スーパースプリントシリーズ特集

 競走距離1,000メートル以下のレースのみで構成されるシリーズ競走、『スーパースプリントシリーズ(略称:SSS)』。7年目を迎える本年は、昨年同様5戦のトライアルおよびファイナルの習志野きらっとスプリントが行われます。
 SSSは、超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘と、各地方競馬場で実施可能な最短距離を極力活かすためワンターン(コーナー通過が3〜4コーナーのみ)のスプリント戦によるシリーズとして2011年に創設されたもので、各地区の超スピードホースが、トライアル、そしてファイナルで極限の速さを競い、初夏の地方競馬を大いに盛り上げます。

 創設からラブミーチャンが三連覇ののち、8歳のナイキマドリードや3歳のルックスザットキルがファイナルを制しているこのシリーズ。昨年は4歳のフラットライナーズがファイナルを制しました。今年は古豪が意地をみせるのか、それとも新星が誕生するのか。

 激戦必至の究極のスプリント戦をぜひお見逃しなく!

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激しい先行争いも2番手から抜け出す
久々の重賞制覇で勇躍ファイナルへ

 6月上旬に梅雨入りの発表があった東海地方だがあまり雨は降っていないようで、この日の名古屋競馬場も真夏のような蒸し暑い1日。砂煙が舞うパサパサの良馬場でレースが行われていた。
 名古屋でら馬スプリントは、スーパースプリントシリーズの中でもっとも短い800メートル戦。昨年の覇者ハナノパレードは出走するものの、その他の馬たちは距離経験がなかったり、抜けた実績馬がいなかったりと混戦模様。その中で注目されたのは、中央から転入後、8戦3勝、連対パーフェクトというレディエントブルーで、単勝2.2倍の1番人気に支持された。2番人気は、2015年の秋に中央から転入し、21戦15勝、連対を外したのは2戦のみと、こちらも名古屋で素晴らしい成績を残しているサンデンバロンで、単勝2.5倍。地元で好走を続けるこの2頭が人気を分け合った。
 このレースの過去6回の優勝馬は、ほとんどが逃げ切り勝ち。したがって、とにかく先行することが必要不可欠であり、最大のポイントだ。
 ゲートが開き、その激しい先行争いを制したのは、大外枠のトーホウハンターだった。2番手にハイジャがつけ、直後の馬たちによる3コーナーでのポジション取りでアクシデントが起こった。1番人気のレディエントブルーが馬群の中で躓き大畑雅章騎手が落馬、競走中止となってしまったのだ。その外を追走していたサンデンバロンは落馬の影響で一度スピードが落ち、空馬によって大外を回らざるを得ず、結果は6着となった。
 優勝したのは5番人気だった笠松のハイジャだ。「4コーナーの手応えがいつも以上に良かったので勝てると思いました」と佐藤友則騎手が振り返ったように、残り100メートルで先頭に立つと、そのまま2馬身突き放しての快勝。2着は、内を通って脚を伸ばした3番人気、金沢のエトワールドロゼ。3着は最低人気(9番人気)だった金沢のビュウイモンが入り、3連単は44万円を超える波乱の決着となった。
 3歳時のゴールドジュニア以来、重賞2勝目を飾ったハイジャ。陣営によると、爪に不安があるため休み休みになってしまうとのことだが、出走したレースでは常に好走し、今年は3着内を外していない。「2歳、3歳の時は逃げないとダメでしたが、最近は控える競馬が板についてきました。精神的にも成長したことが今日の結果に繋がったと思います。体質が強くなってもっと乗りこめるようになれば、かなりのオープン馬になりますよ」と佐藤騎手はこの馬の能力を高く評価していた。この後は、習志野きらっとスプリントに向かう予定とのこと。無事にファイナルの舞台に出走できるよう順調にいってほしい。
 過去にこのレースで金沢所属馬が馬券に絡んだのは1頭のみだったが、今年は、3頭出しの金田一昌厩舎所属馬が2着3着と好走した。2着だったエトワールロゼの田知弘久騎手は「スタート自体は良かったのですが、名古屋の砂に慣れていないので脚をとられていました。前に馬がいたのでスピードにも乗りきれず。枠が外だったらまた違ったのかも知れませんが……」と力があると分かっているだけに悔しそうだった。そして、このレースの約50分後に地元金沢で行われた石川ダービーでは、金田厩舎のヴィーナスアローが見事優勝を果たした。この日は東海と北陸で、金田厩舎の馬たちが躍動した1日でもあった。
佐藤友則騎手
前に1頭置きたいとは思っていましたが、外にも内にも行く馬がいたので余分に仕かけてしまいました。ただ、最後までしっかりした走りだったので直線は自信を持って追い出しました。800メートルでこの馬のスピードが活かされたと思います。左回りは初めてになりますが船橋1000メートルも大丈夫でしょう。
井上孝彦調教師
重賞勝利は久しぶりなので嬉しいです。レースは騎手に任せていたので特に指示はしませんでした。ゲートに行っていたので道中は分かりませんでしたが1着でゴールしたのは分かったので勝った!と。状態は良かったのですが、どうしても爪に心配がある馬。でも勝つ時はすべてが順調にいくものですね。


取材・文:秋田奈津子
写真:宮原政典(いちかんぽ)