dirt
2014年4月29日(祝・火) 名古屋競馬場 1400m

不良馬場の短い直線で形勢一変
兵庫の伏兵が人気馬をねじ伏せる

 近年、JRA勢のワンツーフィニッシュが続いていた、かきつばた記念JpnⅢだが、今回は2006年のロッキーアピール(川崎)以来、8年ぶりに地方馬が優勝を手にした。大仕事をやってのけたのは、兵庫のタガノジンガロだ。単勝58.5倍、6番人気の伏兵が、2強と目されたノーザンリバー、ダノンカモンというJRAの強豪をねじ伏せた。
 この日、朝から降り続いた雨はメインレースの頃に本降りとなり、水の浮いた不良馬場でレースが行われた。そんな悪条件の中ゲートが開くと、注目の先行争いは名古屋のサイモンロードがあっさり制した。2番人気のダノンカモンは3番手につけ、「JRAの2頭は強いと思っていたので、それを気にしながら出たなりで位置を決めようと考えていた」という木村健騎手とタガノジンガロは中団の馬群の中に。単勝1.2倍の人気を集めたノーザンリバーはその後ろを追走した。
 3~4コーナーに入るとスタンドがどよめいた。手ごたえよくリードを保っていたサイモンロードの様子に、昨年も逃げ粘って3着に健闘した姿が蘇ったのだろう。「行けー! 逃げ切れ―!」などと地元ファンから大きな声援が送られた。しかし、直線に入り後続馬たちに飲みこまれそうになるとスタンドは溜め息に変わった(角田輝也調教師によると、直線で落鉄していたとのこと)。
 その直後、新たに歓声が起こった。ダノンカモンが一気に脚を伸ばして先頭に立つと、後方からは馬場の真ん中をタガノジンガロ、大外からノーザンリバーが凄い勢いで追い込んできたのだ。短い直線でのその攻防はあっという間の出来事で、3頭並んでゴールイン。1、2着は写真判定の末、タガノジンガロがハナ差でノーザンリバーを抑え、さらにクビ差でダノンカモンが3着という結果となった。
 ノーザンリバーの蛯名正義騎手は「こんな不良馬場で走ったのは初めてだったようだし、何回も滑ってしまってまったく競馬にならなかった。直線だけしか走ってないです」と振り返った。前走東京スプリントJpnⅢの勝ちっぷりから重賞連勝の期待が集まったのだが、馬場に泣いての敗戦となった。
 大接戦を制し、泥まみれになって帰ってきたタガノジンガロを新子雅司調教師は優しく迎えた。今回はJRAからの転入2戦目。前走は地元の重賞級のメンバー相手に快勝しており、「もともと中央の強いメンバーとも戦ってきた馬ですし、状態も上がっていたのでいい勝負ができると思っていました」とここに向けての期待は高かったようだ。コーナーで張ってしまう癖があるそうだが、バテないことが最大の強味だという。距離は不問とのことから、今後は長い距離も試してみたいそうだ。表彰式のあと、馬主、調教師、騎手ら関係者が輪になり、次走について真剣に話し合っていた姿が印象的だった。選択肢が多いだけに、次はどの舞台に登場するのか非常に楽しみ。「これで一気に地方の星になりそうですね」という報道陣の言葉に新子調教師は「そう言ってもらえるようにがんばります」と表情を引き締めた。
 ちなみに今回の勝利は、新子調教師と木村騎手にとってもダートグレード初制覇となった。レースに関しては冷静に答えていた新子調教師だったが、自身の話題になると「実はまだ夢見心地な気分で……」と本音がポロリ。一方、木村騎手は「とても嬉しいです! 気持ちがいいですね!」と溢れんばかりの笑顔で喜びを表した。
木村健騎手
3~4コーナーで膨れてしまってきつかったですが、なんとか我慢してくれてゴール前もよく粘りました。前走、直線でいい脚を使ってくれたので今回も期待はしていましたが、このメンバー相手にまさか勝てるとは思っていませんでしたね。外に張ってしまうこと以外はとても乗りやすい馬ですよ。
新子雅司調教師
前半どれだけいい位置で辛抱できるかが課題でしたが、なんとか凌いでくれました。ゴール前は残っていてくれとしか思っていませんでしたね。前走が7割くらいの仕上げで重目残りだったので、マイナス11キロも想定内でした。今後は交流重賞にも積極的に参戦して強い馬たちと戦っていきたいです。



取材・文:秋田奈津子
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)