dirt
2014年7月9日(水) 大井競馬場 2000m

スタート後手も末脚活かす
ハナ差とらえて三冠を阻む

 九州に接近している大型台風の影響か、怪しい空模様。準メインレースのあたりから雨足が強くなり、ジャパンダートダービーJpnⅠの発走が近づくにつれて本格的な降りになった。馬場状態は稍重だったが、そうした雨の影響もあったのかどうか、あらためて、三冠を獲るのは難しいものだと、関係者のみならず多くのファンが思ったのではないか。
 今年で16年回目を迎えるジャパンダートダービーJpnⅠが創設されて以降の南関東三冠(2001年までは東京王冠賞も含めて四冠)では、第1回ジャパンダートダービーの覇者となったオリオンザサンクスこそ、現在の三冠と同じレースは勝っていたものの、当時二冠目に位置していた東京王冠賞は3着に敗れ四冠は逃していた。そして四冠を制したのが2001年のトーシンブリザード。その後、羽田盃、東京ダービーを制して三冠に王手をかけた馬は、ナイキアディライト(2003年)、シーチャリオット(2005年)、クラーベセクレタ(2011年)と3頭いたが、いずれも三冠制覇は叶わなかった。
 そしてトーシンブリザード以来、13年ぶりに三冠制覇の期待がかかったのがハッピースプリント。時代が変わったと思ったのは、鞍上が金沢の吉原寛人騎手であること。当初大井競馬場では、ダートグレードに関しては、他地区の騎手は馬とセットでの参戦でないと騎乗できないルールだったが、東京ダービーの直前、<二冠馬に騎乗していた他地区地方所属騎手は、その二冠馬に限りジャパンダートダービーで騎乗できる>という規定変更が発表され、三冠すべてに騎乗が可能となっていた。その吉原騎手で南関東三冠がかかるハッピースプリントは、単勝1.4倍という期待を背負った。
 東京ダービーと同じように浦和のエスティドゥーラが逃げ、2番手にノースショアビーチ。ハッピースプリントは、スタンド前では外のマキャヴィティに競りかけられる場面もあったが、1コーナーを回るところで単独3番手につけた。中央の有力各馬も続いたが、1頭だけ、最後方からの追走となったのがカゼノコ。スタートで両脇から挟まれるような格好になってのことだ。
 エスティドゥーラは3コーナー手前で後退。代わって先頭に立ったのがノースショアビーチで、ハッピースプリントは絶好の手ごたえのまま直後をぴたりと追走した。直線を向いて残り200メートル、追い出されたハッピースプリントが抜け出しにかかった。しかし外から追ってくる馬が2頭、フィールザスマートとカゼノコだった。中でもカゼノコの脚色がよく、ゴール前で抜け出していたハッピースプリントに、内外やや離れて並んだところがゴール。写真判定の結果、カゼノコがハナ差出ていた。3着フィールザスマート、4着ノースショアビーチ、5着ランウェイワルツまで、コンマ2秒差という接戦での決着となった。
 勝ったカゼノコは、これまでもダートで直線一気を決めていた馬だが、スタート後最後方だったにもかかわらず、向正面から徐々に位置取りを上げ、4コーナー手前では大外からまくってきていた。前半1000メートルの通過が62秒1という、あまり速くはならなかった流れにも助けられたのだろう。デビュー当初は芝で結果が出ず、ダートに路線変更して3戦目の未勝利戦で初勝利。その後、毎日杯GⅢ(10着)を挟んで500万下、鳳雛ステークスと連勝してきていた。「まだまだ馬が子供で、(本格化は)来年あたりからと思っていた」という野中賢二調教師。その充実ぶりは陣営の見立て以上のものがあったようだ。
 一方のハッピースプリントにとっては、単に三冠を逃したと言ってしまうにはあまりにも大きなハナ差だった。3番手で砂を被らない外目を追走できたこと、前半62秒1という流れも東京ダービーとまったく同じ。しかし、勝負付けが済んでいるエスティドゥーラはともかく、「楽に逃げさせるとこわいと思った」(吉原騎手)ノースショアビーチをみずからつかまえにいかなければならず、また直線で確実に脚を使ってくる馬も気にしなければならないということでは、やはり地方馬同士とは違って厳しいレースになった。
 「ハッピーの競馬はしたと思うんですが、高いレベルでの競馬だったと思います」と吉原騎手。この後はオーナーブリーダーである辻牧場でしばし休養となるが、その先、北海道の田中淳司厩舎に戻るのか、大井にとどまるのか、それとも他に選択肢があるのかなどについての言及はなされていない。
秋山真一郎騎手
スタートでごちゃついて最後方からになりましたが、開き直って、馬の走りたいようにリズムよく行こうと思っていました。向正面でも手ごたえはよかったので、これなら反応してくれると思いました。直線でいい脚を使ってくれて、ゴールした時はわからなかったんですが、交わしていてよかったです。
野中賢二調教師
輸送も無事にこなしてくれて、状態にも不安がなかったので、直線脚を使って届かなければ仕方ないと見ていました。このあとはゆっくりさせて、秋は状態を見ながら古馬に挑んでいくことになると思います。短期間でここまで昇り詰めたので、大事に成長を期待しながら、もっと上を目指したいと思います。



三冠がかかっていたハッピースプリント陣営に
とって大きなハナ差となった。

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(岡田友貴、森澤志津雄)、NAR