未来優駿総括 タイトル

活躍目立つサウスヴィグラス産駒
血統背景の楽しみな馬が多数

 今年で5年目を迎えた『未来優駿』。まずは前年の未来優駿各レースの勝ち馬のその後を確認しておきたい。
 大井・ハイセイコー記念を勝った牝馬のドラゴンシップは、続くローレル賞も制したが、その後は勝ち星なし。クラシックシーズンは戦列を離れ、復帰戦となった9月5日の千葉日報賞(A3特別)で2着と好走。古馬重賞線戦に乗るまでにはもう一息だ。
アスペクト(12年岩手ダービーダイヤモンドカップ)
 盛岡・若駒賞のアスペクトは、南部駒賞も制して岩手の2歳チャンピオンとなり、岩手ダービーダイヤモンドカップも逃げ切って見せた。しかし古馬重賞初挑戦となった一條記念みちのく大賞典では逃げ潰れて10着に敗れると、その後はまったくいいところがない。3歳馬同士の不来方賞も8着に大敗。残念ながら岩手ダービーまでの勢いは影を潜めてしまっている。
メイレディ(12年兵庫ダービー)
 園田・兵庫若駒賞を勝った牝馬のメイレディは、今年のグランダム・ジャパン3歳シーズンでは、船橋のアスカリーブルを2ポイント差でしりぞけて見事優勝。さらには牡馬を蹴散らして兵庫ダービーも制した。夏以降、古馬重賞に挑戦し、摂津盃、姫山菊花賞はともに惨敗だが、牝馬同士の重賞なら期待できそうだ。
 荒尾・九州ジュニアグランプリを制したのは佐賀のガルホーム。佐賀の九州ジュニアチャンピオンは2着で、今年はB級特別で2勝を挙げた。6月に遠征した園田FCスプリント(9着)を最後に中央へ移籍。藤原辰雄厩舎に所属しているが、11月4日現在、中央ではまだ出走していない。
 福山2歳優駿を制したのは、アラブの血を引いた牝馬のクーヨシン。明けて3歳になっても若駒賞、福山プリンセスカップと2つの重賞を制したが、残念ながら活躍はそこまで。福山ダービーではアグリノキセキに差をつけられての2着に敗れた。その後勝ち星がないとはいえ、古馬相手の銀杯で2着、3歳馬同士の紅葉賞は3着と、上位争いはしている。
NARグランプリ2011
2歳最優秀牝馬に輝いたエンジェルツイート
 門別・サッポロクラシックカップは、牝馬のエンジェルツイートが勝利。その後、平和賞、東京2歳優駿牝馬を制し、NARグランプリの2歳最優秀牝馬に選出された。明けて3歳になってからは、浦和・桜花賞3着、東京プリンセス賞2着と、南関東の牝馬三冠路線で善戦はしているものの、残念ながら重賞タイトルには手が届いていない。
 名古屋・ゴールドウィング賞のオーリーライアンは、駿蹄賞で2着と好走したものの、残念ながら3歳での勝ち星はなく、10月4日のレースを最後に登録抹消となっている。
 昨年の未来優駿勝ち馬からは、岩手のアスペクト、兵庫のメイレディと2頭の“ダービー馬”が誕生したが、一方で3歳になってから1勝も挙げていない馬が3頭いるほか、夏以降に苦戦している馬が目立っている。

 今年の『未来優駿』勝ち馬は、とにかく安定して強いレースぶりの馬が目立つ。福山のカイロスが無敵の7戦全勝なのを筆頭に、エーシンクリアー(兵庫)、ロマンチック(佐賀)、インサイドザパーク(船橋)、ウォータプライド(名古屋)と、7頭中5頭が連対をはずしていない。このうちウォータープライドを除く4頭が未来優駿対象レースを1番人気で勝っているため、そのいずれもが各地の2歳チャンピオン最有力候補といっていいだろう。
 各馬のレースぶりを振り返ってみよう。
 岩手の2歳戦線はそれまで混戦だったが、若駒賞ではロックハンドパワーが直線で後続を突き放し、頭ひとつ抜けだした。10年に岩手三冠馬となったロックハンドスターと血統的なつながりはないものの、馬主が同じ。そのロックハンドスターの主戦だった菅原勲騎手が、調教師となって初重賞をもたらしたのがこの馬だ。レースぶりから今後の成長力にも期待がかかる。南部駒賞から全日本2歳優駿JpnIを目標にしている。
 兵庫若駒賞では、後続を離して逃げた未勝利馬リュウノタケシツウが逃げ込みを図るところ、単勝元返しのエーシンクリアーがゴール前でようやく3/4馬身とらえての勝利。3着には6馬身差がついていたから、やはり勝ったエーシンクリアーの実力が抜けていた。地元の兵庫ジュニアグランプリJpnIIで中央馬を迎え撃つ。

