毎年秋に行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。2015年は10月19日から、11月1日まで、未来を期待される優駿たちの戦いが繰り広げられます。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが、このシリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(11/5・門別競馬場・北海道2歳優駿、11/25・園田競馬場・兵庫ジュニアグランプリ、 12/16・川崎競馬場・全日本2歳優駿)への期待感を高めることも期待されます。


2015年未来優駿の総括はこちらです
※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。

期待にこたえて無傷の4連勝
師弟コンビにも初のタイトル

 今年でまだ8回目と歴史こそ浅いが、園田では、すっかり出世レースとして知られている兵庫若駒賞。過去7頭の勝ち馬からは悲劇の名馬オオエライジンなど、兵庫ダービー馬を3頭輩出し、5頭がその後、他地区の重賞に遠征して勝っている。
 今年も過去の勝ち馬と比べても、見劣らない期待馬が注目を集めた。その名はマイタイザン。デビューから無傷の3戦全勝。いずれも天性のスピードでハナに立つと、道中で気を抜く面を見せながらも、能力の違いで勝っていた。
 その底知れぬ強さは関係者の間でも、同馬の平野正行オーナーの過去の所有馬で園田金盃など重賞9勝したベストタイザンや、現兵庫オープンのマッハタイザンと比べても、素質面で見劣らないと、うわさされるほどだった。
 当然、単勝は1.5倍と圧倒的な1番人気だったが、陣営にとってもマイタイザンには特別な思い入れがあった。マイタイザンの“マイ”は鞍上の杉浦健太騎手の“舞”夫人の名前を取ったもの。重賞初制覇がかかる新井隆太調教師と杉浦健太騎手の師弟コンビにとっても、絶対に負けられない一戦でもあった。
 パドックでは周囲の2歳馬が若さを見せる中、マイタイザンは古馬のように落ち着き払って周回。すでに風格の違いを漂わせていた。
 1強ムードではあったが、まだレースに慣れていない2歳馬。逆転の期待を寄せられたのが、2番人気ウメマツサクラ(単勝4.1倍)、3番人気エイシンシンタ(同5.6倍)、4番人気リラフェスタ(同9.5倍)の3頭で、ここまでが単勝10倍以下だった。
 ウメマツサクラとエイシンシンタはともにマイタイザンと対戦した際に、奇しくも同じ1馬身1/4差の2着。展開や成長度、距離が替わることでの逆転が期待された。移籍初戦となるリラフェスタはハイレベルの道営2歳戦で揉まれた経験が評価された。
 レースは大山真吾騎手のエイシンシンタが果敢にハナを奪う。逃げると思われたマイタイザンだが慌てず、その外につけると、さらに、背後には川原正一騎手のウメマツサクラが追走した。向正面でエイシンシンタの手が動き始めても、マイタイザンは楽な手応えでぴったり併走。3コーナーでマイタイザンが先頭に立つと、外からウメマツサクラがグングン差を詰めてきた。マイタイザンの杉浦騎手の脳裏に1カ月前の苦い経験がよぎった。
 9月17日の園田プリンセスカップ。今回同様、1番人気のスマイルプロバイドで重賞初制覇を期待されていた。しかし、逃げているところを向正面から、川原騎手のランランランに外から被せられ8着に沈んだ。
 しかし、マイタイザンは違った。4コーナーでウメマツサクラが外から襲いかかるのに呼応して、ひと伸びすると、直線もリードを保ったまま、無傷の4連勝でゴールイン。調教師、騎手にとってもうれしい重賞初制覇となった。
 デビュー6年目で10月23日に通算200勝も達成した杉浦騎手が、「前も後ろの馬も怖かったが、特に川原さんの馬には注意していた。思い入れのある馬で重賞初制覇できてうれしい限り」と笑顔を見せた。開業4年目で初の勲章を得た新井調教師は、「この馬の長所は素直なところ。ペースは速いと思ったが、このあたりで結果を出せないようでは中央勢には通用しない。まだ揉まれる競馬をしていないし、次が正念場になります」と優先出走権を得た11月25日の兵庫ジュニアグランプリJpnⅡ(1400メートル)への参戦を表明。勝ってかぶとの緒を締めた。
杉浦健太騎手
1番人気馬の騎乗は緊張しましたが、馬の力も上だと思っていたので、馬の力と自分を信じて乗りました。初めて2番手からの競馬になりましたが、この馬のペースだけを考えて無理には行かないと決めていました。上でもやっていける馬ですし、これから、もっと走ると思います。
新井隆太調教師
ハラハラドキドキでした(笑)。杉浦を信じて、思い切って乗ってこいという指示でしたが、それができたのが勝因と思ってます。杉浦で負けたら仕方がないと言って乗せて下さった馬主さんにも感謝してます。重賞初勝利はうれしいですが、1番人気で勝つプレッシャーのきつさも実感しました。


取材・文:松浦渉
写真:桂伸也(いちかんぽ)