スーパースプリントシリーズ特集

 競走距離1000メートル以下のレースのみで構成されるシリーズ競走、『スーパースプリントシリーズ(略称:SSS)』。6年目となる本年は6月5日(日)~7月20日(水)の間、トライアル5戦およびファイナルの計6戦で実施します。
 SSSは、超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘と、各地方競馬場で実施可能な最短距離を極力活かすためワンターン(コーナー通過が3~4コーナーのみ)のスプリント戦によるシリーズとして2011年に創設されたもので、各地区の超スピードホースが、トライアル、そしてファイナルで極限の速さを競います。

 創設からラブミーチャンが三連覇ののち、一昨年は8歳のナイキマドリードが、昨年は3歳のルックスザットキルがファイナルを制しているこのシリーズ。今年はどの馬がファイナルを制するのか。トライアルに新たに早池峰スーパースプリントも加わり、ますます目が離せないシリーズとなりそうです。

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直線外を伸びて一気に差し切る
JRAから転入初戦で重賞初制覇

 スーパースプリントシリーズ(SSS)が創設された2011年に、オープン特別として始まったグランシャリオ門別スプリント。北海道・東北地区のトライアルだったが、過去5年とも岩手からの参戦はなく、今年から岩手の早池峰スーパースプリントが加わったことで、北海道のトライアルにリニューアル。昨年から重賞に昇格し第2回となっているが、過去5年のこのレース傾向を調べると、全て良馬場での実施。最速時計は、2013年アウヤンテプイがマークした59秒4。他に1分を切る時計は、2012年アグネスポライト(59秒9)と、2015年ポアゾンブラック(59秒6)があり、勝ち時計は1分前後と推測できる。
 門別競馬場のダートコースは砂厚が12センチあり、他の競馬場に比べると厚みがある。コースが広く、砂が深い点から相当タフな舞台設定で、短距離戦でもスピードだけでは押し切れない。多くの調教師は、「門別の1200メートルを克服すれば、他場のマイルは十分こなせる」と常々口にしているが、当然1000メートルも一介のスピード馬では勝ち切れない舞台である。
 バックストレッチが長い1200メートルは、さほどペースが上がらず、3コーナー過ぎからペースアップする傾向にある。しかし1000メートルは、3コーナーまでの距離が短いため先行争いが熾烈となりやすく、2ハロン目で一気にペースが上がったまま勝負どころへ進む。まさに息を入れるところがなく、最後の1ハロンは時計を要すことが多い。
 今年のメンバーは、アウヤンテプイやポアゾンブラックが不在となって、先行タイプが見当たらない。10頭が一斉のスタートを切り、リバーキンタローとキタサンウンリューが出たなりで主導権を握った。
 「コーナーで終始外を回る展開を嫌い、内の出方を見ながらレースを進めました」というのが、シセイカイカの石川倭騎手(2着)とクリーンエコロジーの岩橋勇二騎手(3着)。有力2頭が、前を追いかけていかなったことで、ペースは早々と落ち着いた。
 一方、JRAから転入初戦となったケイアイユニコーンは、1000万クラスで芝の追い込み馬だった。しかし、芝のスピード競馬に慣れている馬が、ダートでスローの展開となったのは幸い。「思った以上に楽に追走できたので、最後は想像通りに弾けてくれました」と、直線で鮮やかに差し切りを決めた松井騎手。大外枠からのレースだったが、「ブリンカーを着けている馬で、かえって揉まれずに運べたのは良かったと思います。外を回らされることは覚悟の上で、スムーズに運ぶことを心掛けていました」とレースを振り返る。有力馬が外枠に固まったが、3コーナーのポジションを意識する騎手の心理が、勝敗の分かれ目となった。
 「外を回ることを気にせず、位置を取りに行けば良かったですかね……」と、3着だった岩橋騎手がレースラップを見ながら反省していた姿が、まさにそれを物語っている。
 勝ったケイアイユニコーンを管理する安田武広調教師は、開業6年目で嬉しい重賞初制覇となった。「重賞を獲りたい思いでやってきましたし、素直に嬉しいですね。ケイアイユニコーンは、昨夏にお話を頂いていた馬で、ダートも合うと思っていた馬ですし、いきなり結果を残せてホッとしています」
松井伸也騎手
中央では1度しかダートの経験がなかったそうですが、返し馬の雰囲気から適性の高さは感じていました。道中は楽に先団に取り付くことができ、手応えも抜群でしたので、4コーナーでは勝利を意識しました。今後が楽しみです。
安田武広調教師
血統的にダート適性は高く、攻め馬の過程を含めて不安な点は初ナイターだけだと感じていました。外枠で流れに乗ることができ、4コーナーで勝てるかなと思いました。船橋も視野に入れたいと思いますが、自分の中では札幌の芝に挑みたい気持ちはあります。

 安田調教師は、左回りの良績が乏しいことと、涼しい北海道から夏の本州遠征はリスクがあることから、習志野きらっとスプリント参戦も1つの選択肢としながら、次走の明言は避けた。しかし、「札幌の芝は当初からプランにあります」と、8月28日のキーンランドカップGⅢに参戦する考えを示した。また3着のクリーンエコロジーは、盛岡のクラスターカップJpnⅢを目標にする予定。SSSにとどまらず、さらなる高みを目指すこととなる。

取材・文:古谷剛彦
写真:中地広大(いちかんぽ)