従来、単独の競馬場で行われてきた女性騎手招待競走を、複数場で施行することにより、シリーズ化(3ラウンド6レースの総合ポイント制)。2006年度から現在の形態で実施されている。
 女性騎手のみで行われるレースは年間を通じて当シリーズのみで、注目度も高く、日本一決定戦の側面だけではなく、普段の競馬場では見られない華やかな雰囲気とお祭り感も特徴の一つ。

 三部作のノンフィクション DRAMATIC3
 【第三部 レディースジョッキーズシリーズ】
 〜今年、何度、女の強さを見せつけられるのだろう。この走りには必ずドラマがある〜


2011年LJSスナップレポートはこちらです。
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シリーズで急成長の下村騎手が2連勝
大接戦を制し別府騎手が2度目の優勝

 レディースジョッキーズシリーズ(LJS)2011が12月19日、最終ラウンドを迎えた。最後の戦いの地はLJSの開催が初となる福山競馬場。向正面には芦田川が流れ、川の対岸に山並みが広がる大変眺めの良い競馬場だ。この日はお天気にも恵まれ、明るい陽射しが川の水面を照らす。しかし、その穏やかな陽気とは裏腹に、私たちの想像を超えた劇的で激しい争いが繰り広げられることになったのである。
 その理由はこの中間に、LJSの開催が今年度で休止になると発表されたことが大きかったように思う。第2ラウンドを終えて、50ポイントでトップに立っていた増澤由貴子騎手(JRA)は悲願の初優勝を狙い、40ポイント台の岩永千明騎手(荒尾)、別府真衣騎手(高知)、山本茜騎手(名古屋)らは虎視眈々と逆転優勝を狙っていた。そしてここまで勝利のなかった皆川麻由美騎手(岩手)や下村瑠衣騎手(北海道)も最後の望みを賭けて挑み、6人の騎手はそれぞれの思いを秘めて、決戦の地に乗り込んでいたのだった。
 中でも、この福山ラウンドに並々ならぬ決意を持っていたのが下村騎手だった。今年デビューの18歳。キャリアも浅く、2ラウンドを終わった段階で、上位の5人とはかなり離された6位に甘んじていた。「盛岡と荒尾では全く良い所がなくて、最後に何とか結果を出したかった」という下村騎手は、自ら行動を起こし主催者に電話。福山のコースに慣れるために、レース当日の早朝、調教に乗ることを申し入れていたのだ。数頭に乗ったくらいなのかと思い話を聞くと、実に「12頭に乗りました」というのだから驚く。
 その努力が早くも現れたのが第5戦のアフロディテ賞だ。レースはスタートから行く気を見せた下村騎手が乗るハッピーリボンが内枠を利してハナに立ち、別府騎手のポッカポカが2番手。1番人気となった皆川騎手のギータが1コーナーを最後方で回る波乱を予感させる展開。そして3コーナー手前、気合を入れられたハッピーリボンはコーナリングもスムーズに回り直線へ。下村騎手が追い出すと、馬もそれに応えて後続を引き離し1着でゴールイン。下村騎手がLJS初勝利を掴んだ。
 「レース前、調教師から、ハナに行ったら良いところがあると聞いていたので、何がなんでも逃げるつもりだったんです。道中は馬に『お願いします、お願いします』と言って乗っていました。直線に入り、迫ってくる先輩騎手達の顔が見えて、もう一度馬に、『お願いします』と言ったら、また伸びてくれました。馬の力で勝たせていただきましたね」と下村騎手は謙虚に語ったが、コーナリングのスムーズさなどには、調教に乗って福山のコースの感覚を掴んでいた彼女のアドバンテージが、存分に現れていたように感じた。
 下村騎手の逃げ切り勝ちで終わった第5戦の結果を受けても、上位は山本騎手、岩永騎手、増澤騎手、別府騎手が50ポイント台でひしめき合う大接戦の構図は変わらず、注目の総合優勝争いはほぼこの4人に絞られていた。
 そして迎えた最終戦のニケ賞。このレースは別府騎手が乗るラドが福山では13戦9勝という戦績から圧倒的な1番人気となっていた。しかし、最後まで何が起こるかわからないのがLJS。ここにも大きなドラマが待っていたのである。
 スタートで別府騎手のラドと下村騎手のセトウチダイヤがダッシュつかず、ラドが最後方からの展開。2戦続けて人気馬が後ろからの展開となり、場内もざわついた。レースが動いたのは2周目の3コーナーを過ぎてから。LJS初優勝を目指す増澤騎手がスパートをかけると、4コーナーで先頭。別府騎手もグングン外から上がって行き、直線、増澤騎手を追うが、ここでまた落ち着いた騎乗を見せたのが、終始、内をロスなく追走していた下村騎手だった。最後は別府騎手と下村騎手の激しい叩き合いとなったが、ハナ差の接戦をものにしたのは下村騎手。「スタート出遅れてしまいましたが、第5戦で勝てて気負いなく乗れていたので、焦らないで追走できました。2ラウンド参加して全然ダメで本当に悔しくて。こんなに悔しい思いをしたのは初めてでした。だから、勝てて本当に嬉しいですね」と話す目頭には光るものがあった。調教効果をいかんなく発揮し、2連勝で福山ラウンド優勝を決めた下村騎手。自分で扉を開けに行って手にした勲章は、今後の騎手人生にとって、大きな自信となることだろう。
 一方、「負けてる〜」と言いながら悔しそうな表情で戻ってきた別府騎手は第6戦で勝てなかったことで、総合優勝を逃したと思っていたらしい。その注目の優勝争いは、全てのレースが終わって別府騎手と山本騎手が65ポイントで並んだが、同点の場合、より上位の着順を得た者を優先し、これによっても差がない場合は最終戦の着順が上位の者を優先するというルールの下、別府騎手の優勝が決まった。結果を聞いた瞬間、別府騎手は、「うっそ〜!本当に!やったあ!!」と喜びを爆発させ、「福山は高知に続いて乗る機会が多い競馬場。ファンの皆さんの声援も多かったので優勝できて嬉しいですね」とコメント。2008年以来、2度目の優勝を果たしたその笑顔は充実感で輝いていた。

