dirt
2017年3月30日(木) 名古屋競馬場 1900m

先手を主張し後続を寄せつけず
実績馬が逃げ切りグレード4勝目

 2016年度の地方競馬最後のダートグレードレース、名古屋大賞典JpnⅢが、春の陽気に包まれた名古屋競馬場で行われた。
 今回の出走は9頭と少頭数での争い。地方馬は4頭のみと寂しくなったが、JRAからの5頭は、実績のある馬や勢いのある馬など、好メンバーが揃った。しかも、JpnⅠ勝ちのあるオールブラッシュの斤量が59キロ、JpnⅡ勝ちのケイティブレイブが58キロに対し、他の3頭は54キロ。この斤量差がさらにファンの頭を悩ませたのだろう。単勝オッズは、JRA5頭全てが10倍以下となり、オールブラッシュとモルトベーネがともに単勝3.0倍で1番人気という、大混戦ムードが漂っていた。
 ゲートが開くと、逃げ候補と予想されていたドリームキラリとケイティブレイブの先行争いとなったが、最初のコーナーでケイティブレイブが先手を取りきった。直後にドリームキラリが控え、少し離れた3番手に地元のカツゲキキトキト、その後ろにオールブラッシュ、トロヴァオ、ピオネロ、モルトベーネと有力馬たちが追走した。
 向正面半ばで場内から歓声が上がった。ピオネロが一気に前へと動き始めたからだ。しかし、先頭のケイティブレイブは3コーナーあたりでスパートをかけ、後続を引き離しにかかった。「直線でビジョンを見たらセーフティリードだと思ったので後ろは気になりませんでした」と、福永祐一騎手のペース配分も見事に決まり、ケイティブレイブがそのまま逃げ切って見せた。
 最後は1馬身半まで差を詰めたピオネロが2着、ゴール前、鋭く末脚を伸ばしたカツゲキキトキトが半馬身差で3着に入った。
 開口一番、「安心した~!」と安堵の表情を見せた目野哲也調教師。一番心配だった点は、58キロの斤量だったとのこと。福永騎手も「この斤量を背負って、この斤量差があって、大したもんですよ」と感心していた様子だった。そして、目野調教師が「逃げれば負けないと思っていた」と語ったように、ここ2戦はGⅠ/JpnⅠの舞台で思うようにいかなかったが、自分の形に持ち込みさえすれば強さが発揮できることを証明した。 
 以前から「調教で負けたことがない」「状態が変わらなくて、ずっと同じ」などと印象的な話が出ていたが、今回も「こんな馬は初めて。分からない。掴みどころのない馬です」という興味深い言葉が聞かれた。陣営も翻弄されるような未知の魅力に包まれたケイティブレイブ。これからのパフォーマンスがさらに楽しみである。次走については未定だが、上半期の大目標は帝王賞JpnⅠになりそうだ。
 そして、この日一番の歓声が上がったのが、直線でカツゲキキトキトが外から追い込んできたシーンだ。3コーナーで一旦置かれたように見えたのだが、大畑雅章騎手によると「中央馬について行ったら脚が上がってしまうかもしれないと思って、ワンテンポ遅らせた」とのこと。この判断が結果的に最後の末脚に繋がった。「このメンバー相手ですから力をつけていますね。あそこまで迫ったのだから2着が欲しかったですが。でもファンのみなさんが喜んでくれているのが分かったので良かったです」(大畑騎手)。
 中央勢が圧倒してきたこのレースで、地方馬が3着以内に入ったのは、2008年のアルドラゴン(2着・兵庫)以来実に9年ぶりのこと。地元ファンの目の前で、昨年のNARグランプリ3歳最優秀牡馬の存在感をしっかりと示してくれた。カツゲキキトキトの次走は、東海桜花賞を予定している。
福永祐一騎手
スタートしてからもっと楽に行けると思いましたが、主張したら先手を取れたので、その後はリラックスして楽なペースで行けました。調教だと短距離馬かと思うほどの動きをするのですが、レースになるとスタミナ豊富でバテない強味のある印象。相手が強くなっても自分の競馬ができるかどうかでしょう。
目野哲也調教師
今日は試練だと思っていました。追い切りもびっしりやって調整はとても順調でしたね。道中揉まれたりするとやめてしまうことがあるので、とにかく逃げてくれればバテません。福永騎手が上手く乗ってくれましたね。いつも自分の競馬ができるとは限らないけど今日は持ち味を生かした競馬ができました。

外から追い込んだカツゲキキトキトが3着

取材・文:秋田奈津子
写真:国分智(いちかんぽ)