当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

12年目を迎え全8レースに拡大
目立った地元デビュー馬の活躍

2017年7月4日

ウイークからシリーズへ

 ダービーウイークが始まったのが2006年のこと。12年目の今年から高知、金沢が加わって全8レースとなり、ダービーシリーズとしてリニューアルとなった。
 当初は約1週間という短期間に凝縮して全国の“ダービー”を開催していたが、昨年は主催者ごとの日程調整がうまくいかず、さらに2012年に始まったJRA-PATによる地方競馬の馬券発売額がいよいよ大きくなると、近い日程で実施することが困難となった。結果的に6月後半に行われていた高知優駿も日程が近くなり、さらにダービーに相当するレースが行われていなかった金沢に“ダービー”を新設することで、地方競馬(ばんえい競馬を除く)すべての地区の“ダービー”をシリーズとして構成するに至った。
 ただこれまでダービーウイークに組み込まれていなかった高知、金沢所属馬は、それぞれ出走可能な佐賀の九州ダービー栄城賞、名古屋の東海ダービーで勝ち馬を出していた。
 ところが高知、金沢がダービーシリーズに組み込まれたことによって、佐賀、名古屋は自地区所属馬だけの“ダービー”となり、広域交流としての実施は、門別の北海優駿、高知の高知優駿(ともに地方全国交流)の2レースだけとなった。

岩手所属馬が北海道のダービー制覇

 佐賀の九州ダービー栄城賞は、ここまで佐賀では無敗を誇ってきたスーパーマックスが断然人気にこたえて勝利。と書いてしまうと順当勝ちという印象だが、他馬からキツいマークを受けて3~4コーナーから直線を向いたあたりでは、「これは無理だろう」と思わせるところから巻き返しての勝利だった。半馬身差で2着に迫ったフジノカミワザは7番人気で、鞍上は大井の笹川翼騎手。馬の他地区からの参戦はなくなったが、騎手は笹川騎手のほかに、金沢の吉原寛人騎手、大井の真島大輔騎手と3名の騎手が遠征。普段とは違う騎手が乗ることによって、それが波乱の要因になるということはありそうだ。
 以前から地方全国交流として行われてきた北海優駿では象徴的な出来事があった。岩手の同世代同士では無敵のベンテンコゾウが一冠目の北斗盃を制し、岩手所属のまま北海道の三冠を目指すとしての挑戦。遠征馬はただ1頭で、必然的に地元全馬を敵にまわすという戦いだ。ベンテンコゾウは、単騎の逃げ馬を追って離れた2番手を追走。直後で地元有力馬にマークされるという展開では、仕掛けどころが難しかったと思うが、直線残り200メートルあたりで前をとらえると、あとは後続を寄せ付けずという、完全アウェーで圧倒的な強さを見せた。他地区からの遠征馬が北海道の三冠達成となるかどうか、地方競馬では極めてめずらしい記録がかかることになる。
 東海ダービーは、断然人気のドリームズラインが順当勝ち。昨年の東海地区3歳戦線ではカツゲキキトキトが連戦連勝だったのとは対称的に、今年は重賞ごとに勝ち馬が変わる大混戦。しかし中央未勝利から転入したドリームズラインがここに来て3連勝。駿蹄賞から連勝となり、この世代では一歩抜け出す存在となった。




