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連載第56回 1998年 マリーンカップ

『あのエフテーサッチが逃げ切り完封勝利』
1998年 マリーンカップ エフテーサッチ

Movie

(映像ファイルサイズ:9MB)

 ダートグレード競走の黎明期は、JRA勢のスピードとパワーに圧倒されつつも、中距離でアブクマポーロやメイセイオペラ、短距離ならカガヤキローマンなど、それぞれのカテゴリーに「地方競馬の雄」がいて、他にも各地区でJRA勢と地の利を生かして好勝負出来る素材が存在していた。
 牝馬路線も同様に、2000m以上になるとホクトベガやシルクフェニックスが圧倒的な強さを見せていたが、それより短い距離なら船橋のマキバサイレントやイシゲヒカリ等が健闘していた。
 その中の1頭、浦和のエフテーサッチは牝馬路線の中でもやや異色な1頭だった。
 デビューは3歳の2月と遅く、クラシックには間に合わなかった。初勝利も5戦目の7月7日だが、それまで競走中止した2戦目を除きすべて2着と惜しいレースだった。
 初重賞挑戦は8戦目のしらさぎ賞で、快速馬キクノウインから2.3秒離された5着。そして12月の3歳牝馬の最終戦ロジータ記念では、1番人気のハイフレンドムーンを押さえ、東京プリンセス賞馬スギヤマワッスルに次ぐ2着、しかもクビ差と健闘し、この世代の牝馬の有力馬の1頭に数えられるまでになった。
 エフテーサッチを一躍有名にしたのが、97年のフェブラリーステークスだろう。南関東ですら重賞未勝利の上に、前走はB1の紅椿盃で4着に敗れている中での中央G1挑戦には、当時選定方法の見直し論など、批判が出た。結果も14番人気で16着、レースも果敢に3番手を進んだが、持たずズルズル後退という内容では、批判も仕方のないことだった。
 その後もB1で人気を裏切り、人気を下げたA3クラスで2着好走と一見掴みどころのない競馬続きだが、ようはマイペースに持ち込めるかどうか。そこが全てだったのだ。
 それを証明したのが97年のトゥインクルレディー賞。4番人気に推されたエフテーサッチは、好スタートからすんなりマイペースで逃げ、マキバスコールの猛追を3/4馬身差押さえて馬連単万馬券を演出。ついに重賞初制覇を飾った。
 小林文治調教師も「マイル以下ですんなりマイペース」がこの馬のベストと語っていたのだが、重賞勝ちでこの馬の中で何かが弾けたのか、1800mの交流重賞クイーン賞、牡馬相手の2400m東京記念と、適条件と思われないレースを2戦連続3着と好走。さらに第1回TCK女王盃も逃げまくって2着と、完全に本格化した。
 そしてその時が訪れた。98年4月8日、船橋競馬場のダートグレード競走「第2回マリーンカップ」。中央からは中山牝馬Sに勝ったメジロランバダやエンプレス杯勝ち馬シルクフェニックス。他にも快速馬サラトガビューティ、カネトシシェーバー、ロイヤルアンブリーと強敵が揃った。地方勢もTCK女王盃馬・笠松のトミケンクインやクイーン賞馬マキバサイレントなどのタイトルホルダーが参戦した。
 1番人気はメジロランバダ、2番人気マキバサイレント、3番人気サラトガビューティ、4番人気シルクフェニックス、そして5番人気エフテーサッチ。
 ゲートが開いて大外マキバサイレントが出遅れ後方から、キンコーフローラ、エフテーサッチの3頭によるハナ争いだが、エフテーサッチが譲らず奪う。その後ろにイシゲヒカリ、ロマンスゴッテス、トミケンクインなど地方勢が続く。
 勝負処で外々を回ってメジロランバダとサラトガビューティが進出し4コーナーを回って直線。逃げるエフテーサッチは2番手以下に2~3馬身の差を付け残り200m。そして外からメジロランバダが物凄い末脚で猛追。しかし内で粘るエフテーサッチも森下騎手の叱咤に応え、わずかハナの差でダートグレード競走勝ち馬となった。
 「正直交わされたと思った」と森下騎手。一方2着の横山騎手は「コーナーが上手くなかった」と。
 これがフロックかと言うとそうでもない。勝ちタイム重馬場1分38秒2は、今でも通用するタイムで、この日のペースも前半60秒6のハイペース。上がりも37秒6と、同じ重、不良馬場を制したミラクルレジェンドやメーデイア、サンビスタ、ホワイトフーガらと同等かそれを凌いでいる。
 結果的にこれが最後の勝利になるのだが、フェブラリーSの出走馬選定に物議を醸した馬が、後にダートグレード競走を制し、その潜在能力を見せつけたのは、ひょっとしたらこの馬の「意地」だったのかもしれない。
文●日刊競馬 小山内完友
写真●いちかんぽ

競走成績

第2回 マリーンカップ 平成10年(1998年)4月8日
  サラブレッド系 4歳以上牝馬 1着賞金3000万円 船橋 1,600m 曇・重
着順 枠番 馬番 馬名 性齢 重量 騎手 タイム・着差 人気
1 5 7 エフテーサッチ 牝6 55 森下博 1.38.2 5
2 2 2 メジロランバダ 牝6 56 横山典弘 ハナ 1
3 8 14 マキバサイレント 牝7 56 石崎隆之 2 1/2 2
4 8 13 イシゲヒカリ 牝5 54 秋田実 1 7
5 3 3 ハートステイジ 牝6 55 的場文男 1/2 9
6 7 11 トミケンクイン 牝5 54 川原正一 クビ 6
7 4 5 ワールドイーグル 牝5 54 内田博幸 2 1/2 12
8 5 8 ロマンスゴッテス 牝7 53 佐藤祐樹 1/2 11
9 4 6 サラトガビューティ 牝4 52 藤田伸二 3 3
10 1 1 ロイヤルアンブリー 牝5 54 加藤和宏 3 8
11 6 10 セイントサブリナ 牝5 54 張田京 クビ 14
12 3 4 キンコーフローラ 牝6 54 安部幸夫 1/2 13
13 7 12 シルクフェニックス 牝6 55 福永祐一 1 1/2 4
14 6 9 カネトシシェーバー 牝6 55 吉田豊 1 10
払戻金 単勝1,340円 複勝190円・110円・130円 枠連複1,030円

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