断然人気の前年の覇者を一蹴
ダート牝馬戦線に新星誕生
この時期の競馬界は出会いと別れの季節。繁殖入りを控えた牝馬にはエンプレス杯JpnⅡをひとつの節目とする馬もいる。最近では、ミラクルレジェンドやクラーベセクレタといった一時代を築いた馬たちがこのレースでラストランを迎えた。一方で、新しい女王候補が現れるのもエンプレス杯JpnⅡの見どころとなっている。昨年、2着馬に2秒2差をつける圧勝劇でファンの度肝を抜いたワイルドフラッパーが、今年は連覇を賭けて引退レースに臨んだ。鞍上には、当初騎乗予定だったクリストフ・ルメール騎手に代わり、昨年南関東リーディングとなった森泰斗騎手が指名を受け、単勝1.3倍と圧倒的な1番人気に支持された。
しかしそれを阻んだのが、2連勝中の勢いで牝馬交流重賞に参戦してきた4歳のアムールブリエ。世代交代を思わせる堂々たる走りで前年の覇者を一蹴した。
スタートが切られると、ワイルドフラッパーが押して先手を主張し、マイペースに持ち込んだ。2番手にアクティビューティがつけ、3番手の内にケイティバローズ、アムールブリエは4番手の外で前をマークしながらレースを進めた。
3コーナーあたりでアムールブリエが2番手まで押し上げ、人気馬2頭の一騎打ちかと思われたが……。「直線を向いたところでは大丈夫だと思った」とアムールブリエの濱中俊騎手がコメントしたとおり、直線で先頭に並びかけると、必死で食い下がるワイルドフラッパーを横目に後ろを確認するほどの余裕。最後は3馬身突き放して勝利を手にした。
3着には4番人気のケイティバローズ、4着に3番人気のアクティビューティが続き、上位4着までをJRA勢が独占。地方馬最先着の5着は川崎に転厩初戦のアスカリーブルだった。
2014年には重賞3勝を挙げ、牝馬ダート戦線の中心的存在だったワイルドフラッパーは、残念ながら有終の美を飾ることができなかった。「負けてしまった…」と溜め息まじりで帰ってきた森騎手は、「道中のペースなどもうまくいったと思ったんですが、相手が強かったです。滅多にこういうチャンスはもらえないので勝ちたかった」と悔しさを滲ませた。
そんなワイルドフラッパーからバトンを受け継ぐかのような強い走りを披露したアムールブリエ。牝馬ダート交流重賞で6戦6勝の名牝メーデイアの主戦でもあった濱中騎手は、「メーデイアとはタイプが違いますが、それくらいの可能性を感じていた馬なので、今日は自信がありました。今年の牝馬路線の主役になれるでしょうし、全部勝つつもりでいける馬だと思います」と評価はかなり高いようだ。かつて母・ヘヴンリーロマンスと供に天皇賞・秋GⅠを制した松永幹夫調教師は、「ヘヴンリーロマンスの仔で重賞を勝てたということは僕自身も嬉しいので、これからもっと活躍してほしいです」と目を細めた。
濱中俊騎手
小回りにはあまり向かない印象があったので、できれば良い位置で早仕かけくらいでと考えていました。コーナーは少しぎこちなかったですが馬の能力でカバーしてくれましたね。メンタル的にもどっしりしていますし、今どんどん力をつけています。今日は強い相手に勝ってくれて楽しみが広がりました。
松永幹夫調教師
中間は大山ヒルズに放牧に出し、良い状態で帰ってきたので走れる状態にはありました。それほど反応が良い馬ではないので、濱中騎手が前半しっかり押して良い位置をキープしてくれましたね。去年と比べると体重が絞れているのも良いですし、しっかり走れるようになりました。今のところ課題もありません。
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次走は未定だが、今後は牝馬交流重賞を視野に入れながら、ダートの中長距離路線を歩んでいきたいとのことだ。
現在のダート女王の座には、昨年のJBCレディスクラシックJpnⅠの覇者サンビスタが君臨しているが、新星アムールブリエがその存在を脅かすことになるのか。今年のダート牝馬戦線も面白くなりそうだ。
取材・文:秋田奈津子
写真:岡田友貴(いちかんぽ)
写真:岡田友貴(いちかんぽ)