レースハイライト タイトル
dirt
2013年9月12日(木) 浦和競馬場 1400m

向正面先頭から直線突き放す
大井生え抜きがグレード初制覇

 フリオーソやボンネビルレコードが砂上を去り、つい先日フジノウェーブも引退を発表……。最近では南関東所属馬がダートグレードレースで優勝するシーンが減ってしまった。
 そんな中で救世主が現れたと言えるだろう。今年からJpnⅢに格付けされたオーバルスプリントは、本橋孝太騎手がエスコートしたセイントメモリーが、昨年のJBCスプリントJpnⅠの覇者タイセイレジェンドら中央の強豪たちを抑えて優勝した。南関東勢のダートグレード制覇は、昨年6月、関東オークスJpnⅡでのアスカリーブル以来1年3か月ぶりだ。
 セイントメモリーは大井・月岡健二厩舎の生え抜き。若い頃はソエを気にしてひ弱な面があり、昨年は裂蹄で順調さを欠いたりと、さまざまな苦労を乗り越えて今に至る。「オーナーさんが大切に我慢をしながら使ってくださって、本当に幸せな馬だと思う」(月岡調教師)。
 関係者が一丸となって育て上げてきた結果、今年に入ってからの勢いは目覚ましく、2走前の京成盃グランドマイラーズから前走のサンタアニタトロフィーを連勝し、このオーバルスプリントJpnⅢに駒を進めてきた。
 レースでは、ゲートの出もスタートダッシュも良かったが、「中央勢と戦うのは初めてですが遠慮はしないで行こうと思って、初めて(尻に)出ムチを入れていつもより気合いを入れました」(本橋騎手)。しかし、外から一気に大井のエーブダッチマンが来てハナを主張すると、セイントメモリーは2番手から。
 向正面中ほどでセイントメモリーが先頭に立つと、タイセイレジェンドがピッタリついてきたが、自分のペースを守りながら淡々と進めていく。3~4コーナーから徐々に引き離していき、4コーナーで単独先頭に立って突き放すという好内容だった。
 「初コースでも気にすることはなかったし、手応えは抜群だったので焦ることはありませんでした。左回りのほうがスムーズに手前を替えてくれるぶん、最後にもうひと伸びしてくれます」(本橋騎手)。ゴールを過ぎて本橋騎手からは喜びの大きな雄叫びが聞こえてきた。
 2着にはタイセイレジェンドで、後方から徐々に進出した浦和のジョーメテオがメンバー中最速の上がり(37秒9)で3着に入り、地元の意地を見せた。
 セイントメモリーの斤量は54キロでタイセイレジェンドが59キロと5キロ差はあったものの、ダートグレード初挑戦で王者に2馬身差をつけての優勝は立派だった。このあとはJBCスプリントJpnⅠ挑戦への期待も高まるが、これで重賞3連勝と十分すぎるくらい頑張ってきただけに、今後も無理をさせないというスタンスは変えず、レース直後の段階では地元のマイルグランプリなどを予定しているとのことだった。
 大井の生え抜き馬セイントメモリーのこの勝利は、南関東全体にも元気を与えたと言えるだろう。この勢いに乗り、秋のダートグレード戦線で、南関東はもちろん地方競馬全体から吉報が届けられることを期待したい。
本橋孝太騎手
予想以上に走ってくれていて毎回驚かされます。(エーブダッチマンに)行かれて砂をかぶったんですが、嫌がらなかったので今後に向けて収穫になったと思います。ダートグレードを勝つのは僕も初めてなのでテンションが上がっていますが、これからも(馬の)邪魔しないように技術を磨いていきたいです。
月岡健二調教師
名立たるメンバー相手だったし、今後につながる競馬をしてくれればと思っていたんですが、信じられないし本当にうれしいです。馬も自信をつけていますね。今日の勝利はセイントメモリーの力があってこそで、こうやって勝てることも教えてくれましたし、僕たちにとっても今後のいい励みになります。


取材・文:高橋華代子
写真:宮原政典(いちかんぽ)