 東京ダービーは、一冠目の羽田盃で一騎打ちの末2着と敗れていたヒガシウィルウィンが、鞍上・森泰斗騎手の宣言通り逆転して見せた。しかも6馬身という決定的な差をつけての勝利。2着のキャプテンキングは中央からの転入初戦で羽田盃を制し、1番人気に支持されていた。昨年のバルダッサーレに続いて中央からの転入馬が東京ダービー制覇ということにはならず、ほっとしたファンや関係者も少なくなかったのではないだろうか。36回目の東京ダービー挑戦となった的場文男騎手のブラウンレガートは、直線を向いたところで先頭に立というかという見せ場をつくったが3着だった。
 世代最強馬が不在となった岩手ダービーダイヤモンドカップは、序盤こそほぼ全馬が一団だったが、レースが進むにつれて馬群がばらけ、結局上位3頭は行ったままの決着。1番人気のキングジャガーが逃げ切り、3番人気ハドソンホーネットが2着、2番人気サンエイリシャールが3着で、人気上位馬での決着となった。ほとんどの馬が経験していない距離ということもあり、バテた馬が徐々に後退していくというサバイバルレースとなって実力以上に着差が開いたと思われる。勝ったキングジャガーはベンテンコゾウとは未対戦なだけに、この世代の岩手2強としての活躍が期待される。
 レースの6日前、衝撃のニュースがもたらされたのが兵庫ダービー。ここまで無敗のマジックカーペットが調教後に左前管骨骨折が判明して戦線離脱。マジックカーペットが相手では分が悪いと見て高知優駿に出走予定だったブレイヴコールが急遽地元に参戦。マジックカーペットの離脱がもう少し遅れていたらおそらくブレイヴコールの出馬投票は間に合わなかったのではないか。そうした幸運もあり、ブレイヴコールはベテランの川原正一騎手が鞍上となって見事逃げ切った。向正面最後方から一気のまくりで差し切ったかにも思えたスリーピーアイは惜しくもアタマ差届かず。大山真吾騎手は渾身の騎乗だった。
 高知優駿は1着賞金が昨年の100万円から、ダービーシリーズに組み込まれたことで一気に500万円に増額。また地方全国交流ともなって、東海、佐賀から各2頭が遠征してきた。一冠目の黒潮皐月賞を制したフリビオン、九州ダービー栄城賞を制した佐賀のスーパーマックスが人気を分け合ったが、明暗の別れる結果となった。フリビオンは中西達也騎手の落ち着いた騎乗で、中団追走から直線で先頭に立ち、逃げ粘っていたバーントシェンナに5馬身差をつける圧勝。一方のスーパーマックスは、同じく佐賀から遠征した栄城賞2着馬フジノカミワザが4コーナーで落馬したところに巻き込まれて落馬、競走中止となった。
 そして最後に行われたのが新設の石川ダービー。地元では無敗だったヤマミダンスが断然人気となったが、ハイペースの先行争いに巻き込まれた。それを狙っていたのが吉原寛人騎手のヴィーナスアロー。直線を向いてもヤマミダンスが単独で先頭だったが、中団から仕掛けてきたヴィーナスアローがとらえて突き抜け、ヤマミダンスは一杯になって4着に沈んだ。ヤマミダンスは大一番ゆえ勝ちに行かなければならない立場。一方のヴィーナスアローはこれまでヤマミダンスに先着したことがなく、2番人気とはいえ挑戦者の立場。それゆえ思い切った騎乗ができたのだろう。それが“ダービー”という舞台だった。
 ダービー8戦を通してみると、1番人気馬が5勝で、馬券圏内を外したのは金沢のヤマミダンスだけ。とはいえ2着には5~8番人気馬が5頭入っており、ヒモ荒れのレースも多く見られた。

短距離種牡馬が活躍

 地元生え抜き馬の優勝は、佐賀のスーパーマックス、岩手のキングジャガー、園田のブレイヴコール、高知のフリビオン、金沢のヴィーナスアローと5頭。西日本地区の所属馬にとっては、昨年新設された西日本ダービーがひとつの目標となるのだろうが、転入馬や移籍の経験がある馬は出走できない。そのため、南関東に移籍して戻ってきたスーパーマックス、ヴィーナスアローは、残念ながら出走権を失っている。
 東京ダービーを勝ったヒガシウィルウィンは、2014年のハッピースプリント以来、4年ぶりとなる北海道デビュー馬の勝利。そして2着のキャプテンキングは中央からの転入。東京ダービーは、地方所属馬限定の“ダービー”としては突出して賞金が高く、必然的に世代の頂点を争うレースとなるだけに、今後も、北海道もしくは中央からの転入馬と、地元の生え抜きで勝ち残ってきた馬との争いとなるのだろう。
 血統面では、短距離系種牡馬の活躍が目立った。
 ベンテンコゾウ、ヒガシウィルウィンがサウスヴィグラスの産駒。サウスヴィグラスは今年21歳。今年の3歳世代は175頭と種付けして120頭が血統登録されている。そして2016年にも141頭に種付けしており、その勢いはまだまだ衰えない。一昨年の九州ダービー栄城賞を制したキングプライドもサウスヴィグラスの産駒で、歳を重ねるごとに距離が長いところにも対応できる産駒が増えている印象がある。
 キングジャガーの父キングヘイローは現役時に高松宮記念を制したが、産駒には、カワカミプリンセス(オークス)、ローレルゲレイロ(スプリンターズステークス)、メーデイア(JBCレディスクラシック)、キクノアロー(ダイオライト記念)など、芝・ダートや距離を問わずさまざまな産駒が出ている。キングジャガーは母の父もファスリエフで、血統的にはいかにも短距離だが、そもそもキングヘイローは、その父が凱旋門賞を制したダンシングブレーヴで、距離的にはオールマイティにこなす面が出ているのだろう。
 ブレイヴコールの父カルストンライトオは、スプリンターズステークスを制し、新潟直線1000メートルで活躍した。同馬の産駒では、2014年に名古屋・ゴールドウィング賞を制したヒメカイドウに続いて2頭目の重賞勝ち馬となった。なお、兵庫では幻のダービー馬となってしまったマジックカーペットも短距離系ファスリエフの産駒だった。
 そして短距離血統ではないが、フリビオンの父は、初年度産駒のこの3歳世代が地方で大活躍のフリオーソ。地方出身の種牡馬として、今後もますますの活躍を期待したい。

