レースハイライト タイトル
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2012年2月19日(日) JRA東京競馬場 ダート1600m

鋭い末脚で歴代王者を完封
3歳ダート王が久々のGT奪取

 船橋から参戦したフリオーソが、絶望的な位置から猛烈な伸び脚で2着に入る感動の走りをみせてから早1年。今年も同じ川島正行厩舎からナイキマドリードが参戦した。しかしながら装鞍を終えてパドックに来た川島調教師は、「いやあ、今年のメンバーは強いねえ」。そう言い残して、前走の船橋記念で勝利の手綱をとった川島正太郎騎手と一緒にパドックのなかに向かっていった。
 そのナイキマドリードの単勝人気は16頭中の13番目。今年のフェブラリーステークスGTは上位人気と中位そして下位人気がハッキリ分かれるオッズ構成となっていた。
 単勝10倍未満に支持された3頭のうち、抜けた人気を集めていたのが昨年の覇者、トランセンド。ドバイワールドカップGTへの招待状を早々に受け取っているのならば、ここは壮行レースになるはず、というファンの期待が、単勝1.5倍という数字に表れたのは無理からぬところだろう。
 しかしながら、トランセンドの独壇場にはさせまいという陣営も多数。ワンダーアキュートは東京大賞典でスマートファルコンに3.5センチ差まで迫った自信を胸に、腰回りをさらにボリュームアップさせて堂々と周回。一昨年の覇者であるエスポワールシチーは武豊騎手を鞍上に迎え、落ち着いた表情でスムーズな脚さばきを見せていた。さらに芝のGTを制して今回が初ダートとなるグランプリボスも不気味に映る。そういった強敵をトランセンドはどうやって封じるのか。さらには同じ先行タイプの馬をどうさばいていくのか。興味が尽きないなかでゲートが開いてからのレース展開は、さすがGTだけあって厳しいものだった。
 セイクリムズンが勢いよく飛び出して、トウショウカズン、グランプリボスもダッシュ力を効かす。2〜3番手マークが定位置のエスポワールシチーでも5〜6番手までが精一杯というハイペースは、トランセンドにとって苦しいものとなる。しかもスタート後にはいつもの行き脚がなく、藤田伸二騎手が押して押してようやく4番手につけられたという状況。そんな激しい流れになれば、末脚の鋭いタイプががぜん有利になってくる。
 それを味方につけたのが、テスタマッタとシルクフォーチュン。テスタマッタ鞍上の岩田康誠騎手は、道中は後方3番手で上体を浮かせながら行かせまいと奮闘。シルクフォーチュンはいつもどおりの位置取りで、最後の爆発力を温存していた。
 そして501メートルの直線勝負。岩田騎手は4コーナーを回り終えるや否や、浮かせていた体をグッと沈めた。その先は左ムチを使って激励しながら2馬身突き抜ける圧勝。瞬発力に賭けたシルクフォーチュンも2着まで上昇して、今年のフェブラリーステークスは追い込み2頭のワンツーフィニッシュとなった。トランセンドはまさかの7着、ナイキマドリードは残念ながら最下位での入線だった。
 「今までくやしい思いばかりしてきましたから、本当にうれしいです」と、感無量の表情でテスタマッタを出迎えた村山明調教師。村山調教師はテスタマッタの掛かる気性を押さえ込まず、体が完成されてくるまで無理はしないように、と考えながら育ててきたそうだ。「ずっと手綱を引っ張りっぱなしでキツかったです」と振り返ったのは岩田騎手。同じような末脚で3年前のジャパンダートダービーJpnTを制したときの鞍上もまた、岩田騎手だった。
 「ゴドルフィンマイルにはおそらく招待されると思いますが、もっと大きいレース(ドバイワールドカップ)に出たいですよね」と相好を崩した村山調教師。次の舞台はどこになるのか、本当に楽しみになってきた。
 一方、7着に敗れたトランセンド。安田翔伍調教助手は「検量に帰ってきたら、もう息遣いが元に戻っていましたよ。今回は全然走っていませんね」と。同馬を管理する安田隆行調教師からは、次は予定通りドバイワールドカップに向かうとの表明があった。
岩田康誠騎手
村山明調教師
後方から一気に突き抜けたテスタマッタ(橙帽)
会心の騎乗にガッツポーズの岩田騎手
 さて、テスタマッタが次の大舞台に出走するためには、主催者からの招待状が必要だ。それが届けば、ドバイの地でスマートファルコンを含めた日本のダート界の頂上決戦となる可能性が高くなる。
 村山調教師が開業前にノーザンファームを訪問した際、「レンタカーで最初に着いた厩舎で、最初に目が合った馬」というのがテスタマッタ。“運命の馬”が獲得したGTタイトルは、3月31日の深夜に異国の地で行われる大舞台につながる期待感、さらには帝王賞JpnTを頂点とする春のダートグレード戦線への興味まで喚起させる勝利となった。
GTの大舞台に参戦も残念ながら最下位に敗れた
ナイキマドリード

取材・文:浅野靖典
写真:いちかんぽ(森澤志津雄、川村章子)、NAR