当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

第15回JBC総括

好天に恵まれ売上げレコード
層の厚い中央勢に地方馬は苦戦

2015年11月10日
文●斎藤修
写真●いちかんぽ、斎藤修、NAR

 4年ぶり6度目となる大井競馬場での開催となったJBCは、祝日ということでデイ開催として行われた。まず何がよかったかといえば好天に恵まれたこと。昼間は上着を着ていると汗ばむほどの陽気だった。場内を歩いてみて、普段の開催ではあまり見られない、幅広い年齢層の来場者が、競馬だけでなくさまざまに楽しんでいる様子だった。
 場内の飲食店はどこも行列ができてにぎわっていたが、内馬場で行われていた『馬産地グルメと全国うまいもの大会』も盛況だった。たしか2010年の船橋開催からだったか、競馬場や馬に関する地域や、また競馬場周辺のグルメの出店が、JBCでは定番のようになった。それを楽しみに来場するファンもいるのではないだろうか。特にその内馬場には、家族連れをはじめとした、必ずしも馬券がメインの目的ではないと思われるグループが目立った。定番化しつつある大井競馬場でのオクトーバーフェストもそうだが、競馬ファンのみならず、“競馬場”ファンの裾野を広げるという意味でも、年に何度かのこうしたイベントはいいことだと思う。
 もうひとつ、今回のJBC開催でアピールポイントとなったが、G-FRONTのオープンだった。隣のL-WINGに比べると外見的にはこぢんまりとした印象だが、スタンド前には競馬場全体が見渡せる“エキサイティングシート”(1287席)がある一方で、3階の“プライムシート”では席に座ったまま、専用のタッチパネルのモニターで、キャッシュレスで投票をできる。馬が走るのを生で見たいファンと、馬券に集中したいファンの双方に対応した施設といえそうだ。馬券の売上げはネット投票によって回復傾向にあるが、競馬場への来場者は減る一方で、G-FRONTは、これからの競馬場のあり方を示した施設ともいえそうだ。
 ひとつ残念に思ったのは、ナイター開催期間中にありながら、このJBC当日だけデイ開催であることの告知が不足していたのではなかったかということ。ぼく自身もはっきりと昼間開催であることを認識したのは1カ月ほど前のことだったし、直前になっても「え?昼間なの?」と驚く人がたくさんいた。ライトファンではなく、日常的に地方競馬の馬券を買っているファンだったり、競馬マスコミ関係者だったりの中にだ。極端な例では、発表された枠順の発走時刻を見て初めて気づいたという人までいた。
 たしかにJBC公式サイトや大井競馬場のサイトの開催要項にはかなり早い段階から発走時刻も掲載されていたのだが、それを見るのはよほど何かを調べようという人だけだろう。斎藤工さん、剛力彩芽さんを起用した、大々的なJBCの告知はさまざまなところで目にしたが、そうしたところでデイ開催であることも告知すべきだったように思う。
 競馬のコアなファンほど、この時期の大井(川崎も)はナイター開催であることが感覚的に刷り込まれている。またJBCともなれば遠方から来場するファンも少なくない。ナイター開催だと思って交通手段や宿泊の手配をしてしまったファンはいなかっただろうか。

 2012年10月に地方競馬IPATが始まって初めての大井開催のJBCということで、馬券の売上げでもさまざまに記録を更新した。
 この日の大井競馬場1日の売上げ48億4980万5050円(SPAT4LOTO売上げ含む)は、地方競馬のレコードとなった。従来の記録、2013年12月29日、東京大賞典当日の47億873万500円を1億4000万円余り上回った。
 クラシックの売上げ15億941万1800円は、2001年第1回(大井)の13億4502万500円を1億6000万円余り上回ってレコード。スプリントの10億3549万2900円は、残念ながら第1回の10億6110万3600円に2千万円余り及ばず。今年5回目のレディスクラシックの7億9984万6600円は、昨年盛岡の5億8077万7800万円を2億円以上、上回った。
 クラシックとスプリントの従来の売上げレコードが第1回だったことを考えると、まだまだ当時は売上げが大きかったことがわかる。一方で、4年前の大井開催時の各レースとの比較では、クラシック178.5%、スプリント168.6%、レディスクラシック150.0%という伸びで、地方競馬IPATの導入もあっての、近年の売上げの回復ぶりがわかる。
 入場人員でも第1回の大井開催がレコードで48,454人。大井開催のみを順番にピックアップしてみると、第3回27,027人、第4回40,576人、第7回28,166人、第11回33,579人で、今回が34,153人となった。
 ちなみに大井開催でもっとも入場が少なかった第3回(2003年11月3日)が、今回と同じようにナイター開催中でのJBC当日だけデイ開催(15時45発走のJBCクラシックのあとに3レース行われているので、正確には薄暮開催というべきかもしれない)だったことは興味深い(第3回と今回以外の大井はすべてナイター開催)。ただこの3回は、第1レースが雨で、第2レース以降曇りとなったものの、第9レースのJBCクラシックからまた雨になっているので、そうした天候の影響はあったと考えられる。

