拍手に包まれたゴール前、笠松からニューヒロイン誕生
前日の日曜日はひとケタの気温で冷たい雨。競馬をするにも観るにも厳しいコンディションだったが、この日は一転しての青空。馬場コンディションこそ重のままだったが、砂の表情は時を追うごとに、深い色から淡い色へと変わっていった。
今年で11回目を迎える兵庫ジュニアグランプリJpnII。数あるダートグレードのなかでも、JRA勢の活躍が顕著なレースとして歴史を重ねてきた。
地方勢は上位には食い込めないものなのか。そんな思いをよそに、場内のオッズ表示画面ではJRAの人気2頭(ナリタスプリング、アースサウンド)の単勝オッズが、ともに1倍台と表示されていた時間帯もあった。人気2頭のワンツー。そんなムードが競馬場内には充満しているようだったが、パドックを取り囲む観客から馬上の騎手にかけられる声は、地元をはじめとした地方競馬所属騎手に対するものがほとんどだった。
レース結果を左右する大きなカギは、逃げるのはどの馬なのかということ。JRAのアースサウンドと笠松のラブミーチャンは、ともに前走がJRAの舞台で逃げ切ってのレコード勝ち。もし両者が競り合うようなことになれば……。そんな心配をよそに、生ファンファーレの見事な演奏にどよめきが起こった次の瞬間には、もうラブミーチャンが先手を取っていた。
そして「相手が絶対行くという気をみせていたので控えた」(後藤浩輝騎手)というアースサウンドが2番手につけ、向正面ではラブミーチャンを追いかけるJRA勢4頭という展開になって、レースは勝負どころへ。
一時は3馬身ほど離して逃げていたラブミーチャンだったが、3コーナーの坂の下りでアースサウンドが並びかけてきた。さらには1番人気のナリタスプリングもインを狙って差を詰めにかかってくる。しかし鞍上の手の動きほどには馬が動かず、直線入口ではラブミーチャンとアースサウンドの一騎打ちという様相になった。
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濱口楠彦騎手
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こういうケースでは、追いかけてきた者のほうが有利になることが大半。それでも「一旦は向こうが先頭になったんじゃないかな」(濱口楠彦騎手)という状況から、ラブミーチャンは二枚腰を見せたのだ。ゴール地点で2着のアースサウンドにつけた差は3/4馬身。しかしそれ以上のすごみが伝わってくる完勝だった。
地方競馬所属馬の勝利を目の当たりにした観客席は、空気が一気に温まったという印象。それは「地方馬が勝ってよかったなあ」という、単純なファン心理だけでそうなったのではないだろう。表彰式で兵庫県馬主協会会長がスピーチした「笠松からはオグリキャップ、ライデンリーダーという名馬が誕生しました」という言葉と、柳江仁調教師の「芝でも走らせてみたいですね」というコメント。そう、あのときの夢がふたたびやってきたのだ。この勝利は、ファンの期待と注目がラブミーチャンの今後に注がれるきっかけとなる勝利でもあるといえるだろう。
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