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2018年3月20日(火) 高知競馬場 1400m

兵庫の伏兵が実績馬をねじ伏せる
第1回以来19年ぶり地方馬の勝利

 例年より早く開花した高知市の桜。黒船賞JpnⅢ当日には満開となり、高知競馬場の桜も美しく咲き誇っていた。しかし、この日はお昼前から冷たい雨が降り始め、寒の戻りという一日。前日の降雨の影響もあり、馬場状態は水の浮いた不良となっていた。
 今回で20回目を迎えた黒船賞JpnⅢ。第1回のリバーセキトバ(高知)以降、地方馬の勝利は一度もなかった。しかし今回、兵庫のエイシンヴァラーがついにJRA勢の壁を打ち破った。しかも、11頭中9番人気、単勝234.3倍での優勝と、まさに大金星となった。
 もちろん、そう簡単なメンバーだったわけではない。JRAからは昨年のこのレースの2、3着馬、キングズガード、グレイスフルリープというコース実績もある馬が参戦。地方からは、昨年のNARグランプリ・4歳以上最優秀牡馬および最優秀短距離馬となった浦和のブルドッグボス。JRA時代は芝の短距離重賞で活躍し、初ダートの移籍初戦を圧勝した兵庫のエイシンスパルタンと好メンバーが揃い、人気もこの4頭に集中していた。エイシンヴァラー騎乗の下原理騎手は、この相手関係からも「5着は確保したい」。そういう気持ちだったそうだ。
 スタートが切られると、コパノマイケル、エイシンスパルタン、グレイスフルリープ、3頭の先行争い。その中からグレイスフルリープが先手を奪い後続を離しての逃げを打った。2番手にはコパノマイケル、3番手の内にエイシンヴァラーがつけ、その外にエイシンスパルタン、5番手にはラインシュナイダーが追走。ブルドッグボスは中団からレースを進め、その後ろにキングズカードが続いた。
 3コーナー手前からグレイスフルリープと後続との差が徐々に詰まり、4コーナーでは一団となっての激戦模様。直線に入ってブルドッグボスが先頭に立つと、最内からキングズガードが伸び、外からはエイシンヴァラーが迫った。そしてゴール前は3頭の激しい追い比べに。
 大接戦を制したのはエイシンヴァラーで、下原騎手の腕が大きく大きく上がった。2着はクビ差で1番人気のキングズガード、アタマ差で3着が2番人気のブルドッグボスという決着となった。
 エイシンヴァラーとともに戻ってきた下原理騎手は「よっしゃー!!」と大きな声をあげ、陣営と喜びを分かちあった。「こんなガッツポーズをしたのは何年ぶりだろう」と大興奮の様子。新子雅司調教師にとっては2014年のかきつばた記念JpnⅢをタガノジンガロで制して以来、2度目のダートグレード制覇。「初めての時は夢を見ている気持ちでしたが、今回は、泣きそうになりました」と感慨深げだった。
 前走の黒潮スプリンターズカップは黒船賞JpnⅢを見据えての参戦だったが、2番人気で6着に敗れていた。しかし敗因は、雪の影響で輸送に時間がかかり体調に影響が出てしまったこと。そのことをふまえて、今回は前日入りで状態を整えた。「これ以上できることはないくらいのことをやってきました」(新子調教師)と、万全の態勢で臨んだそうだ。馬の状態も素晴らしく、馬場も味方し、流れも向いた。「全てがうまくいきました。勝つ時はそういうものなんですよね」(下原騎手)。このような言葉はよく聞かれるものだが、それにしても衝撃的な勝利だった。7歳にして重賞初制覇を飾ったエイシンヴァラー。今後のダートグレード戦線でも注目の存在になるだろう。
 
下原理騎手
自分でもびっくりしています。道中の手ごたえは良かったのですが3~4コーナーでは少し待ちました。JRAの馬はなかなか止まらないですからね。ブルドッグボスが前に出た時は一瞬、諦めかけましたが、馬が最後まで伸びてくれました。前日入りして馬を作ってくれた厩舎関係者のおかげですね。
新子雅司調教師
馬体重は減っていましたが前走より仕上がっていました。1枠が心配でしたが騎手に任せました。うまくエスコートしてくれたし馬場も向きましたね。距離は1400メートルくらいが良いと思うのですが、これから適距離を見極めながら使っていきたいです。この後はかきつばた記念を目標に調整していきます。


取材・文:秋田奈津子
写真:桂伸也(いちかんぽ)