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連載第46回 1993年 東京大賞典

『師走の大波乱』
1993年 東京大賞典 ホワイトシルバー

Movie(映像ファイルサイズ:27.1MB)
 1993年12月29日、この日第39回東京大賞典が行われ、5歳牝馬のホワイトシルバーが勝った…、らしい。
 実はこのレースを筆者は観ていない。当時大学4年生、この日は日刊競馬新聞社の内定式であった。随分遅いし、師走の忙しい時季に行われるなあ、と当時思ったものだ。あれから23年経ち自分が人事採用担当をやっているが、ここまで遅くはないにしても、やはり似たような時季に招集している。何の因果だろうか。
 時間的にはちょうど東京大賞典が発走した後だったと思う。同期大川とともに入社意思確認をし、社内を案内されている時に「大賞典やられちゃったよ!」と言って入ってきたのが先代の谷真翁社長だった。これから入社する会社の社長から初めて聞いた言葉が「大賞典やられちゃったよ!」である。今思うと随分おかしな会社だが、あれから23年経ち、自分がおかしな会社のイメージを率先して醸し出しているかと思うと、どうもすみませんとしか言いようがない。
 先代社長が「やられちゃった」東京大賞典がどんなレースだったかは、夜の東京シティ競馬ダイジェストで観た。その後競馬場に行くようになってから、荒山騎手(現調教師)などからも、当時の話を何度も伺っている。
 第39回東京大賞典。1番人気はハシルショウグン。その年の川崎記念、帝王賞、大井記念に勝ち、中山のオールカマーに挑戦し2着と好走。地方競馬代表として出走したジャパンカップは16着と大敗したが、ダートに戻ればやはりこの馬が中心となる。2番人気は3歳馬ブルーファミリー。デビューから無敗の7連勝で羽田盃制覇。東京ダービーは5着に敗れたが、血統からくる距離不安が囁かれた2600mの東京王冠賞に勝ち2冠達成。距離を克服したと目された。3番人気はビッグランサー。重賞未勝利だが、前哨戦の東京記念2着で一気に浮上した。4番人気はサトノライデン。羽田盃2着、東京ダービー3着、東京王冠賞2着ともう一歩ながらも安定した成績。さらに鞍上石崎隆之となれば、人気にならない方がおかしい。
 そして5番人気がホワイトシルバー。グランドチャンピオン2000、東京記念と重賞連勝中。本来なら1番人気に推されてもおかしくはないが、450キロの5歳牝馬だけにそこまでは支持が集まらない。
 「公営競馬の実力No.1決定戦、東京大賞典です」大井競馬ダイジェストのあの独特なナレーションが耳に残る。スタートでポンと出たサクラスターハイネを制して大方の予想通りブルーファミリーがハナを奪う。1番人気のハシルショウグンは3番手と絶好のポジション。最初のスタンド前に入り隊列も固まり、ブルーファミリーがペースを落としにかかる。しかし、1~2コーナーを過ぎて向正面に入ると、ハシルショウグンと的場文男騎手がスルスルと2番手、そして逃げるブルーファミリーを突きにかかる。3コーナー手前。カメラが正面のカメラに切り替わると、なんとホワイトシルバーが先頭グループに並びかけている。道中11番手にいたはずなのに。
 この戦法、実は2走前のグランドチャンピオン2000で披露している。後方12番手から、3コーナー手前で一気にまくり、逃げるウエルテンションを交わして先頭に立つと、直線でも勢いそのまま2着に3馬身の差を付け、重賞初勝利を飾っている。
 しかし、今回は若干事情が違った。オールカマー遠征、グランドチャンピオン2000、東京記念と重賞連勝と、これまで以上に厳しいレースが続いたため、前走後に両前肢に球節炎を発症。一時は出走を断念まで考えるほど酷かったと後日聞いた。そのため、荒山騎手(現調教師)はなるべく負担をかけないようなレースを心掛けたという。
 3コーナーから4コーナーで、逃げるブルーファミリーに並びかけ、直線へ。ハシルショウグンもその直後で追い出し態勢。残り200mで完全に抜け出し、追いすがるタイコウストームに1馬身半の差を付けゴールした。
 史上5頭目(当時)となる牝馬のグランプリホースの誕生。しかし、陣営には喜びよりも驚きと安堵の気持ちが強かったと、後に語ってくれた。中間の状態と、東京大賞典のメンバーをみればその気持はわからないでもない。
 冬場休養し、始動は帝王賞。しかし、主戦の荒山騎手が調教中の怪我で、ピンチヒッターで堀千亜樹騎手が騎乗するも10着に敗れる。続く大井記念はまだボルトが取れていない荒山騎手が騎乗し2着になったものの、今度はゴール前でホワイトシルバーにアクシデント。右前脚骨折の重傷で危ぶまれたものの、なんとか危機を乗り越え繁殖入り。2005年KBC杯に勝ったエドモンダンテス、2008年ローレル賞3着のシアワセノレシピなどを生み、2009年2月、この世を去っている。
文●日刊競馬・小山内完友
写真●いちかんぽ
競走成績
第39回 東京大賞典 平成5年(1993年)12月29日
  サラブレッド系4歳以上 1着賞金6,800万円 大井 2,800m 晴・良
着順
枠番
馬番
馬名
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 5 8 ホワイトシルバー 牝6 54 荒山勝徳 3:00.4 5
2 8 14 タイコウストーム 牡4 54 朝倉実 1 1/2 12
3 3 4 ビッグランサー 牡6 56 桑島孝春 1 1/2 3
4 7 11 モガミキッカ 牡6 56 佐藤隆 1/2 7
5 8 13 ウィナーズステージ 牡5 56 張田京 1 1/2 14
6 5 7 ワカクサホマレ 牡5 56 佐々木竹見 ハナ 8
7 1 1 サトノライデン 牡4 54 石崎隆之 2 4
8 6 9 ゴールセイフ 牡7 55 高橋三郎 クビ 10
9 3 3 ドラールオウカン 牝6 54 内田博幸 1 6
10 6 10 ハシルショウグン 牡6 56 的場文男 2 1
11 4 6 キングダイハード 牡5 56 見澤譲治 クビ 13
12 2 2 モガミハヤブサ 牝6 54 堀千亜樹 クビ 9
13 4 5 ブルーファミリー 牡4 54 早田秀治 4 2
14 7 12 サクラスターハイネ 牝5 54 鈴木啓之 大差 11
払戻金 単勝890円 複勝310円・700円・190円 枠連複11,550円