今年のレディースジョッキーズシリーズ2009の最終ラウンドは、今年から「夜さ恋ナイター」として通年ナイター開催が可能となった高知競馬場。この日は各地区からの参加騎手の都合も配慮して薄暮開催。前日からの急激な冷え込みの影響で、日陰ではコートが必要になるほどの寒さであったものの、快晴だった荒尾ラウンド以上に雲ひとつない青空から、南国独特の暖かい日差しが降り注ぐ中での開催となった。
ここまでのトップは、水沢、荒尾ラウンドで1勝ずつを挙げて59ポイントの山本茜騎手(名古屋)。4ポイント差で平山真希騎手(浦和)が続き、離れて44ポイントの西原玲奈騎手(JRA)という順。上位と下位の得点が離れているものの、成績次第ではまだまだ逆転優勝の余地があるポイント分布。前日に市内で行われた前夜祭でもこれに触れられたが、優勝云々よりももっとレースで自身をアピールして、完全燃焼したいという気持ちの方が強いように感じられた。
その最たるが別府真衣騎手(高知)だった。舞台が地元高知に移ったことで、森井美香騎手(高知)ともども気合が入ったのももちろんのこと。荒尾ラウンド終了後も「このままじゃダメです」と言うように自身でも納得のいかない成績が続き、2年ぶりの参戦となった同期であり、最大の好敵手と認める山本茜騎手がトップに立っていたことが相当の発奮材料となったよう。「明日はやりますからね。見ててくださいよ」と前夜祭で談笑しながら語った目は、笑顔でありながらシリーズを通じて一番の勝負師の目であった。
シリーズ第5戦のイーバンク銀行賞は、主戦を務める森井騎手のウォーターピクルスが1番人気。スタート直後、ヨナンコンコルドの岩永千明騎手(荒尾)が落馬。カラ馬が先頭に立つ形となり、ウォーターピクルスがこれに続いた。「自分の馬がどのくらい脚があるかわかっていたので」と早めに外から交わしに掛かった森井騎手とウォーターピクルスだったが、膨れたカラ馬に逆に外に振られる形となりここで脚を使わされてしまう。同時に動いた先行勢も同じような脚色になったところで、一気に外から襲い掛かったのが後方で冷静にレースを進めた別府騎手とビクトリーハーブ。直線入口では8番手ながら、まさに矢のような伸びを見せ、内でもがく各馬をまとめて差し切った。スタートから終始追い通しだった山本騎手のフジヤマビュティーが最後方から同じように伸び2着を確保。森井騎手とウォーターピクルスは3着となり、同期3人のワンツースリーとなった。
一方、落馬した岩永騎手は、しばらくピクリとも動けず、検量室付近は緊張感に包まれた。幸いにして大きな怪我はなく、最終戦も乗れるとなって一様に安堵したものの、華やかな祭典であっても、常に危険と隣り合わせであることを改めて認識させられた。
いよいよ最終戦のオッズパーク賞。第5戦の2着で合計74ポイントとした山本騎手がこの時点で優勝に向けて大きく前進。平山騎手のみに逆転の可能性があったが、最低でも2着、かつ、山本騎手が下位になることが必要と、かなり厳しい条件となっていた。
ゲートが開いて大外から真っ先に飛び出したのは、その平山騎手とヒョウタンジマのコンビ。逆転に向けて強い決意を感じさせるような先行策を見せるも、4コーナーで早くも脚色いっぱいに。代わって馬場の真ん中から第5戦で落馬した岩永騎手のグッドホープと別府騎手のリーディングアローが先頭に立ち、これに手応えよく後方から上がってきた池本徳子騎手(福山)のパブリッシャーが大外から強襲。見応えある叩き合いとなり、最後はグッドホープが脱落したが、リーディングアローとパブリッシャーはまったくの同体でゴールとなった。長い長い写真判定を待つ間に、シルクタフネスが4着に入ったことで山本騎手の総合優勝が確定したが、それよりも目の前のレースの行方に誰もが注視。果たして、ハナ差で池本騎手のパブリッシャーが勝利。
久々の勝利が多かった今回のシリーズだったが、池本騎手も昨年の5月以来の勝ち星となった。また、岩永騎手は惜しくも3着。落馬直後でありながら、積極的な競馬を見せたそのガッツには敬服を覚える。
人目も憚らず「悔しいー!」と発した別府騎手だったが、高知ラウンドは1着、2着とホームの意地を見せて優勝。高知ラウンドでは06年以来の優勝だが、以来、一度も表彰台を外していない。水沢でのエキストラ騎乗で勝利を挙げて以降、シリーズ期間中は地元でも勝利から遠のいていた。しかし、前日に1勝、当日も第3レースで勝利を挙げ、自らの作り出した上昇気流に乗ることができた。さすがのはちきん(土佐弁で「はつらつで魅力的な女性」)ぶりである。
そして総合優勝はシリーズを通して安定した成績を残した山本騎手。2年ぶりの参戦ながら、シリーズ第1回の06年以来2度目の女王となった。「一番報告したいのは?」という問いに、「先月亡くなったおじいちゃん」と答えた。騎手になるときにも、海外に行くときにも、常に応援してくれたという。しばしば尋ねられるニュージーランドでの修行の成果について、山本騎手はとりたてて言葉にすることは少ない。今回、名古屋では履かないという英語で自身の名前が刺繍された乗馬ズボンを、このシリーズでは履いてきた。「見た目が一番きれいなんで(笑)」と笑う言葉の裏に、ささやかなプライドと、変わらずに応援してくれた人たちへの感謝を垣間見たような気がした。今年も様々なドラマで彩られたレディースジョッキーズシリーズだったが、最後も成績表だけでは判らないドラマで幕を閉じた。
「また来年」。日程も場所も決まっていないが、女性騎手たちが再び笑顔で集まる日を約束し、それぞれの地でそれぞれに研鑽を積むこととなる。