Web Fulongトップページレースハイライト特集クローズアップ連載サイトマップ
ダービーウイーク特集

ダービーウイーク特集

 3歳馬に課せられた至上命題=ダービー馬の称号

 全国各地の6競馬場(佐賀・盛岡・門別・大井・姫路・名古屋)で行われる“ダービー”競走を6日間連続で短期集中施行する夢のような一週間、それが「ダービーウイーク(Derby Week)」(創設2006年)。

 この一週間で勝利を掴む各地のダービー馬は、全国3歳馬のダート頂上決戦「ジャパンダートダービーJpnI(大井・7/14)」出走に向け、大きなアドバンテージが得られる、いわば「甲子園方式」のシリーズレース。

 前年秋の「未来優駿」シリーズを皮切りに、一世代でしのぎを削る熱き戦いは、集大成への大きな山場を迎え、まさに群雄割拠。この戦国ダービーを制し、競馬場という舞台にこだまする勝どきを挙げる6頭をお見逃しなく!


2010年ダービーウイークの総括はこちらです。

※下の“タブ”をクリックするとご覧になりたいレースの記事に切り替わります。
5/30 九州ダービー5/31 岩手ダービー6/1 北海優駿6/2 東京ダービー6/3 兵庫ダービー6/4 東海ダービー
岩手ダービー北海優駿(ダービー) 競走成績Movie東京ダービー

ダービー馬はダービー馬から、ロマンをかなえて2冠達成

 夜8時30分発走の北海優駿(ダービー)。その2時間前、門別競馬場から10キロほど北のむかわ町では、南国のスコールを思わせるほどの豪雨に見舞われていた。しかし競馬の神様はその黒い雨雲を競馬場に寄せ付けず、馬場コンディションは絶好の良。気温は14度だったが、場内にはそれを感じさせないほどの熱気があった。
 地方全国交流として行われる北海優駿には、南関東から3頭の遠征馬が出走してきた。まず、遠征勢と地元勢との比較が大きなテーマとなったが、パドックを囲んだ人々からは遠征勢を評価する声が多く聞かれた。門別競馬場に集う人のなかには馬で生活している人も多数。ある意味それは、プロの目からみた評価といってもいいかもしれない。
 しかし単勝の人気は、地元のクラキンコがやや抜けていた。父は2000年に北海優駿を制覇したクラキングオー。母も1994年にこのレースを制したクラシャトル。両親が北海優駿優勝馬という血をもつ馬が出走すること自体、奇跡に近いことだろう。場内の放送でもその話題には何度か触れていたし、ファンの気持ちもおそらく同じ。本馬場入場時には2倍台だった単勝オッズは、締め切り間際には1倍台に突入していた。
 しかしクラキンコが過去に勝利したのは1400メートルまで。まして今回は一冠目の北斗盃から800メートルの距離延長である。それでも地元のエースに期待する想いは、その不安を上回っていたようだ。
 そしてゲートオープン。プリモエナジーが外枠から先手を主張して作りだしたスローの流れに乗って、川崎のエクセルチェイサーが2番手に。クラキンコは宮崎光行騎手がガッチリ手綱を押さえて3番手をキープした。2番人気に支持された船橋のリュウノボーイは後方から徐々に進出していったが、クラキンコの手応えはそれ以上。直線の入口では先頭に立ち、そのまま押し切る強い勝ち方を披露することになったのである。
 「ダービー馬は、ダービー馬から」というロマンを現実にしたのは、オーナーブリーダーの倉見牧場。門別競馬場から車で15分ほどの場所にある、道営所属馬を中心に所有している牧場だ。
宮崎光行騎手
自分もクラキンコには初めて乗るし、馬もこの距離は初めてだし、周囲からは「血のドラマ」とか言われるし(笑)。実際、かなりのプレッシャーがありましたよ。レース前は折り合いだけに気をつければと思っていましたが、道中はイメージより前での競馬。でも4コーナーでの勢いは抜群でしたね。先頭に立つのは早めでしたが、この手応えなら勝てると思いました。
堂山芳則調教師
距離はもつだろうとは思っていましたが、やはり初めてですからね。勝つなら強い勝ち方、負けるなら大敗だろうと考えていました。でも(1200メートルの)北斗盃のあとの1カ月で2000メートルに対応させるための調教を積みましたからね。(1800メートルの)トライアル戦を使う必要はないと判断しました。ただ、乗替りがあるとゲートがいまひとつという傾向があるのが心配だったんですよ。そのことは宮崎騎手には黙っていましたが(笑)、問題がなくてよかったです。

 馬主の倉見利弘さんは、「実際にこんな血統の馬を誕生させて、そしてここまで走ってくれるとは……。生まれた当時はまったく想像していませんでした。本当によかった……」と、感無量の表情。この日は10年前に使用した同馬の父、クラキングオーの応援幕を押し入れから出してきて、そこに「の仔」という文字を追加してパドックに掲出したそうだ。
 そしてレース後のウイナーズサークルも笑顔に包まれた。それは、馬産地競馬の矜持を保つことができたという部分も大きかったのだろう。2着から4着までを占めた南関東所属馬を抑えてクラキンコが掴んだ1着という結果は、「競馬ロマン」以上の意味があったのかもしれない。

取材・文:浅野靖典
写真:三戸森弘康(いちかんぽ)

footer