ダービーウイーク タイトル

 競走馬にとって最高の名誉、それはダービー馬の称号。

 全国各地の6競馬場(佐賀・盛岡・門別・大井・園田・名古屋)で行われる“ダービー”6競走を短期集中施行する夢のような6日間、それが「ダービーウイーク(Derby Week)」(創設2006年)です。

 ダービーウイーク各レースで勝利を掴んだ各地の世代ナンバーワンホースは、全国3歳馬のダート頂上決戦「ジャパンダートダービーJpnⅠ(大井・7/8)」出走に向け、大きなアドバンテージが与えられます(※)。
※ 東京ダービーの1・2着馬にはジャパンダートダービー(JDD)への優先出走権が与えられ、その他5競走は指定競走(注)として認定されている。
(注) 指定競走とは、その1着馬が根幹競走の選定委員会において、同一地区内の他の馬に優先して選定される競走をいう。なお、他の優先出走権の状況や指定馬の数によって適用されない場合がある。
 前年春から、新馬戦を皮切りにスタートし、秋の「未来優駿」シリーズを経て、一世代でしのぎを削る熱き戦いは、集大成への大きな山場を迎え、興奮はクライマックスへ。

栄光の物語が走り出す!ダービーウイークをお見逃しなく!

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厳しい流れで先行勢総崩れ
唯一の牡馬が転入初戦で殊勲

 佐賀、盛岡、園田と1番人気が堂々と勝ったレースもあれば、門別では1番人気馬がまさかのスタート直後落馬、大井では3連単66万馬券が飛び出した。堅いか大波乱か、そんな印象の今年のダービーウイークを締めくくる東海ダービーが6月5日、名古屋競馬場で行われた。
 東海地区の現3歳世代を振り返ると、名古屋、笠松の認定競走は10レースすべて牝馬が勝った。また、牡・牝混合で行われた6つの重賞もまたすべて牝馬が制覇。牡馬陣の層が薄かったのは否定できないが、“牝馬の当たり年”であったのも事実。そんな世代を象徴するかのように、今年の東海ダービーは出走12頭中、11頭が牝馬と“東海ほぼオークス”とでも言いたくなるようなメンバーとなった。
 1番人気に推されたのは、前哨戦といえる駿蹄賞で8馬身差の圧勝を演じたハナノパレード。2着以下を子供扱いした内容を見て、「今年のダービーはこの馬だな」と筆者を含めて多くの人が思ったことだろう。ただ、「前走後疲れが出てしまった」と迫田清美調教師が語り、現場トラックマンからも追い切りの動きが前走ほどではないとの情報もあり、ほかの馬にも十分にチャンスがありそうなムードとなっていた。
 そんなダービーを制したのは、唯一の牡馬、バズーカ。中央で2戦未勝利、その後兵庫へ転じて8戦3勝、2着1回の戦歴を引っさげて今回から名古屋へ移籍。見出しをつけるとすれば、“東海ダービーを狙いすましてバズーカ砲が炸裂”といったところか。とはいえ、その布石は3走前の名古屋・スプリングカップにあった。1400メートルの1番枠でスタートもひと息、ズルズルと後方に下げざるを得なくなってしまったが、勝ったハナノパレードから1秒4差とはいえ正味2ハロンくらの競馬で4着まで伸びた脚に能力の一端は見せていた。続く菊水賞では今年の兵庫ダービー馬インディウムから1秒1差の5着。この2走からみても、牝馬が席巻する今年の東海地区のレベルなら十分にダービーが狙えるとの陣営の思惑がズバリ当たった格好だ。
 レースの主導権を握ったのは1番人気のハナノパレード。ただ、2番手につけたマルヨバナーヌの吉井友彦騎手がレース後、「積極的に押して追走したし、3歳の1900メートルとしては息の入らないペースだったと思う」と語ったように、結果的に先行した3頭は10~12着と惨敗。前半800メートルが51秒5と数字的には極端なハイペースではなかったが、差し馬有利な流れだったのは確か。
 向正面に入ると、そうした展開に加え、「いつものように引き離していく感じがなかった」と戸部尚実騎手が語るハナノパレードの勢いが鈍る。それを見た岡部誠騎手が、「前の行きっぷりがひと息だったし、切れる脚はないので早めに仕掛けた」という判断でミトノレオがスパート。川西毅調教師師は「予定ではバズーカの方が前にいるかなと思ったけど」とのことだったが、ミトノレオを追いかける形でバズーカが続いて4コーナーへ。
 バズーカは、多少の展開利があったにせよ直線に入ってからも脚いろは鈍ることなく、じわじわと追いすがるツリーハウスを1馬身振り切って快勝。入厩して日が浅かったことを考えると、今後さらなる上積みが見込め、東海地区にも牡馬のスターが現れた印象が強い。
 とはいえ、駿蹄賞の内容を考えると、体調さえ戻ればハナノパレードがこのまま終わるとは思えないし、初重賞挑戦がダービー2着のツリーハウスは、向山牧騎手が「忙しい競馬より平均的に脚を使えるこの距離の方があっている」と今後に大きな伸びシロを感じさせてくれた。秋の3歳重賞戦線、そして古馬になってからもハイレベルな争いが期待できそうな世代といえそうだ。
今井貴大騎手
もう少し前々でレースを運びたかったけど前半はあの位置取りに。それでもハナノパレードが早めに捕まりそうになったときに「いける」と感じました。あとは直線で僕がしっかり追えばなんとかなるだろうと思いました。気性的に難しいところはあるけどレースでは真面目に走ってくれるのがいいですね。
川西毅調教師
乗り込みは3週間ほどしてきましたし転入初戦としてはまずまずの仕上がり。とにかくダービーを勝ててうれしいです。状態は同じ厩舎のミトノレオの方が数段いいと感じましたが、こちらの底力が上回っていたということでしょう。今後は金沢のMRO金賞に向けて調整することになると思います。


取材・文:竹中嘉康
写真:岡田友貴(いちかんぽ)