大井以外は前年比アップ

 さて、今年からダービーシリーズの勝ち馬がジャパンダートダービーJpnⅠに出走すると、馬主に100万円の報奨金が支給されることになった。しかしながら、すでに発表されているジャパンダートダービーJpnⅠの出走予定馬を見ると、残念ながら東京ダービーのヒガシウィルウィン以外にダービーシリーズ勝ち馬の登録はなかった。
 中央一線級との実力差の乖離は大きく、100万円をもらって成績欄に大きな着順が残るよりも、地元のタイトルをと考えるのかもしれない。先の目標ということでは、昨年新設された西日本ダービーや、水沢で行われるダービーグランプリとなってしまうのだろう。
 売上面では近年、地方競馬全体の売上が好調なように、別表のとおり、微減の東京ダービー以外の6レースが前年比でプラスとなった。

  2017年
ダービー売得額(円)
前年比 2006年
ダービー売得額(円)
佐賀 120,185,500 161.3% 42,761,900
北海道 180,911,900 136.4% 69,463,800
名古屋 93,759,800 106.6% 59,740,700
大井 665,309,100 99.9% 576,502,900
岩手 108,853,300 159.3% 68,942,300
兵庫 125,015,700 103.7% 95,993,900
高知 94,156,100 171.7%  
金沢 74,612,000    

 佐賀は前年同様、日本ダービーと同日の開催で、JRA-PATで発売があったという条件も同じ。今年変わったのは、中央競馬中継に引き続いて、グリーンチャンネルで中継が行われたこと。その効果は少なからずあったと思われる。
 昨年は月曜開催で唯一JRA-PATでの発売がなかった岩手ダービーは、今年は日曜開催となってJRA-PATでの発売もあり、さすがに大幅アップとなった。
 高知は昨年も今年も6月第3日曜日の施行で条件は同じ。しかし新たにダービーシリーズに組み込まれ、また全国交流となって他地区からの参戦もあり、注目度は大幅にアップした。さらに今年度発表されている4~5月の開催成績で、1日平均の売上げが前年比141.1%という高知競馬全体の売上げの伸びも相乗効果となって、171.7%という大幅アップとなったと思われる。
 参考までに、ダービーウイーク初年度、2006年の各ダービーの売得額を掲載してみた。今年と比べると売上が半分以下だったところもあるが、それでもダービーウイークとして全国発売(地方のみ)が行われたことで、前年の2005年の同レースとの比較では、大井を除いておよそ150~250%の売上げとなっていた。それでいてこの額だったのである。
 2006年度の地方競馬全体の総売得額は3760億3961万3000円で、ほとんど底に近かった時期。それが2016年度は4870億119万9590円にまで回復。ダービーウイークからダービーシリーズへとなったこの12年、ネット投票の普及とJRA-PATでの発売によって、地方競馬の馬券の売上げはこれほどまでに回復した。



文:斎藤修
写真:いちかんぽ