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2010年1月20日(水) 大井競馬場 1800m

seiseki movie

ゴール前接戦を差し返す、地方に移籍しダートG連勝

 地方・中央の交流が本格的になったのが95年。以来、年を追うごとに層の厚さを増してきたダート路線からは、幾多の活躍馬が現れた。しかしその中には、ダート路線の充実がなければ目立った活躍ができないままで現役を終えていた馬も少なくないであろう。
 ユキチャンもそうした馬の1頭。しかしその毛色ゆえ、注目度は過去のどんな活躍馬よりも高い。
 まずまずのスタートを切ったユキチャンは好位4番手につけ、向正面からじわじわと前との差を詰めた。4コーナーでも抜群の手ごたえ。逃げていたトウホクビジンに並びかけ、直線を向くと先頭に立つ勢い。スタンドからは「ユキチャ〜〜〜ン!」と黄色い声が飛ぶ。そこにラチ沿いから1頭だけ違う脚いろで伸びてきたのがウェディングフジコ。そのまま差し切るかに思われたが、ユキチャンはゴール前で差し返す底力を見せ、クビ差で勝利。ゴールを過ぎ、ビジョンにユキチャンが映し出されると、黄色い声援に加えて拍手も起こった。
 こうした他の活躍馬とはまた違った人気にプレッシャーを感じていたのは、ユキチャンを管理する山崎尋美調教師だ。
 地方初参戦となった08年の関東オークスJpnIIでは8馬身差の圧勝で強烈なインパクトを見せつけたユキチャンだが、その後はヤマトマリオンとの接戦などがありながらも、勝ち星から遠ざかってしまった。芝の重賞クラスではややスピード不足で、活躍の舞台はやはりダート。しかし牝馬限定のダート重賞は地方にしかなく、タイトルが関東オークスだけでは限られた中央枠に入れない。使いたいレースが思うように使えなくなってきていた。
 舞台に立てないのでは、活躍の機会もない。出走機会を求めての川崎移籍だった。初戦のTCKディスタフは、58キロの斤量もあり、5キロ軽いツクシヒメに直線突き放されての3着。それでも続くクイーン賞JpnIIIでは、テイエムヨカドーを接戦の末にクビ差でしりぞけ、久々のタイトル奪取となった。

 
今野忠成騎手
  ゴール前でウェディングフジコが来てびっくりしましたが、馬がよく頑張ってくれました。相手に前に出られたという感じはなかったんですが、横に馬が見えたら、もう一度ユキチャンが反応してくれたので、よかったです。  
 
山崎尋美調教師
 
  最後の競り合いは、息が止まりそうでした。次回はエンプレス杯に出走予定です。これからも牝馬路線が中心になると思いますが、場合によっては牡馬に挑戦するともあると思います。1戦でも多く走れるように頑張ります。

 
 

 この勝利によって、とりあえずプレッシャーからは開放されたという山崎調教師。今回は自信をもって臨めたようだ。プラス11キロの馬体重も、「中間はもっと太っていて、調教の動きからはそれほど重いとは思っていませんでした」と。
 そして期待にこたえ、ダートグレード2連勝。ユキチャンは、その白く光る馬体と同じような輝きを取り戻した。
 そのレースぶりは年齢を重ねたがゆえに、以前とは変ってきてもいるという。「以前と比べたらスタートの反応もいいし、だから今は枠順も関係ないと思う。かえって馬群の中で砂をかぶっていったほうが折り合いがついていいレースができるかも」と山崎調教師。
 ただこれで磐石というわけでもない。レースでも調教でも、1頭で抜け出すとレースをやめてしまうという。それゆえ今回も余裕の手ごたえで先頭に立ちながら、ウェディングフジコに一旦は完全に並びかけられた。直後には、大井のコスモプリズム、船橋のツクシヒメも差のないところまで迫っていた。
 今後も圧倒的に注目を集めるのはユキチャンだろうが、牝馬ダート戦線はしばらく熱い戦いが続きそうだ。

取材・文:斎藤修
写真:宮原政典(いちかんぽ)