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2010年1月12日(火) 高知競馬場
第1戦 seiseki movie
第2戦 seiseki movie

第1戦
第2戦

後方からの追込みに腹をくくった逃げ、
2着・2着で総合優勝はJRA伊藤工真騎手


 全日本新人王争覇戦が生まれ変わった。「一生に一度の一発勝負」ではなく、「2戦によるポイント制」で優勝が争われることになったのだ。地元・高知代表であり、昨年4月にデビューしたばかりの西森将司は燃えていた。
 「厩務員をしていた頃から目標のレースでしたし、教養センターで憧れていた先輩方の胸を借りるつもりで頑張りたいです。JRAからはあの三浦皇成さんが来るので、余計に気合いが入りますね!」
 新人王争覇戦が、一生に一度の晴れ舞台であることに変わりはない。南国土佐に集いし10人の若武者は、どんな手綱さばきを見せてくれるのか。フレッシュな戦いの火蓋が切って落とされた。
 まずは第1戦。兵庫の岡田晴樹&トミーガンが先手を取った。同期の岡田をマークしているのは、同じく兵庫の上村勇人&ファニーベルだ。そこに高知の西森将司&フラップジャックが食らいついてゆく。少し離れて、佐賀の大澤誠志郎&ウェリナが4番手の位置につけている。
 均衡を破ったのは大澤だった。前を行く3頭を外からマクって一気に交わし、3コーナーで敢然と先頭に立ったのだ。
 佐賀代表の大澤が、そのまま先頭でゴールを駆け抜けた。後方で脚を溜めていたJRAの伊藤工真&クリノハッピーが、4コーナーから猛然と追い込んで2着。1番人気に支持された三浦皇成&テンブレイクが、粘る西森を交わして3着を確保した。
 「気持ちよかったです!」と言って、鮮やかな勝利を興奮気味に振り返る大澤。将棋と読書を好む22歳の、思いっきりのいい騎乗が光った。
 そして第2戦。伊藤工真&ジャルダンドゥロゼが、きっぱりとハナを主張して逃げを打った。上村勇人&モダンバレエが2番手を、大澤誠志郎&スプマドールが3番手を進む。船橋の澤田龍哉&ジェットプリティーは4番手の位置取り。
 3コーナー手前でレースが動いた。逃げる伊藤に、内から澤田が、外から川崎の本田紀忠&チョットグルービーが襲い掛かってゆき、3コーナーでは澤田が先頭に立った。
 澤田はそのまま先頭を譲ることなく1着をゲット。伊藤が盛り返して脚を伸ばすも2着まで。検量室に帰ってきた伊藤は、「勝ちたかった〜」と呟いた。
 3着争いは壮絶だった。兵庫の大柿一真&モハチビスティーに、同期の上村が襲い掛かり、さらにその外から本田と西森将司&ヒトリューブンも加わって、4頭横並びの大激戦! 執念の猛追をぎりぎり凌いだ大柿が、ハナ差で3着をつかみとった。
 そして。2着・2着で30ポイントを獲得した伊藤工真が、栄えある24代目の新人王に輝いた。2004年の柴原央明に続いて、JRAから2人目の新人王が誕生した。
 伊藤は映像などを通じて高知のコースを研究してきたのだそうだ。
 「『砂がかなり深い競馬場』というイメージがあったのですが、今日は馬場が湿っていたので、それほど深さを感じませんでした。コーナーも思ったよりはキツくなかったです。返し馬にいった感じで、ある程度しか把握できなかったんですけど、そのなかでどう乗るべきかを考えてレースに臨みました」
 1戦目は後方からダイナミックに追い込んで2着。2戦目は腹をくくった逃げを打って2着。勝利は挙げられなかったものの、レースぶりは大胆だった。地元・高知の赤岡修次いわく、「伊藤くんは上手い!」。リーディングジョッキーにお墨付きをもらった24代目の新人王は、嬉しそうにはにかんだ。重賞レースのお立ち台で、トレードマークの鼻腔拡張テープを貼り付けた伊藤の笑顔を見られる日が待ち遠しい。

 
総合優勝
伊藤工真騎手
(JRA)
  レースに勝てなかったのは悔しいですけど、同世代のジョッキーと競い合って、優勝できたことは素直に嬉しいです。みんなのやる気満々な気持ちが伝わってきて、自分ももっと頑張らないといけないな、という気持ちが湧いてきました。これからも、いろんな競馬場で乗ってみたいですね。 
 
総合2位
澤田龍哉騎手
(船橋)
 
 2戦目は、返し馬で力のある馬だということがわかったので、馬を信じて乗りました。ただ、馬の力で勝たせてもらいましたが、反省点も多いレースでした。でも、『同期には負けたくない』という気持ちが強かったから、総合2位に入ることができてよかったです。
 
総合3位
大柿一真騎手
(兵庫)
  なんとか表彰台に乗ることができてよかった。2戦目は『抜かれた。着外や』と思って上がってきたら、3着やったんです。新人王やからこそ、いつも以上に諦めず乗れたと思います。他の競馬場からもいっぱい同期が来とったんで、楽しく乗せてもらいました! 
 
 
 
  

 
 

 総合2位に入賞したのは、2戦目を制した澤田龍哉だ。
 「勝てたのはよかったんですけど、勝ち方が……。馬のおかげで勝てたレースです」
 勝って驕らず。競馬に対する真摯な姿勢があるからこそ、澤田は激戦区の南関東で着実にステップアップしていっているのだろう。それでもやっぱり、表彰を受ける澤田は嬉しそうだった。出場騎手10人のうち、澤田を含めた6人は、地方競馬教養センターの86期生。「同期には負けたくない」という闘志を結果に結びつけた。
 澤田と同じ86期生の大柿一真が、3位に入賞した。
 「澤田は船橋で頑張っている。教養センターではライバルやったけど、いまでは応援しています。僕は同じ兵庫に、同期の上村と岡田がおるおかげで頑張れる。『ふたりには負けたくない』という想いが、力になっています!」
 大柿はレースぶりも熱いが、中身も熱い男だ。“兵庫の86期生三人衆”の切磋琢磨も、ますますヒートアップしてゆくのだろう。
 「同世代の騎手と同じレースに乗って、すごく刺激を受けました。『みんな上手だな、負けてられないな』って」
 そう言って、三浦皇成はキュッと表情を引き締めた。
 三浦は新人王に輝いた伊藤の胸をドンッ!と叩いて、「おめでとう!」と叫んだ。同期から手荒い祝福を受けた伊藤は、ちょっぴり大げさに「ヴッ」とうめきながら、にっこりほほ笑んだ。伊藤に笑顔を返して、風のように走り去っていった三浦の背中には、勝てなかった悔しさと、同期が優勝した嬉しさがにじみ出ていた。
 青春だぜ。
 若さあふれる騎乗で正月ボケを吹き飛ばしてくれた10人の若武者に、ありったけのエールを贈りたい。彼らのジョッキー人生は、まだ始まったばかりだ。(文中敬称略)

 

 

取材・文:井上オークス
写真:トム岸田(いちかんぽ)、NAR