JRAで行われる国際騎手招待競走「ワールドスーパージョッキーズシリーズ」(WSJS 12/3・12/4 阪神競馬場)に出場する地方競馬代表騎手の選定(2ステージ4レースの総合ポイント制)を行う競走で、現在の名称で実施されるようになったのは2006年度から。
 各競馬場を代表する名ジョッキーが一堂に会し、大舞台(WSJS)への1枚切符を巡り、華麗なる技の競演が繰り広げられ、熱戦が期待されるシリーズ。なお、SJTからWSJSに出場した浜口楠彦(笠松/06年度)・赤岡修次(高知/07年度)・菅原勲(岩手/08年度)の各騎手は、いずれもシリーズ内で1勝を挙げる活躍を見せている。

 三部作のノンフィクション DRAMATIC3
 【第一部 スーパージョッキーズトライアル】
 〜1着以外はダメ。それを体験している者たちだけの戦いがある。この走りには必ずドラマがある〜


『竹見の見解 番外編 SJT総括』はこちらです。

第1ステージ
第2ステージ

3位まで2ポイント差の大混戦
吉原騎手が念願の夢舞台へ

 川崎競馬場で行われた第1ステージで勝利を飾った2名の騎手が、ともにもうひとつのレースで獲得したのは1ポイント。その影響もあって、名古屋競馬場での第2ステージを迎えた騎手12名のポイント差は、最大でも16。勝利を挙げれば20ポイント獲得だから、12名全員に優勝のチャンスはリアリティのある確率で残っていたといえる。とりわけ上位が大混戦。8位で第2ステージを迎えた東川公則騎手(笠松)でさえ、トップとはわずか6ポイント差。1枚しかない世界への切符は、第2ステージでどの馬とコンビを組むかというめぐり合わせが結果につながる大きな要素ともいえた。
 スーパージョッキーズトライアル(SJT)第3戦、シルバーブーツ賞。1400メートル戦ゆえに、最低でも好位からレースを進めなければ上位入線とはなりにくい。得点状況を考えると、大きく負けることは避けたいと全員が思っていたはずだ。とはいえ、第1ステージの成績が下位だった騎手は、勝てる可能性が高い馬では勝ちにこだわりたいところ。その思惑が現れたかのようなレース展開になった。
 スタートから競り合っていったのは2頭。三村展久騎手(福山)は第1ステージ終了時点で11位。東川騎手も順位的には8位だ。後続は、2頭が並んで飛ばしていく姿に狙いを定めていたはず。しかし3コーナーで東川騎手のホウライパレードが鼻出血を発症して一気に後退。競る相手が消えたことで三村騎手のニホンピロルーシーは走りが楽になり、最後は岡部誠騎手(愛知)のシーセラピスにクビ差まで詰め寄られたものの、逃げ切り勝ちという結果になった。
 第3戦終了時点での1位は、第1ステージでも1位だった戸崎圭太騎手(大井)。とはいえ、2位の今野忠成騎手(川崎)、3位の三村騎手、吉原寛人騎手(金沢)までは3ポイント差の圏内だ。5位の村上忍騎手(岩手)はそこから7ポイント差があったが、第4戦での着順次第では逆転の可能性は十分ある。検量室では第3戦のパトロール映像を見ながら多くの騎手が勝った三村騎手を称えていたが、心は次のレースに飛んでいたことだろう。
 その第4戦は、木村健騎手(兵庫)のスウィングダンスが圧倒的な人気。5番手あたりを追走した4連勝中のその馬を警戒するかのように、1周目のスタンド前ではほとんど一団となるスローペースで進んでいった。誰がどこでスパートするのだろうかとファンの胸の鼓動が高まってくる3コーナーのはるか手前、木村騎手は園田競馬場でよく見せるロングスパートを仕掛けて第4戦に決着をつけた。そのあとを流れ込んできたのが赤岡修次騎手(高知)のマイネルウインザーと、吉原騎手のホウライオーカン。続いて第3戦を制した三村騎手、第1ステージで最多ポイントを獲得した村上忍騎手が入線した。
 さて、その着順をポイントに換算し、それまでの数字に加えるとどうなるのか。検量エリアで即座に計算してみると、吉原寛人騎手が1位と出た。それを本人に伝えると「本当っすか!?」という反応。無理もない。シリーズ4戦が、6着、3着、5着、3着という成績なのだ。それでも総合優勝というのは事実である。しかし第2位の木村騎手との差はたったの1ポイント。第3位の三村騎手とのポイント差もまた、1ポイントだった。まさに紙一重での優勝。ほんの少し何かが違っていれば、結果も間違いなく変わっていたことだろう。そう考えると優勝した吉原騎手は、このシリーズでもっとも運がよかった騎手といえるかもしれない。
 今年の夏、吉原騎手は「この秋を人生のターニングポイントにしたいと思っているんです」と語っていた。設定した2つの目標のうち、ジャングルスマイルでの白山大賞典JpnV制覇は実現できなかったが、もうひとつの目標であるSJT優勝は達成できた。本番となる大舞台は12月3日と4日。そうだ、吉原騎手の目標には続きがあった。
 「そしてワールドスーパージョッキーズシリーズで結果を残すこと」
 若くしてドバイで世界の舞台を踏んだ男が進む12月の阪神競馬場は、自分の未来を切り拓くステージになるはずだ。
プレゼンターの大村愛知県知事と
取材・文:浅野靖典
写真:三戸森弘康(いちかんぽ)、NAR
総合優勝
吉原寛人騎手
第3戦の人気馬でスパッと勝ちたかったんですが、厳しい展開になってしまって。第4戦のスタート前は頭のなかでポイントを必死に計算して、なんとしても3着までには入らなきゃと思って馬を追いました。シリーズで1勝もしていないので、優勝したという実感はあまりないんですが……。でも夢にまで見た大舞台。精一杯がんばってきます!
総合2位
木村健騎手
うーん、惜しかったですね。でも1次で敗退しなかっただけよかったですよ。このシリーズはめぐり合わせとかいろいろありますからね。また来年、がんばります。でも自分らしいレースは皆さんに見せることができたと思いますよ。
総合3位
三村展久騎手
第1ステージは体調があまりよくなくて、あまり楽しむことができなかったのですが、今日は自分の体がよく動いてくれましたね。騎乗馬にも恵まれましたし、その馬の力を出し切れるように心がけて乗りました。ポイント的には惜しかったですが、その分は自分の未熟さだと思いますので、もっと腕を磨いてこの舞台にまた挑戦したいです。