6歳馬が古馬重賞3戦のうち2勝しており、最強世代との呼び声も高い。しかし2003年のヒカルセンプー以降6歳馬による勝利がなく、データ的には不利だが、単勝1番人気のオイドンをはじめ、旭川記念を制したフジダイビクトリー、北斗賞勝ち馬ニュータカラコマの6歳3頭が人気上位を占めた。
 アオノレクサスがスピードを生かして先行し、トレジャーハンターとレースを引っ張る。馬場は軽く57秒ほどで第2障害手前に到達。最初に仕掛けたのはトレジャーハンターとインフィニティー。そのすぐ後に動いた、隣枠のフジダイビクトリーがすんなりと上がって最初に障害を越え、逃げ切り態勢。後から仕掛けたニュータカラコマとキタノタイショウがひと腰で越え、トレジャーハンターとインフィニティーを加えた前の3頭をキャンターで猛追する。オイドンは天板で膝を折って苦戦していた。
 残り10メートルほどで、キタノタイショウがフジダイビクトリーの馬体に追いついたが、0秒5差でフジダイビクトリーが逃げ切った。勝ちタイムは、このレースで初めて2分を切る1分54秒7。フジダイビクトリーは重賞4勝目。西謙一騎手、皆川公二調教師はともにこのレース初制覇となった。
 3着はニュータカラコマ、ファン投票1位のインフィニティーは7番人気で4着、オイドンは5着だった。
 今回が試金石ともいえるレースだったフジダイビクトリー。これで古馬戦線では一歩リードし、ばんえいリーディングサイヤー、ウンカイの代表産駒といえるだろう。しかし、いつも強気の皆川公二調教師が「間に合わないかと思った」とぽつり。レース前夏バテになり、調子が戻ったのは5日前。夜通し扇風機をかけて、厩務員たちが丁寧にケアしてきたという。聞かなければ分からないほどパドックではぴかぴかの馬体だった。皆川調教師の娘婿である担当の寄木貴広厩務員を中心に、馬も家族の一員として関係者一丸で調整を続けてきた結果。皆川調教師は「手間かけないと、勝利には結びつかないんだ」と話す。
西謙一騎手
馬のペースに合わせました。ゴール前でひと伸びしますが、(最後の接戦では)「早くゴール来ないかな」と(笑)。負担重量が重いので、軽馬場は気になりませんでした。止まってから立て直すのがまだ下手なので、経験を積んでいきたいです。雨が降っても、たくさんの人が見に来てくれてありがたいです。
皆川公二調教師
ナンバー1になったね。勝てるとは思っていたけど、馬場は軽くなりすぎたかな。(ハンデがなく)オープン馬はみな同じ重量というのもよかった。騎手は「負けられんぞ」と言ってたし、プレッシャーもあったと思う。これからは毎月重賞があるから、重賞にしぼって大事に使っていきたい。

 

 勝利に導いた西謙一騎手は、昨シーズンまで5年連続ばんえいリーディングだった鈴木恵介騎手に変わり、今シーズン(今年の4月以降)は目下のところトップを走る。
 また、高齢化が進んで離農する生産者が多い中、生産の本寺政則さんは40歳。ばんえい競馬を残したいと奮闘する若手生産者のひとりだ。「最高です。BG1は生産者の夢ですから」と喜ぶ。
 6歳馬の活躍に加え、騎手や生産者、厩務員も若い世代の馬の勝利は新しい時代の到来を感じさせる。ただこれから秋冬にかけて負担重量が増えれば、経験豊富な馬たちが世代交代に待ったをかけるかもしれない。ベテラン騎手もその技を魅せるだろう。


取材・文:斎藤友香
写真:NAR、中地広大(いちかんぽ)