 JBCの3レースでは、いずれも1番人気馬が単勝1倍台の断然人気となったが、いずれも勝利には至らず。レディスクラシック、スプリントでは、新興勢力が人気馬をしりぞけた。
 レディスクラシックを制したのは4番人気のホワイトフーガ。メンバー中唯一の3歳馬で、5回と歴史はまだ浅いが、3歳馬の優勝は初めてのことだった。ホワイトフーガは関東オークスJpnⅡでの大差勝ちが印象的だったが、意外なことに関東オークスJpnⅡに出走経験のある馬がこのレースを制したのも初めてだった。鞍上の大野拓弥騎手は、このあとクラシックでも4番人気のサウンドトゥルーを2着に導いたことでは、今回のJBCのMVPといってもいいだろう。
 スプリントは、メンバー中唯一の牝馬、3番人気のコーリンベリーが制した。第3回を制したサウスヴィグラスと父仔制覇となり、牝馬の勝利はクラシックと合わせて初めてのこととなった。タガノトネールが回避したことによる補欠1番からの繰り上がり出走で、同様に今年ダートグレードを勝っているシゲルカガは補欠2番から繰り上がることができなかった。今季のこの路線では、断然人気で2着だったダノンレジェンドの快進撃が目立っていたが、それ以外のJRA勢は実力拮抗の混戦だったといえそうだ。
 クラシックでは、GⅠ/JpnⅠ・10勝目の日本記録が期待されたホッコータルマエが3着に敗れ、3番人気のコパノリッキーが逃げ切って連覇達成。よく知られるように、JBCクラシックは連覇が多く、アドマイヤドン、ヴァーミリアンが3連覇、タイムパラドックス、スマートファルコン、そしてコパノリッキーが2連覇で、15回の歴史で勝ち馬は8頭しかいない。そして武豊騎手はこのレース7勝目となった。地方馬は5着ハッピースプリント、6着ユーロビート、7着サミットストーンと、ダートグレード勝ちのある3頭が地方馬の中では上位を占めた。最先着のハッピースプリントは、勝ったコパノリッキーから0秒8差。手が届きそうな差ではあるものの、コパノリッキー、ホッコータルマエの2強だけではなく、拮抗した実力の馬がほかに何頭もいるだけに、GⅠ/JpnⅠで勝ちきるまではなかなかに難しい。
 各レースの地方馬最先着を見ると、レディスクラシックが5着(リュウグウノツカイ)、スプリントが6着(サトノタイガー)、クラシックが5着(ハッピースプリント)と、地方馬にとっては厳しい結果となった。
 近年はJRAでも2歳時からダートの番組が充実するなど、ダート路線の層が厚くなっているのに対して、フリオーソ、ラブミーチャン引退後の地方競馬には、ダートグレードで常に中央馬と互角の勝負ができる馬がほとんどいなくなっている。
 地方の出走馬でダートグレード勝ちの実績があった馬は、レディスクラシックがアスカリーブル(12着)のみ、スプリントがセイントメモリー(10着)、タガノジンガロ(14着)、クラシックは前述のとおりの3頭で、3レースの合計で6頭だけ。これで中央の一線級を相手に上位を狙おうというのはやはり厳しい。今後の地方馬の奮起に期待したい。