スーパースプリントシリーズ特集

 競走距離1000メートル以下のレースのみで構成されるシリーズ競走、『スーパースプリントシリーズ(略称:SSS)』。5年目となる本年は6月11日(木)~7月20日(祝月)の間、トライアル4戦およびファイナルの計5戦で実施します。
 SSSは、超短距離戦で能力を発揮する異才の発掘と、各地方競馬場で実施可能な最短距離を極力活かすためワンターン(コーナー通過が3~4コーナーのみ)のスプリント戦によるシリーズとして2011年に創設されたもので、各地区の超スピードホースが、トライアル、そしてファイナルで極限の速さを競います。

 昨年のファイナル、習志野きらっとスプリントは8歳馬のナイキマドリードがトライアルを勝利してきた馬たちを抑えて勝利。今年も古豪が意地を見せるのか、それとも新たなスターの誕生か。

 激戦必至の究極のスプリント戦をぜひお見逃しなく!


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断然人気に応えて今年も圧勝
かつての名騎手が活躍を支える

 第1回から第3回までの名古屋でら馬スプリントを勝利したのは、笠松所属のラブミーチャン。そして第4回と第5回の覇者は、名古屋所属のワールドエンド。スピードの絶対値を争う条件下で強力な存在が出現すると、ライバル勢がその牙城を崩すのはなかなかむずかしいのかもしれない。
 今年の名古屋でら馬スプリントが行われた日の競馬場は、朝から強い雨と風。入場人員も少なく、メインレースになってもパドックでは屋根のあるところにパラパラと人がいる程度だった。本馬場の内側部分に残る蹄跡はすぐに水たまりになり、駆け抜ける馬たちは路盤に脚を叩きつけているかのような音を響かせていた。
 となると、よりスピード優先となるのは明らか。昨年の覇者で、10カ月ぶりの前走を圧勝したワールドエンドが単勝1.2倍の断然人気となるのは、当然ともいえる雰囲気だった。
 そのワールドエンドは、スタート直後こそほかの馬に先手を取られたが、3コーナーに達する前に単騎逃げの形に持ち込んだ。あとはそのままのスピードを維持して押し切るだけ。完全な横綱相撲といえる内容だった。
 2着にはインコースを立ち回って位置取りを上げたピンクストーンが入ったが、手綱をとった宇都英樹騎手は、「相手は馬なりですからね」と、脱帽の様子。馬群の外を追い上げて3着に入ったイワクラギンガの今井貴大騎手も「うーん」と、渋い表情のままだった。
 逆に言うと、ワールドエンドの実力が一枚も二枚も抜けていたということ。そしてレース後の1着の枠場では、益田や福山などで通算3071勝を挙げた名ジョッキー、岡崎準さんが、戻ってきた同馬を迎えていた。
 「そうなんです。担当馬なんですよ」と、岡崎さんは上がり運動の引き手を持ちながら満面の笑顔。その後の写真撮影でも胸を張って納まっていた。
 「こう言っては語弊があるかもしれないですが、ワールドエンドは岡崎さんがしっかり仕上げてくれるので、ひと味違う安心感がありますね」とは、レースで騎乗した岡部誠騎手。岡部騎手は最終追い切りにだけ騎乗したそうだが、そのときも背中から伝わってくる感触が、ほかの馬とは違うように感じたそうだ。
 さて、今年も圧勝を飾ったワールドエンドは、どのような方向性で進むのだろうか。管理する川西毅調教師は、「去年(の習志野きらっとスプリント)は夏負けしていたんですよ。だから、今年もどうかなあという感じです。1400メートルまでは大丈夫なので、夏は休ませて秋の重賞戦線に向かうほうがいいような気がしていますけれど」と、考えているそう。昨年のスーパースプリントシリーズ・ファイナルでは1番人気に支持されるも9着に終わった、そのリベンジをという可能性は低いのかもしれない。
 しかしワールドエンドには、元3000勝ジョッキーの経験と技術という大きな援軍がある。快進撃が続く川西厩舎を縁の下から支える元名手ともども、今後の動向に注目したい。
岡部誠騎手
昨年ほどの出脚ではなかったですが、二の脚がよかったので、焦らずスピードを乗せようと思いました。そこからあとはこの距離ですし、僕は乗っているだけでしたね。今後は暑くなるので、馬の体調がどうなるかわからないですが、(習志野きらっとスプリントに)出る機会をいただけるなら頑張りたいです。
川西毅調教師
スタートで少しのめったので心配しましたが、すぐに立て直すことができて、4コーナーで伸びてくるところを見て、そこでもう安心しました。昨年もそうだったんですが、夏はちょっと合っていないような感じがするんですよね。だから、今後のことは馬の様子を見ながら考えたいと思います。

右端が岡崎準厩務員

取材・文:浅野靖典
写真:宮原政典(いちかんぽ)