 九州ジュニアチャンピオンは、牝馬のロマンチックが大差の圧勝。デビューから2戦はともに2着だったが、その後の3連勝は2着との着差をどんどん広げているだけに、一戦ごとに力をつけてきたようだ。佐賀ではこのあと2歳重賞がないため、目標は1月の花吹雪賞となるようだ。
 福山2歳優駿のカイロスは、デビューからすべて1番人気で7連勝。驚いたのは、福山2歳優駿の1250メートル1分19秒2という勝ちタイムで、古馬のコースレコードにコンマ1秒と迫るもの。サラブレッドの歴史が浅い福山では、これまで2歳や3歳のチャンピオン級の馬が他地区に挑戦しては、ことごとく敗れてきたが、カイロスには過去のそうした馬たちの雪辱を果たせるかどうかの期待がかかっている。兵庫ジュニアグランプリJpnIIに出走予定となっている。
 平和賞を制したインサイドザパークは、川崎・鎌倉記念から中1週での連勝。ここまで6戦して2度の2着があるが、いずれも出遅れと、スタートに課題があった。平和賞では好ダッシュから好位につけての差しきり勝ち。スタートを決めて力の違いを見せつけた。すでに6戦していることもあり、年内休養の可能性もあるが、全日本2歳優駿JpnIへの出走も検討されるようだ。


 ゴールドウィング賞を勝ったのは、牝馬のウォータープライド。金沢・兼六園ジュニアカップを勝って1番人気に支持されたホウライジェントルが2番手追走から3コーナー過ぎで先頭に立ったものの、これを競り落としたのがウォータープライドだった。笠松・プリンセス特別からグランダム・ジャパン2歳シーズンを目指す。

 サッポロクラシックカップは、ここまで4戦1勝で4番人気のプロティアンが、断然人気のヨウメイモンをアタマ差でしりぞけた。前走1800メートル戦7着からの連闘だが、1200メートルという距離が合っていたようだ。

現役時のサウスヴィグラス(左 03年JBCスプリント)


 血統面では、ロマンチックとカイロスの父がサウスヴィグラスで、相変わらず地方ダートでの勢いはすごい。


 エーシンクリアーの父エイシンサンディは、初期には笠松のミツアキサイレンスが大活躍し、現役ではJBCスプリントJpnI・2着のセイクリムズンがいる。エイシンサンディは未出走のまま引退したが、その父サンデーサイレンスの人気もあって種牡馬となった。上記2頭のほかにも地方ダートでの重賞勝ち馬を多数輩出している。
 母系では、ロマンチックの母の母カシワズプリンセスは、牝馬ながら羽田盃を制した活躍馬。孫には南関東牝馬二冠を制したネフェルメモリーもいる。
 ウォータープライドの母の母キョウワホウセキは、オークス3着のほか中央の芝で重賞2勝を挙げた。
 気になるのはカイロスの母リープイヤー。英国産のダーレー・ジャパンによる輸入馬で、船橋に入厩して未出走のまま引退。ヨーロッパ系の血統背景は確かなだけに、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。カイロスを管理する高本友芳調教師は、短距離路線での活躍に期待を寄せている。
 これらのうち何頭が来年の“ダービー馬”となるのか。また牝馬にとってはグランダム・ジャパンの2歳シーズンおよび3歳シーズンでの活躍も期待される。

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ、NAR