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2010年3月28日(日) 帯広競馬場

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ゴール前3頭の接戦も、名手の冷静な手綱さばきで戴冠

 ばんえい記念前日の帯広市内。夕方までは道路も乾いていたのだが、日が暮れる頃から雪が激しくなってきた。街頭の気温表示板には「−4度」の表示。夜半過ぎにその雪はおさまったものの、道路はすっかり白くなっていた。
 明けて3月28日。気温は相変わらず低いままだったが、空からは春の太陽光線が降り注ぐ競馬日和。テレビの天気予報で「晴のち雪」となっていたのは気がかりだったが、ともかく陽光のもとでのスタート。第1レースの発走前だというのに、普段はあまり利用されない第2駐車場に車の姿があったのも、この日がばんえい競馬にとって特別な日であることを印象づけた。
 さっそく場内に入ってみると、やはりいつもとは違う盛況ぶり。「いつもこのくらい入ればいいのになあ」とは、普段からここに通う地元の人。その熱気がレースの進行とともに上昇していくことが、肌身をとおして感じられた。
 そしていよいよ、第11レースのばんえい記念。パドックを囲む人垣はこれまでよりも一層厚みを増し、後ろのほうからでは背伸びをしても馬の姿があまり見えないほど。トモエパワーの4連覇はなるのか、それとも昨年2着のカネサブラックが雪辱を果たすのか……。この2頭の馬連複オッズは1倍台と圧倒的に人気が集中するなかで、第42回ばんえい記念のゲートは勢いよく開いた。
 優勝タイムが5分前後だった前2年のようにはならないだろうというのが、戦前の大方の予想。しかし天気予報は外れ、馬場水分の数字は時とともに小さくなっていった。それとともに、馬場はスピードよりパワー優先に変貌していったようだ。後半のレースでは、首位争いを演じながらゴールライン上で止まってしまう馬もいた。その馬場状態が影響したのか、第1障害でさえ各馬にとっては難関に。フクイズミは第1障害の頂上付近でひざまずき、このレースが得意であるはずのトモエパワーですら、かなりの時間を要した。いきなり力が入るなかで、第1障害はナリタボブサップ、カネサブラック、ニシキダイジンの順に通過。とはいえ、カネサブラックもよろけながらの山越えという状況ではあった。
 それでも徐々に隊列はダンゴ状態に。各馬が大きく息を吐きながら第2障害の下でタイミングを整えているそのとき、先に登坂を開始したのはニシキダイジンだった。続いて人気2頭も最大の難関に挑戦していく。しかしその2頭が頂上への道に難儀しているころ、ニシキダイジンはすでに山を駆け下りていた。
 息を入れながらゴールを目指すニシキダイジンをめがけて、跳ぶように坂を下りたカネサブラックが追いついてきた。その2頭に、パドックからヤル気を見せていたナリタボブサップが追いついて、一気に先頭を奪っていく。

 
藤野俊一騎手
  ばんえい記念に向けての調教をしてきましたが、馬の調子はすごくよさそうでしたね。第2障害の最初のひと腰で思っていたよりも上がったので、これならチャンスと思いました。最後はカネサブラックに並ばれましたが、ゴールまで止まらないで行ければ勝てると思って追いました。  
 
金田勇調教師
 
  ばんえい記念を目標にした調教を積んできて、今年は上位争いができそうだなという感触はありました。レースでは第1障害をスムーズに抜けられたのが大きかったですね。大舞台に強い騎手の腕も生きた感じがします。ばんえい記念を勝つとこんなにうれしいものなんですね。また来年も勝てるようにがんばります。

 
 

 ナリタボブサップの勢いは、ゴールまで続くのかと思わせるほどのもの。しかしそこは普段のレースとは違う高重量戦。ナリタボブサップに蓄積する乳酸は、休まず進むことを許さなかった。その様子をしっかり目に入れていたのが、ニシキダイジンの手綱をとる藤野俊一騎手。藤野騎手は今年の出場騎手10名のなかで唯一の、ばんえい記念優勝経験騎手でもある。
 「あのままボブサップに行かれたらしょうがないけれど、一度止まったら何度も止まるはずと思いましたから」
 その冷静な判断は、ニシキダイジンを焦らさないことにもつながった。ゴール手前30メートル付近で大きく息を入れて、そのあとはノンストップ。最後は懸命に追いすがるカネサブラックをわずか1秒7、振り切ることに成功したのである。
 「ばんえい記念は、ばんえい記念の勝利を知っている騎手が有利」
 ニシキダイジンのオーナーは、チャンス大と踏んだこの一戦の手綱を、ばんえい記念4勝の実績を誇る藤野騎手に託した。そしてその期待にみごと応えたのだから、このレースを勝つためには経験をもとにした高度な技術と判断力が必要ということなのだろう。
 しかし、2着のカネサブラック、3着のナリタボブサップとの着差はわずか。ニシキダイジンは政権交代こそ果たしたが、上位の馬との実力が拮抗していることは明らか。ばんえい記念は1993年以降、一度勝利した馬は複数回勝利している。この勝利を自信に変えて来年も栄光を手に入れられるのか。9歳馬の挑戦はまだまだ続いていく。

取材・文:浅野靖典
写真:森澤志津雄(いちかんぽ)