総合 優勝
福山ラウンド 3位

別府真衣騎手
  第6戦で負けたのは悔しかったですが、それでも総合優勝できて本当に嬉しいです。福山は地元高知に続いて乗る機会が多い競馬場。今日もたくさんの声援をいただけたので励みになりました。今はソウルで騎乗していますが、最近はより落ちついて乗れるようになってきていますよ。日本に帰ってきたら、また福山で乗りたいので応援お願いします。  
総合 2位
福山ラウンド 2位
山本茜騎手
  同ポイントの2位。今年は日本でも韓国でも大きなレースで悔しい2着が多くて、改めて‘2着’の一年だったなと思います。たぶん、自分に何かが足りないからでしょうね。来年は悔しい2着ではなく、嬉しい1着をとれるように、この悔しさをバネに頑張ります。LJSが今回で休止になるのは寂しいですが、女性騎手が復帰したり増えてくれば、またできると思うのでそれを楽しみにしています。
 
総合 3位
増澤由貴子騎手
  是非、LJS初優勝を狙いたかったので、とても残念です。福山競馬場は初めて乗りましたが、乗りやすかったですよ。LJSが休止になってしまうのは残念です。またやってほしいです。  
福山ラウンド優勝
下村瑠衣騎手
  福山ラウンドを優勝できたことは、ただただ嬉しいです。この勝利を早くお父さん、お母さんに報告したいです。母は私が1勝すると号泣するので、今頃すでに号泣していると思います(笑)。LJSは初めてでしたが凄く悔しい思いを経験して、少しは勝負師っぽくなれたかなと思います。韓国で騎乗している山本騎手や別府騎手を始めとする先輩方と一緒に乗れることで凄く勉強になりました。LJSが復活したら総合優勝したいですね。来年からはまた、地元の北海道で頑張ります。
 こうして、LJS2011は華麗なる激戦の末に幕を下ろしたが、一抹の寂しさを感じさせるは、やはり今年度で休止になるからだろう。06年のシリーズ開始から参戦してきた山本騎手、別府騎手、増澤騎手は、一様に、「休止はとても残念」と口にしていた。女性騎手の中には、このシリーズに出場するために1年間頑張ってきている人も多かったと聞くし、これをバネにしさらなる成長を遂げたていった騎手も多かった。現に今回の下村騎手がその典型で、第1ラウンドの盛岡では「緊張しているうちに終わってしまった」と話していた彼女が、今回の福山では、「出遅れても焦らず乗れました」となるまでの急成長を見せたのである。騎乗機会を確保しにくい傾向にある女性騎手にとって、LJSが持つ意義はとても大きかった。そして私達ファンも、それを見守り応援する楽しさがあった。
 「私達のレースを見て女性騎手を目指す人が増えてくれたらいいですよね。そのためにも是非、復活してほしいです」と別府騎手。これは全ての女性騎手が考えていることではないだろうか。LJSが再び行われる日を、心から待ちたいと思う。
取材・文:小島友実
写真:桂伸也(いちかんぽ)、NAR